第24話:消化試合
8月、天羽翔太は自身でのシーズンを代表するような活躍を見せていた。試合の中盤に放ったタイムリーでチームに勢いをつけ、守備ではフェンス際でのファインプレーを連発。ファンの間では「札幌の未来」としてその名が広がりつつあった。
だが、いくら翔太が輝いても、チームは勝てなかった。
◇
「結局、また負けかよ……。」
試合が終わった後、ベンチに腰掛けた田中亮太がため息をついた。スコアボードには「6-3」の数字が虚しく光っている。終盤に差し掛かるたび、リリーフ陣が崩れて逆転を許す。この光景は何度目だろうか。
天羽はユニフォームの袖で汗を拭いながら、静かにベンチに座り込んだ。
「俺がもっと打てれば……。」
小さな声で呟いたその言葉に、田中は頭を振った。
「いや、お前のせいじゃねえよ。チームとして噛み合ってないだけだ。」
その言葉に救われる思いはあったものの、翔太の心の中にはどこか満たされないものが残っていた。自分がいくら活躍しても、チームの勝利に繋がらない現実。どれだけ打っても、守っても、最後には負けてしまう。
◇
ロッカールームでは、リリーフ陣が静かに荷物をまとめていた。榊原大樹の顔には深い疲労の色が浮かんでいる。彼は今シーズン覚醒し、試合ごとに満塁のピンチで登板を命じられていた。
「悪いのは分かってる。でも、どうにもならない時もあるんだよ……。」
榊原は呟くようにそう言った。もはや彼にとってこの状況は馴染み深いものだった。全力で投げても、崩れた流れを立て直せないことがある。それが、今のウォーリアーズだった。
◇
打線もまた課題を抱えていた。天羽や田中が必死に出塁しても、後続がそれを活かせない。藤原恭介は今シーズンも打撃で結果を残せず、「守備だけの人間」と揶揄される状況が続いている。
「ランナーがいる時に打てないって、何やってんだよ……。」
試合中、天羽はそんな声を観客席から耳にしていた。だが、それを言う観客自身も「また負けるんだろ」と諦めの色を滲ませていた。
天羽は個人としては確実に成長していた。8月には何本ものタイムリーを放ち、チームの中で目立つ存在となった。守備でも大胆な動きでピンチを防ぎ、ファンの喝采を浴びることもあった。
「翔太、今シーズンは新人王狙えるぞ。」
田中が笑いながらそう言ったこともある。だが、天羽の胸には重くのしかかるものがあった。
(俺が活躍しても、チームが勝てなきゃ意味がない。)
幾度となく敗戦を繰り返し、ファンの熱が冷めていく中で、天羽だけが光を放ち続けている。それでも、その光がチームを救うには至らない。
◇
鷹司監督は、試合後にロッカールームで一人、スコアブックを見つめていた。リリーフ陣の炎上、得点力の不足、若手の経験不足。全てが課題として重くのしかかっている。
「勝てない理由は分かってる。でも、どうにもならねえ。」
彼は苦々しく呟き、スコアブックを閉じた。
(天羽みたいな若手が活躍しても、それを支える土台が足りない。このままじゃ、来年も同じ結果になるだろう。)
鷹司監督もまた、この消化試合に突入する現実に苛立ちを隠せずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます