恋と多彩な日々

えぬ

第1話

 ―――2027年3月。


「集合、19時だっけ」


 そう言いながら腕時計を確認するさく。その金色の髪が夕方の日差しに当たって宝石みたいにキラキラ輝いていた。


「……?りょう?」


 朔の視線が腕時計から返答がない俺に移る。


「……あ、ああ。ゆいは少し遅れるって。バイト忙しいっぽい」


 見惚れてたのが恥ずかしくてそう答えながら慌てて顔をスマホに向ける。

 チャットアプリを開き、つい数分前に【A組】のグループチャットに来ていた『ごめん、バイトがまだ終わらなくて店に着くの19時過ぎると思う』という唯からのメッセージに『了解。バイト頑張って』と返信した。

 チャット内では俺の返信のすぐ後に『わかった〜気をつけてきてね〜!』と亜希あきからの返信とサヤからの『頑張れ!!』スタンプが続いて送られてきた。


「そっか。B組メンバーは特に連絡ないから今のところ全員19時に集合出来ると思う」


「良かった、全員揃うのなんて卒業式以来だよな。しかも今日は先生達も来てくれるんだろ?」


「そうだな……っていうか今日の店決めたの荒木あらき先生だしな」


 朔の言葉に『いいか、この世で1番美味いのはビールと焼き鳥だ!』とよく熱弁していた荒木先生を思い出す。


「荒木先生イチオシの焼き鳥が食べれる居酒屋だろ?」


「そう。電話した時も焼き鳥の美味しさを熱弁してた」


「隣で一誠いっせい先生呆れ顔してそう」


「電話越しに一誠先生のため息も聞こえた」


 荒木先生と一誠先生の当時の掛け合いを思い出しながら2人で笑い合う。


「………………なんか、あっという間だったな」


 卒業してから1年。朔やみんなと出会って2年半。2年半前、転校したてだった自分には想像も出来なかった未来が当たり前にある現実に今でも時々信じられない気持ちになる。


「その台詞を言うのはまだ早くないか?まだみんなにも会ってないんだし」


 そう言って「俺たちもそろそろ行こうか」と朔はスッと右手を差し出した。


「…………うん」


 朔のあおい瞳に自分が映っていることを嬉しく思いながら俺はぎゅっとその手を握り返した。

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