9 最初の一泊
「それで地図通りの場所についたけれど、どうするの?
今いるのは、東ジプサンドの東北側。国境まであと4
「今日はここで休憩」
確かにそれが正しいだろう。
「確かに夜中行っても関所は開いていないし、行ったら不審者よね。それに魔力も結構使ったし。でもどうやって休むの? 道と森しかないけれど」
私達は魔女だ。石畳の道に横になって眠っても、魔獣が襲ってくることはない。
野生の獣や魔獣なら私達強さを本能的に察するから。近づいてすら来ないだろうと思う。
しかしそんな寝方では、正直寝れない。石畳は硬いし、服も汚れる。
おそらくマイナは、野営装備くらいは準備している。そう思うのだけれど、どうだろう。
「少し道から離れる」
マイナが歩き始めた。5
下草が自動的に左右に傾き、少しだけ歩きやすくなる中を、私はマイナの後に続いて歩く。
道から10
「其は癒し、
目の前に魔力で出来た面が出現した。魔法使い以外には見えないだろうけれど、私にはわかる。
「これは?」
「人間が入れる
えっ!?
「人間が、入れる、
おもわず聞き返してしまう。
「そう」
マイナはそう返答して、魔力で出来た面へと足を進めた。そしてそのまま面の中へと消える。
どういう事だ。私はわからないまま、マイナの後を追う。
面を通過した直後、周囲の風景が変わった。
壁と天井が白い空間、20
窓は無いが灯火魔法らしきものが発動していて、空間内部を見るには困らない。
あと、扉もない。先程通った魔力で出来た面は、少なくとも今はこの部屋の何処にも見当たらない。
「ここなら安全」
何が起こったのかはわかった。それでも理解が追いつかない。
「これが人が入れる
「そう」
「そんな
「『生の魔女』特製」
私はこれでも魔法使いの頂点、魔女。それでもこの場所は、魔法的に理解不能だ。
まあ、それはこの際おいておくしかないだろう。
理解不能でも、存在しているのは間違いないから。
しかし私は他に、この空間に対して許せない点がある。
この白い空間、荒れているのだ。
本や書類、服、空いた瓶などで溢れていて、足の踏み場がない。
こんな中では、落ち着いて眠れない!
「この部屋、片付けていい?」
マイナが、びくっと身体を震わせた。
「今日は疲れた。後じゃ……駄目?」
いや、駄目だ。
「こんな散らかった場所では、落ち着いて眠れないわ」
「……明日から頑張る」
マイナのその言葉がどれくらい信用出来るか、私は今までの生活でよく知っている。
「駄目。どうせ今後も使うなら、最初に片づけた方がいいでしょ」
さしあたっては、床に散らばっているものの
王城時代に何度も繰り返されたのと同様の、片づけと掃除の時間が始まる。
◇◇◇
掃除と整理整頓で、とりあえず程度に片付いた
疲れているせいか、何度か私は目を覚ました。
しかしこの
それでもぐっすり寝ているマイナを起こすのは気が引ける。
だから二回目に起きた時までは、私は何も言わずに再び寝ようと試みた。
しかし三回目に起きたところで、いい加減遅いと感じた。
なのでまだ寝ているマイナに、声をかけたのだ。
「朝はまだ、もう少し」
マイナは布団をかぶったまま、そう返答した。
しかし私の身体感覚は、とっくに朝を過ぎていると訴えている。
なのでマイナを強引に起こして、外への出口を開けさせたのだ。
結果、外界はもう明るく、朝という雰囲気でもない。
太陽や星の位置から時間を求める魔法『測時』を起動した結果、昼過ぎである事が判明した訳だ。
「これじゃ急がないと、今日中に国境を越えられないわ」
「了承。あとそろそろ関所対策を変えておこう」
「確かにその方がいいわね。『此れは魔法、変装、魔力隠蔽』」
私は瞳、髪ともに焦げ茶色に設定する。ヴィクター王国では最もありふれた色だ。
マイナも同じ色に設定したようだ。
更に魔力を中級魔法使い以下に偽装して、関所対策は完了。
いや、マイナの作ったシナリオをまだ聞いていないか。
「それで関所では、どう答えればいい?」
「ストレは黙っていていい。私が全て返答する。設定はこれ」
マイナは『設定書』と書かれたメモを私に渡す。
『出身:ヴィクター王国ブライアクルン子爵領アーデン
家族:姉ミーア(18)と妹ストリア(11)の2名
経緯:アーデンに一家4人で暮らす農家だったが、父イノックが兵役に取られて未帰還、母エレンは過労により病死。税金も払えない状況。
なおミーアは治療魔法持ちで、ストリアも治療魔法の初歩が使える。ただしヴィクター王国では治療は奉仕活動であり、国にこき使われるだけで金銭を得る事が出来ない。
故に脱国し、景気が良さそうなルレセン国を目指すことにした』
なお『設定書』には更に細かい、普段の暮らしぶりや住んでいた村の状況等についてまで記載されていた。
何というか、まめというか……
「随分細かいところまで作ってあるのね、これ」
「準備として必要」
本当だろうか。
設定が必要なのは確かかもしれないが、ここまで細かく作る必要はない気がする。
おそらく半分以上は、マイナが趣味で作ったのではないだろうか。
そんな事を思いつつ、『設定書』の紙片を
こうしておけば必要な時、
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