第20話 すごくデジャブを感じます

「……薄々、そんな気はしてたんだ。楓くんが、急にモテだしたなって」

 

 梨子さんの目からハイライトが消えた。

 うん、この子は一体何を言っているんだ? モテるのなら、中学時代女子に陰口を囁かれたりしないだろ。

 

「落ち着いて梨子さん。何か勘違いしてるみたいだから言っとくけど、ちょっと南嶋先輩と話をすることがあって」

「そ、そうなんだ……ちなみにどんな話?」

「えーと……」


 なんの話?  

 そう言われれば、一体なんの話だろう。僕はこれからカツアゲにでも遭うんじゃないかと思っていたが、そういう雰囲気でもないし……さっき、僕が見た状況から推測するに。


「恋愛関係の話かな」

「っ!」


 ガダンッ! 

 とたんに梨子がイスから崩れ落ちた。


「ちょっ、梨子さん大丈夫!?」

「へ、へーき、だよ?」

「そのわりにはなんか震えてるけど……」


 梨子はフラフラと立ち上がると、「ちょっと酸欠気味みたいだから外の空気吸ってくるね!」と言って、廊下へ出て行った。

 なんだったんだ?


――。


「いいのか? アイツほっといて」

「う~ん、いいんじゃないですかね?」


 梨子が出て行って二人きりになった部室で、僕と南嶋先輩は向きあっていた。

 

 しかし、改めて見てもすごい迫力のある人だ。

 ヤンキーって、ちょっと怖いけどカッコいいと思ってしまうのは僕だけだろうか。バイクの免許とか持ってたりするのかな?

 と、南嶋先輩がスラリと長い足をバンッとテーブルの上に投げる。

 その……太ももが眩しくて目のやり場に困るから、もう少し気を遣って欲しいです。

 ただでさえ丈の短いスカートを履き、足を投げ出している格好だから、危うく見えちゃいけないものが見えそうな感じ……というか、黒のレース生地がちょっと見えてる。


「お前、さっきの見てどう思った?」

「えーと……燐斗って人のこと、好きなのかなと」

「っ! や、やっぱそう思うか……そうか」


 南嶋先輩はしどろもどろにそう答える。


「バレちまったものは仕方がねぇ。このことはゼッテェ他のヤツらにチクんじゃねぇぞ。お前に借りを作っちまうのは癪だが」

「はぁ……」


 借りも何も、他人の恋路をいちいちバラすようなことをするつもりはないけども。


「てかよ、オメェ……なんでさっきからそっぽ向いてんだ? そんなにウチの顔を見たくないか?」

「い、いえ! そういうわけじゃ……」

「じゃあなんだ。言ってみろよ。言っておくが、嘘は嫌いだ。だから正直に言え」

「いやだって、正直に言ったら絶対窓辺の花瓶を投げられるから……」

「はぁ? アホか。いくらウチでもそこまではしねぇよ」


 じゃあ、お言葉に甘えて。

 僕は、チラッと南嶋先輩の方を向いて、


「……パンツが見えちゃうからです」

「……っ!」


 一瞬で赤く沸騰した南嶋先輩が、窓辺にあった花瓶をひっつかむ。


「す、ストーップ! 花瓶はマズいですよぉ!」

「うっせぇ! お前が、は、恥ずかしいこと言うからだろぉが!」

「パンツを堂々と見せてくる人にとやかく言われたくないですよ!」

「ひ、人を痴女みたいに言うなぁ!」


 ――一進一退の攻防の末、ようやく元の位置に落ち着いた僕達は、ゼェゼェと肩で息をしていた。

 ちなみに、花瓶は無事元の位置に戻された。


「そ、それで。僕に何か話があるんじゃなかったんですか?」

「そうだな。随分と脱線しちまったが……お前に秘密を知られた以上、これを好機と捉えるほかないと思った。だから、その……」


 もじもじとした後、意を決したように南嶋先輩は叫んだ。


「う、ウチの恋のキューピッドになってくれ!」


 ――、……うん、デジャブ。


 



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