第11話 最悪のタイミングで誘われました
あーこれは。
なんというか、ご愁傷様だ。
「ど、どど、どうしよう! なんで? なんでこんなときに限って……!」
梨子は、青ざめた顔で慌てふためいている。
空気読めよ三枝蜜柑! と一瞬思ったが、ちょっと待てよ。
「あのさ梨子さん。たぶん、昨日起きたことはまだ三枝さん達には伝えてないんだよね?」
「う、うん。流石に、言い出せなくて……」
「ていうことはだよ。誰が見ても飯島くん大好きオーラを放ってたのに全然アタックしない梨子さんに痺れを切らして、舞台をセッティングしたんじゃ……」
「…………」
梨子は、僕の顔を見て固まり、
「待って。ねぇ、私そんなに好意ダダ漏れだったの?」
「今大事なのはそこじゃない」
僕はすかさずツッコミを入れた。
気になるのはわかるが、どのみちみんな知ってたことだろうし、ここはスルー。
「とにかく、三枝さん達が梨子さんのために一肌脱いでくれたって考えるのが自然だね。……もっとも、タイミングが最悪すぎだけど」
「うん」
朝比奈さんは、小さく頷く。
その姿が、なんだかとても小さく見えてしまって、
「なんだったら、断り入れてもいいんじゃない? 今日はどうしても外せない用事があるって言って」
「それはだめ」
僕の提案に、しかし梨子ははっきりと答えた。
「蜜柑ちゃん達が私のために頑張ってくれたことだし、それに――なんとなく、このまま自然消滅っていうのは、だめな気がする」
「梨子さん……」
「このままなし崩し的になあなあになって、海人と話さなくなって。そうなったら、確かに楽なんだろうけど、心のどこかにしこりが残るっていうか。絶対、いつか後悔すると思うから」
そう言って、梨子はPINEにスラスラと文字を打ち、送信した。
三枝さんに送った文章は『りょうかい!』。その短い文字を打つのに、どれほどの覚悟がいるのだろう。
僕は、なんだか自分が恥ずかしくなった。
僕と飯島は、最初から仲良くなんてない。というか、昨日喧嘩したのが初めての会話だ。
だから、アイツに嫌われようが特に心は痛まない。だけど――ちゃんと、向きあうことも大事なんじゃないだろうか?
なんとなく、朝比奈梨子という強い少女を見てそう思った。
「それ、僕も参加できないかな」
「……え?」
意外そうに、僕を見て目を丸くする梨子。
「あ、いや。部外者だし、迷惑だろうから――」
「全然来てくれていいよ! むしろその……私も、楓くんがいてくれたら嬉しいっていうか、心強いかも」
恥ずかしそうに目を伏せる梨子。
なんだかいたたまれなくなって、微妙な空気が流れる。
「じ、じゃあお言葉に甘えて参加させてもらおうかな」
「そ、そうだね! 私の方から蜜柑ちゃんに1人飛び入り参加者が増えたって、伝えておくね!」
あたふたとPINEに追加メッセージを送る梨子。
ちらりと文面を見ると、『飛び胃入り参加車がひとり増えたからよろしk』
秒で既読がついた三枝から「どしたん? 誤字ヤバいよ」と返信があった。
――ていうか、よくよく考えたらこの子今委員会じゃね?
スマホ弄っている暇あんの? と思ったが、真相はわからずじまいであった。
そして、二人きりの昼食タイムは過ぎ去り――あっという間に、放課後がやって来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます