12





「……にしても、天気持ちましたよね。ギリ」



「……ほんとギリだね。

お花見日和と言うには、程遠いよ」



「なーんか、この時期って雨多くないっすか?

これからお花見シーズンやで、ってときに限って」



「嗚呼、この分厚い雲……

まるで、今の私の心を映しているかのようだわ……」



「いやいや。先輩にアンニュイは無理っすよ」



「あ、ムカつきそう」



「予想の段階ならセーフですね」



「……そもそも、誰の所為だかわかってる?」



「なんでよ。俺はただ、注意してあげただけやん。

先輩が勘違いして、誤った道を目指さんように」



「その話はもういいんだよ。

今は、神崎くんが私に着いて来ている現状に言及してるの。

この程度の買い足し、絶対一人で良かったもん」



「だからー。それこそ、先輩が道に迷わんように導いてあげてるんやん」



「会場から目視できる程の激近コンビニ、どうやったら迷子になるのよ」



「何があるかわからんからね」



「あー……もう。ほんと恥ずかしい。

大勢の前で、あんなこと言われて……」



「もしかして、まだ怒ってんすか?

先輩がこの前の会議で『スクロール』のこと、終始『ストローク』って言うてたんバラしたこと」



「そっちじゃな……いや、それもだけど!」



「それか『先輩だけやと、年確年齢確認で捕まって買い出しどころやない』って言うたこと?」



「そうだよ!!!私、完全に笑い者だったじゃん」



「でも実際されてたでしょ。先輩だけやったら」



「され……るけど!

普通にクリアできるよ、証明書あるんだから。

っていうかそれ、遠回しに身長のこと揶揄やゆしてない?」



「してませんよ、"遠回し"なんて。

邪推やめてください」



「……邪はどっちよ」



「いやー、みんなオモロかったっすね。

『行ってこい、全力で行ってこい!』やって」



「ってか。そんな全力で行きたかったなら『代わりに自分が行きます』くらい言ってくれれば良かったのに。

変なこと言うから、居た堪れなくて一緒に出る羽目になったんだよ」



「俺だけじゃ、持ちきれんと思ったねんもん」



「……缶3本なのに?」



「一人じゃボールペンしか持てないんで」



「大嘘付き。結局、全部持ってくれてるし。

もー……これじゃ私、ただの役立たずだよ。

絶対、なんか言われちゃう……戻るの勇気いるなぁ」



「……ほな、遠回りします?」



「いやダメでしょ。この缶、どうするのよ」



「走って届けてきます」



「いや、それこそ私が来た意味。

いいよもう。覚悟決めて戻るから」



「えー……」



「何。文句?」



「違う。

でも、こんな時に切れるカードが、俺にはナイ」



「……かーど?

あ。もしかして、トランプしたいとか?

私、大富豪得意だよ」



「どんな発想……いや。うん。

良いっすね、トランプ。買いに行こ」



「じゃあ、お店戻って……」



「そこのコンビニには無かったっすよ」



「え、見たの?さっき?嘘でしょ?

今時のコンビニ、置いてるとこもあるよ」



「いや、ここのコンビニにはナイ。500%ナイ。

やから向こうの100均いこ」



「遠いじゃん!」



「図らずも遠回りやね」



「だから。この缶どうするのって」



「走って届けてくるから、ここで待っててください」



「えっ?あ、ちょっと!!

そこまでする必要あるーーーー!?

…………って全然聞いてないし。

なんであんな楽しそうなんだ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る