第14話 そして、彼が好きになる
《朝比奈梨子サイド》
――どうして私は、つくづくこういう場面に遭遇するんだろう。
2人の会話を角で聞いていた私は、そんな風に思っていた。
いや、ちょっとだけ心配だったのだ。
楓が離席したあと、その後を追うように海人が出て行った。
もしかしたら、楓が絡まれているんじゃ……?
そう考えたら、いてもたってもいられなくて飛び出したのだ。
そんな感じで、半ば確信犯的に盗み聞きをしていた私は、海人の本音を聞いて胸がじーんと――
「な、あ……なぁっ!?」
否、それどころではなく、開いた口が塞がらなかった。
その理由は――
――「そういえば、梨子さんからの好意には気付いてたんだろ?」
――「それは、まあ……あれだけわかりやすければ、な」
突如として聞こえてきたそんな台詞。
どういうこと? 私の恋心が最初っから筒抜けだったの!?
待って! 待って待って待って!!
てことは、私だけが気付いてなかったってことに……うぅ、恥ずかしいよぉ!
顔から火が出そうになって、うんうん呻く私。だから、気付かなかった。
「あれ。梨子さん? こんなところで何してるの?」
急に声をかけられ、私はバッと飛び退く。
迂闊だった! いつの間にか話が終わって、用を済ませて帰ってきた楓に見つかった!
「え、あ、その……わ、私もトイレに、ね?? タイミングが被るなんて偶然だなぁ!」
よし、これで言い訳ができた! ほぼ自発的に盗み聞きしてましたなんて、言えるわけが――
「トイレ? 女子トイレって、反対方向だよね? ……ってどうしたの梨子さん!? なんか青白くなってきてるよ!?」
楓の指摘に、血の気が引いていく。
「そ、その……うぅ」
完全に墓穴を掘ってしまい、最早万策尽きた私は、その場にへたり込む。
そんな私を見た楓は、頭の後ろを掻きつつ、
「あのさ。ひょっとして、心配かけちゃった?」
「……え?」
私は思わず顔を上げる。
楓は、困ったような。それでいて、どこか照れくさそうにしていた。
「自意識過剰かもしれないけど、僕がトイレに行ったあと、すぐに飯島くんが来たからさ。それで、一悶着が起きてるかもって、心配して来てくれたのかなって。もしそうなら、ありがとう」
その姿に、私は小さく喉を鳴らした。
ああ。
盗み聞きしたことを怒るでもなく、問い詰めるでもなく。言い訳の必要なんてないくらい、優しい表情で私のことを見てくれている。
そう思ったら、胸の奥が熱くなった。
私は立ち上がると、
「うん、大体そんな感じ。でも、良い感じにまとまったみたいでよかった」
「そうだね。話してみたら、案外良い奴なのかもしれない。だからさ、梨子さんも――」
何かを言いかけた楓に、私は力強く頷き返す。
「私も、ちゃんと仲直りしてくる」
そう言うと、楓は嬉しそうに微笑んで言った。
「うん、それがいい」
――。
楓が先に皆の元に戻ったのを確認し、私は海人を待つ。
楓と別れた後はトイレに入っていったから、もうすぐ出てくるはずだ。
胸に手を当てると、心臓の鼓動がダイレクトに伝わってくる。
けれど、この鼓動は、今まで海人に感じていたドキドキとは、異なるように感じていた。
やがて、男子トイレから背の高い少年が出てくる。
スポーツができて、友達も多くて、笑顔が素敵で、イケメンで。……私が、かつて好きだった人だ。
「いってくるね、楓くん」
私は、小さくそう呟いてから、曲がり角から出て海人の方へ足を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます