天使の休日

緋色ザキ

第1話 幼い頃の夢

 幼い頃の夢は、見たものに由来することが多い。


 スポーツ選手だったり、アニメのヒーローだったり、おとぎ話に出てくるお姫様だったり。


 そして、なにを隠そう私もその一人だ。私の幼稚園の頃の夢は羽を生やすことだった。いまの私には、その当時なんでそんなことを考えていたのか、一切合切覚えていない。


 母曰く、小さい頃は鳥が本当に好きで、よく動物園などに行っては、鳥をじーっと長時間眺め、羽が欲しいと言っていたそうだ。

 そんな子どもの戯れ言に対し、リアリストな母は羽なんて生えるわけがないと一刀両断した。そのときのことだけは、なぜかよく覚えている。


 私は大泣きした。そんなわけない。絶対いつか、羽は生える。そう叫びながら地面を涙でぬらした。母はそんな私を見て、あきれ果てたという。


 そんな母に対し、諦めという言葉を辞書に搭載していなかった当時の私は、天使の登場するアニメを見て、今度は天使になりたいとのたまった。母はそんな無垢な私に対し、


「天使なら私の子どもじゃないね。家から出て行ってもらうよ」


と、これまた冷たくあしらったそうだ。鬼のような人である。


 さて、そんなこんなで幼い頃に非常に大きな挫折を味わった私であるが、つい先日、奇しくもその夢が叶うこととなった。期せずして、叶うことになってしまったのである。むしろ、強引に叶えさせられたといっても過言ではない。


 そう、私は羽を生やされてしまったのだ。天使を名乗る、羽の生えた少女によって。




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