第七話「待遇が幼馴染」

 朝6時。遠藤一家のお宅に到着である。

 彼は何か勘違いをしているっぽいけど、私の家はここから徒歩1時間はかかる場所にある。学区が違って当たり前。

 その上、ご家族まで私のことをご近所さんと思っているらしく、「面倒かけて悪いんだけれど、あのバカを起こしに来てくれると嬉しいわ」の言葉と共にこの家の合鍵を渡された時は、さすがに「信用され過ぎでは?」と思ったものだ。

 ともあれ、おばさんから借りている合鍵を使って遠藤家にお邪魔させてもらう。

 目的はもちろん、朝ごはんである。

 普段はおばさんが作っていると聞いているが、忙しい時は私が彼の分を担当していたりする。曰く、

『あのバカ、ろくすっぽ勉強してないクセに優姫ちゃんとおんなじ高校受かっちゃって。まったく、憎らしいったらありゃしない。しかも朝は早いし、夜は遅いし。ほんと悪いんだけれど、あのバカを起こしに来てくれるついでに朝ごはんも作ってくれる?』

 とかなんとか。

 いともたやすく行われる息子を自慢する行為に驚愕しながらも、なんだか断りきれずに『私でよければ』と頷いてしまった。

 ……しまったんだけど、私料理できないんですけどー。

 それからというもの、私が担当の日は3時に起きて、台所で一人卵と格闘を繰り広げているというのは彼とご家族、特におばさんには内緒だ。……ちなみに、今をもって夢の中にいらっしゃる彼は、嫌らしいほど料理が上手い。忌々しい、ああ忌々しい、忌々しい。

 今朝の1時間20分に及ぶ大卵闘の結果、卵焼きくらいなら綺麗に作ることができるようになった。(卵闘って言葉に萌えるスケベ野郎は彼だけで十分だ。聞いてるか、読者!)

 出来上がった色とりどりの卵料理を全て食べ終えてから、身支度を整える。

「いってきます」

 思いつきで唱えて家を出る。分かりきっていたが「いってらっしゃい」の声は無い。

 そこから動き出した私の足は、吸い込まれるようにバス停まで歩いていた。

 いつもなら歩きの道のりを、今日はやけに急ぎたかった。

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