「密室」の出現
妃殿下から説明された時から、この問題は判明していたのよね。それはつまり――
「
キスパ様が代表して驚いてくれたけど、つまりはそういう事だ。
色々調べてみても、ルティス様がおられた四阿に近付いた者はないない――そういう結論になってしまうらしい。
……まぁ、それでわかるぐらいなら妃殿下も私に頼むようなことはしなかったと思うんだけど、なんとも不条理を感じる。
自分でわからなかった
「それは確かなことなの?」
セリアス様が頬に手を当てながら、ご確認下さる。
そうね。いい機会だから、整理を兼ねて私の口から説明差し上げよう。
「この段階では、妃殿下がお調べになられたことを伝えるだけになるんですが――まず、実際に書置きを四阿に持って行ったのは女官や侍女になるだろうという推測がまずあります」
先の候補者である二人の令嬢が、自ら四阿に赴いて書置きを残してくる、というのは身分的には考え難く、事実上不可能と考えても良いだろう。
主催者が催しから長時間姿を消すというのは考えにくい……らしい。
「あ、でもそれなら」
キスパ様が声を上げる。
そう。そういう事なら催しを主催されなかったラシィ様には、かなりの自由があったことになる。
また、本人もあちこちに顔を出していたと聞くし、その合間に四阿に行く、なんてことも考えやすい。
そこまで先回りして私が説明するとキスパ様としても異論がないご様子で、ソファーに身体を預け直して、鷹揚に頷いた。
だけど、それでも問題があるのよね。
「実は……四阿に近付くものは誰もいなかった。そういう証言があるんですよ」
それを聞いてキスパ様とセリアス様が同時に眉を顰める。
「そんなもの、一人だけ言ってるだけでは」
「いえ。複数らしいのです」
「でしたら、元々全体を見渡すことが出来なかったのでは?」
セリアス様の疑問は、私も感じた疑問だ。実際にその場におられたセリアス様だから、その辺りは実感できるのかもしれない。
これもまたいい機会だから、セリアス様に確認してみよう。
「その点は私もはっきりしない部分があるんです。妃殿下から、お話を聞くだけでは……そうですね。まず私達が座っていたテーブルがありますよね?」
「え? ええ……」
セリアス様が、戸惑いながらも答えてくれた。
「あのテーブルがある位置を、四阿があった場所と見做します。そうするとキスパ様がお座りになっているソファー。それがグラディオス公爵ご令嬢、リベスフラグスティーヌ様が催されていた懇親会の会場になるわけです。無論屋内なんですが」
四阿があるのが中庭。リベスフラグスティーヌ――スフラ様の会場は、その中庭に沿って配置された大広間。
そういう配置だ。
つまり四阿に向かおうとすれば、リフレ様の大広間の横を進んでゆくしかない。その間に大広間に詰めている女官や侍従、それに侍女たちが誰も気付かないというのは、考えにくいというわけだ。
景色を楽しめるように、大広間の中庭に接する面はほとんどガラスで覆われているらしいからね。
そこで妃殿下が嘘を言う必要はないし、セリアス様の反応から見るに、間違いなくそういった造りみたい。
つまり誰かが四阿に行こうとしていたのなら、まず間違いなく大広間から目撃される。
そういう位置関係のようだ。テーブルとソファーの位置で具体的な位置関係が想像しやすかったのは幸運と考えてもいいだろう。
すると大広間――では無くて、ソファーにいるキスパ様から声が上がった。
「ガラスは低いところまでなかったと思う。ずっと姿勢を低くしていれば、気付かれずに四阿まで辿り着けるはずよね?」
流石、腐っても住人らしいキスパ様のご指摘。ただ、それもダメなのよね。
「お
セリアス様はお気づきになられたようね。
ご自身が出席されていたと仰っておられたし。
私も説明を続けよう。
「キスパ様。次は暖炉の位置をご覧ください。あの位置で行われていたのがローズ様の催しです。こちらもまた屋内ではあるのですけど、テラスが付いていまして、当日も使われていたらしいんですね」
使われていたという事は、当然その場所で仕事をしている者がいる。
酔いを醒ますために出席者がテラスに出ることもあるだろう。セリアス様も「テラスには人がいた」と保証してくれた。
となると……
「テラスから、こちらの
キスパ様が「答え」に辿り着かれた。
そう。当時の中庭は視点を変えた複数の目が見ていたという事になるのよね。困ったことに。
そんな私にとどめを刺すように、キスパ様は続けられた。
「あと
住人が言うからにはそれも間違いないのだろう。噴水やオブジェはあるものの、基本的に視線は通っているようだ。
かと言ってオブジェたちを利用して。テラスからの視線を避けるような動きをすれば、今度は大広間から発見されてしまう。
つまり当時の中庭は、視線によって構築された――「密室」。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます