第27話:アニメ主題歌の大役、始動

天羽が主題歌を引き受けた翌日、平田からの電話が鳴り響いた。


「もしもし、天羽。早速だけど、スケジュールの話をしたいんだ。」


電話越しの平田の声には、興奮と焦りが入り混じっていた。天羽はベッドに寝転びながら、苦笑しつつ聞き返す。


「いや、まだ正式に受けたばっかだぞ? そんな急かすなよ。」


「いや、天羽、これがアニメ業界の現実なんだよ! 実は来年秋に放送予定なんだけど、曲の納品は滅茶苦茶早いんだ。今すぐにでもレコーディングに取り掛かってもらわないと間に合わない!」


「……は?」


天羽は再び声が裏返った。


「ちょ、待て待て。来年秋ってまだ1年以上先だろ? そんなに早く歌を決めなきゃいけないのか?」


「そうなんだよ!」平田は焦った様子で説明を続けた。「最近のアニメは国内だけじゃなくて、海外展開も重要視してる。だから、主題歌も海外のマーケットに合わせて早めに完成させて、各国のプロモーションに使う必要があるんだ。それに海外なら海外の審査もあるんだ!」


天羽はスマホを耳に押し当てたまま、頭を掻きながらぼやいた。


「いやいや……俺、野球以外のことそんな早いペースでできる自信ねぇぞ……。」


「そこは心配いらない!」平田はすぐに言い返した。「レコーディングは専属のトレーナーが付くし、プロのスタッフが全力でサポートする。だから天羽は、まずは気持ちでやってみてくれればいいんだ!」


「気持ちだけでどうにかなるもんかよ……。」天羽は溜め息をついた。


   ◇


その後、カフェで平田とスタッフが集まり、具体的なスケジュールが説明された。レコーディングのプロデューサーも同席し、天羽に向かって丁寧に説明を始める。


「天羽さん、はじめまして。この度、主題歌のプロジェクトに参加していただきありがとうございます。まずお伝えしたいのは、この曲はアニメの魂とも言える存在です。歌詞には物語のテーマが凝縮されており、それを天羽さんに伝えてもらうことが求められます。」


天羽は腕を組み、少し居心地悪そうに椅子に座り直した。


「いや、俺、そんな大役背負う自信ないっすけど……。」


「そこは心配いりません。」プロデューサーは笑顔で続けた。「収録前に、基礎的なボイストレーニングを受けていただきます。それに、歌詞やメロディーも、天羽さんが理解しやすいように丁寧に説明します。」


平田がそこで口を挟む。


「このアニメのテーマ、覚えてるか? 高校時代に俺が天羽に初めて見せたやつだよ。」


天羽は少し考え込み、記憶を辿るように眉を寄せた。


「ああ……“誰にも負けない自分になる”ってやつか?」


「そう、それ。」平田は嬉しそうに頷いた。「だからこそ、天羽にこの主題歌を歌ってほしいんだよ。」


プロデューサーが続ける。


「実は、来週から歌詞のリハーサルに入ります。再来週にはメロディーラインの調整を行い、3週間後には仮レコーディングを開始します。そして……最終的な納品は来月中旬です。」


「来月中旬って……早すぎないか?」


天羽は目を丸くした。平田がすかさずフォローする。


「大丈夫! そのペースなら間に合うように全部計画されてるから!」


プロデューサーも力強く頷く。


「最近はSNSや海外配信サービスのプロモーションが鍵を握ります。そのために、主題歌が早く完成することはとても重要なんです。」


天羽は頭を掻きながら、小声でぼやいた。


「これ、野球よりもプレッシャーあるんじゃないか……。」


それでも、天羽の胸には不思議な感覚があった。自分が野球以外の場面で誰かの夢を支える役目を担うというのは、妙に責任感が湧く一方で、少しワクワクする部分もあった。


「……わかったよ。やれるだけやってみる。でも、俺が失敗しても怒るなよ?」


平田はにっこりと笑い、天羽の肩を叩いた。


「大丈夫だって! お前が一番目立つ男になるって言ったんだから、これも注目されるチャンスだろ?」


天羽は苦笑しながら頷いた。


「まぁ……目立つってのは俺の目標だしな。やるだけやってみるか。」


こうして、天羽翔太の野球以外の新たな挑戦が、幕を開けた。アニメ主題歌という未知の舞台で、彼がどんな姿を見せるのか――それは、誰にもまだわからなかった。

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