7 呪い

 マイナの宣言は、更に続いている。


「愚かな国王イーグックは、再び勝ち目のない戦争を起こそうと企てた。そこで我、『生の魔女』マイナは、愚かな国王及びその家臣を縛り、呪うことを宣告する。積極的侵略に対する防衛以外で戦争を起こそうと企て行動した場合、早急にその身に呪いが生じると心得よ。この宣告が虚言でないことの証しは、早急に愚かな国王の頭上に現れるだろう」


 宣言が終わり、魔法が発動する。

 魔女の持つ強大な魔力に物をいわせ、この国全土へ向けて広がっていった。


 この魔法形式、私は使用した事がないけれど、知識としては知っている。

 条件を満たした時に発動する、条件魔法。国民を縛っている『宣誓の魔法』と同種の魔法だ。


 この宣言なら『戦争を起こそうと企て行動した』のが条件で、『早急にその身に呪いが生じる』が発動内容になる。

 ただしこれだけでは、具体的な発動内容や国王の頭上に現れる証しはわからない。

 ここは直接聞いておこう。


「どんな呪いでどんな証が出るか、聞いていい?」


 マイナは頷いた。


「証しは髪の脱毛。国王イーグックの髪は抜けて二度と生えない。呪いは病気。戦争を企て行動を起こした者は、その行動が取り消されない限り、ある成分が体内に取り込まれなくなる。結果、足のしびれ、むくみから始まり、全身がむくんだ後、血液を流す機能が衰え死亡する」


 説明を聞いて、何に病気かを理解した。

 十数年前、やはりルイタ島に出兵した際に、多数の兵が発病した病気だ。


 なるほど、兵の苦しみを味わえという事か。

 なかなか正しい呪いだとストレは思うけれど、やっぱり疑問が生じてしまう。


「呪いそのものは正しいと思うわ。しかし、呪いを解除するため、国王がマイナを狙うなんて事にならない?」


 マイナは頷く。


「それが狙い。現王は愚か者故、敵を作って攻撃しようとする衝動を止められない。戦争の企てもその一環。故に敵をルイタ島ではなく私に固定した。私を敵として認識し攻撃を企てている間は、他の愚かな試みの発生を防げる」


 理屈はわかる。しかしそれでは……


「そうなるとマイナと私は、ずっと追っ手に狙われる事になるよね」


「私は『生の魔女』。自ら死を希求するか、格上の魔女によって意思を抹消させられない限り死なない。ストレには生の祝福をかけてある。私の魔力が無くなるか私自身が消滅するかしない限り、怪我ひとつする事はない」


 この言葉通り、彼女は先程の戦いで、黒焦げからあっさり復活した。

 あと私にかけた祝福というのも、覚えがある。かなり昔、まだ魔女になる前にかけられた気がするのだ。

 でも実際にこの祝福の効果を試すような機会は、今のところ訪れていない。私の認識と記憶が確かならだけれど。


 つまりマイナも私も害される事はない。

 しかし捜索され、見つかると狙われるのは避けられない訳だ。

 これってかなり、面倒臭い事態だと思う。


「理由はわかったけれど、微妙に気が休まらない日々が続きそうね」


「他国まで遠見が出来る魔法使いは、ヴィクター王国にはニラメルだけ。あの子はおそらく、そんな事はしない。また私達がいない状態では、戦力の要となるニラメルとティリカを国外に出すこともできない。

 故に愚かな国王が出来るのは、中級魔法使い程度の追っ手を出すことだけ。なら万が一追っ手に出会ったとしても、髪色と体型、通常魔力を変えれば充分」


 言いたい事はわかる。


「中級程度の魔法使いでは、私達を私達と見破ることは出来ない。出来るのは魔女か、それに近しい能力を持つ者だけ。だから問題はないって事ね」


「その通り」


 マイナは頷いた。

 ならこの件については、これでいいだろう。

 次、私達の目的地についてだ。


「それじゃ、次はどうする? この国からは早急に出た方がいいよね」


 どうせマイナの事だから、既にあれこれ検討済みなのだろう。

 だからここで私自身の意見をあれこれ言うより、聞いてしまった方が早い。

 マイナは頷いた。


「近いのはルレセン国かカーラウィーラ国。ただ状況を考えるとルレセン国が無難。北東に250ケムkmで国境を越えられる」


 ヴィクター王国の北東にあるのがルレセン国、西にあるのがカーラヴィーラ国。

 ただヴィクター王国とカーラヴィーラ国は、国境を巡ってしばしば小競り合いを繰り返している。

 結果、国境付近は厳重に警戒中だ。


 一方、ルレセン国とヴィクター王国との間は、少なくともそういった問題はない。

 ルレセン国の国力が圧倒的に上で、かつルレセン側が争う気が無いというのが理由だろうけれども。


 妥当な結論だと思う。

 ただし一つ、不安な事項があるとすれば……

 

「ルレセン国って、確か『光の魔女』ルクスが統治しているのよね。私達他国の魔女が入っても大丈夫かしら」


「脱走した以上、ヴィクター王国の者ではない。無国籍」


 確かにマイナが言う通りではある。でもそれを向こうはわかってくれるだろうか。私は不安だ。

 でも他に何処に行くという案はない。


 そもそもヴィクター王国は、他国の情報が入りにくいのだ。

 一部の商人や役人以外は、決められた居住、就労地域から外に出られない。

 更には商人そのものも出入りが少ないし、本や新規情報なんて、国境際からの監視情報くらいしかないのだ。


 強いて言えば、ニラメル配下のアニスとかエリア辺りは、他国で情報収集をしていたりする。

 ただあの辺の任務は魔法騎士団というより、国王とかドミナ側から下りてくるものが多い。

 報告もあっち側へ直通だから、私の元へは入らない。


 つまり私としては、判断材料はもう無い訳だ。

 だから取り敢えずルレセン国に向かって、駄目なら他の国に行くしかないだろう。

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