第1話力を与える、そのかわり勇者か竜騎士になれ!! えっ、ならない?
「お前に竜の力を授ける。この力を使い世界を救うのだ」
「あなたに神々の力を授けます。この力で、世界を救ってください」
竜と女神が僕にそう伝える。
竜って困った人を助けてくれるし、かっこよくて強い。だから、みんなからの信頼は厚くてすごいよなぁ。
女神も、皆の祈りを聞いて、願い事を叶えてくれるし、なにより神々しくて憧れるよなぁ。
あの二人と友達になれたらもっと楽しいだろうなぁ。
そう考えていると、
「おい、聞いているのか?」
「あの、聞こえていますか?」
少し不機嫌そうな声色で怒られてしまった。
「ごめん、話は聞いているよ。この世界を救え、だったよね。具体的には何をすればいいの?」
「そうだな、まずは竜騎士になるのだ。そして、魔王を打ち破るのだ。」
「待ってください!あなたは勇者になり、魔王を破り、世界に秩序をもたらすのです」
ローザは、竜騎士や勇者などのおとぎ話の中でしか聞いたことのないような職業になれることに心を踊らせていた――のではなく、少し気まずそうだった。
「あの……僕、竜騎士とか勇者に興味ないし、僕、郵便屋になるよ?」
「「は?」」
この場に一瞬静寂が走った。
「い、一回考え直せ! お前に与えた力があれば、竜騎士とか何にでもなれて、なんの努力もせずに魔王を倒せる程強いものなんだぞ! そ、その力がありながら……ゆ、郵便屋になるって言ったのか?」
「そうです! ちょっと冷静になりましょう。あなたの力はもはや地上最強のものとなっているでしょう。だからこそ! あなたの力を世界を救うためにつかってください。郵便屋なんて仕事はその後からでもできますし、なんなら私の権限で勇者との兼業を許しましょうか?」
はぁ、なんてしつこいんだ。一回冷静になるべきなのはこの二人なんじゃないのか?
僕は勇者だとか、竜騎士だとかには、興味なんてさらさら無いのに。
「仕方ないなぁ、君たちの世界を救って欲しいっていう願いは、僕が頑張ってみるよ」
「「おぉぉ!」」
「だ〜け〜ど! 何度も言ったとおり、僕は竜騎士と勇者にはならないからね! 僕は絶対に郵便屋になるからね!」
「「そんな……」」
正直、竜と女神にはローザの言っている意味がわからなかった。
二人には勇者か竜騎士のどちらかの職業以外につくという概念が抜けていたからだ。
最上位職業の勇者や竜騎士と低位職業の郵便屋。
人々がどちらになりたいかは聞くまでもないからだ。
「だったら、最後に教えてください。どうして、そこまで郵便屋に執着するのですか?」
「僕は、街の郵便屋のお兄さんに憧れたんだ。雨が降っていても、風が強くても、いつも決まった時間に配達している姿に憧れたんだ。それに……」
「それに?」
「僕、いろんな種族と友達になりたいんだ。それこそ魔族とだって、君たちとだって。
だけど、世界の平和のために魔族を一人でも倒したらもう友達にはなれないし……
平和のために魔族を倒すのは間違っているとおもうんだ。だから、郵便屋になって二人からもらった力で世界を飛び回って、種族の壁なく皆と友だちになりたいんだ!」
なんとふざけた夢だろう。
なんと馬鹿げた夢だろう。
普通のものなら爆笑でもしているだろうが、あいにくここには、普通のものはいない。
「ハッハッハッハ! おもしろい、おもしろいぞお前! 初め我の誘いを断った時、ハズレを引いたかと思ったが…… まさか、こんな逸材だったとは思いもしなかったぞ! うむ、気に入った! 我も地上に降りてお前の行く末、見届けようじゃあないか! それに、我をお前の友としてくれないだろうか?」
「私も同感です。過去に力を与えた者たちは、世界を平和にしなさいと命じたときは、皆、魔王を倒そうと張り切っていましたが、どうやらあなたは違うようですね。誰も歩んだことのない道を進むのは難しいですが、私は応援しています。 私も地上に降りて、あなたの活躍を見届けようではありませんか! そして、私もあなたとお友達になりたいのですが……」
「うん、いいよ! そういえば、二人の名前って何なの?」
「我の名前はインペラトルだ」
「私の名前はオムニです」
「それじゃあ、インペラトル、オムニよろしくね! あっ僕のことは、ローザって呼んでね!」
「よろしくな、ローザ!」
「よろしくお願いします、ローザ!」
「そういえば、ローザって何歳ですか?」
「えっ、なんで急に?」
「なんでって、お前この世界じゃ職業につけるのは12歳からに決まってるからだろ。で、お前は一体何歳なんだ?」
「じゅ……歳」
「聞こえませんね」
「じゅ…十歳です……」
「あら、あと二年時間がありますね。それじゃあ、私の眷属の神々にローザをしごいてもらって、配達のイロハと戦闘技術を教えましょう」
「え、ちょ」
「おっ、それもそうだな。我の配下にもそう頼んどくか!」
「あのー二人とも、僕のことは無視かな?」
「これはお前のことを思って、やってやるんだぞ!」
「そうです! これはあなたのためですよ!」
なんでこんなことになったんだよ〜
最悪だ、こんなはずじゃなかったのに〜
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