第15話:新たな仲間
札幌ウォーリアーズの二軍練習場。初夏の日差しが少しずつ強くなり、芝生の上には汗を滴らせる選手たちの姿があった。その中に、翔太の姿もあった。
彼が一心不乱にバッティングケージでボールを打ち込んでいると、隣のバッターボックスから乾いた声が聞こえた。
「おいおい、そんなに気合い入れてたら、バットが折れちまうぞ。」
翔太が振り向くと、そこには同年代と思しき男が立っていた。短く刈り込まれた髪に、爽やかな笑顔を浮かべた青年だ。
◇
「俺は青柳隼人。よろしくな、天羽。」
「え? 俺のこと知ってるんですか?」
翔太は驚いた顔をすると、青柳は少し笑いながら言った。
「当たり前だろ。お前、プロ初打席ホームランの話題のルーキーだろ? こっちはあれで散々嫉妬させられたんだから。」
翔太は照れくさそうに頭を掻いた。
「いやいや、あれは出来すぎただけで……今、こうして二軍にいるんですから。」
青柳はバットを肩に担ぎながら言った。
「まあ、こっちも似たようなもんだ。俺も去年、一軍に上がったはいいけど全然結果出せなくてさ。今じゃ完全にこっちの住人だ。」
その言葉に翔太は少し親近感を覚えた。
◇
青柳隼人は、名門高校出身で、俊足巧打の選手として注目されていた。内野手として、堅実な守備と試合巧者ぶりでスカウトの目に留まり、ドラフト3位で札幌ウォーリアーズに入団した。
しかし、プロ入り後の彼は、一軍では思うように結果を残せなかった。特に、守備の正確さに定評があったが、一軍の速さやプレッシャーに飲まれ、失策が目立つようになり、気づけば二軍が居場所になっていた。
「俺、たぶんメンタルが弱いんだよな。一軍の試合に出ると急に硬くなっちゃって、守れるものも守れなくなる。」
青柳は苦笑いしながら話したが、その表情の裏には悔しさが滲んでいた。
◇
ある日の練習後、翔太と青柳は二人で自主練をしていた。翔太はバッティングフォームをチェックし、青柳はフットワークを磨くためのドリルに取り組んでいた。
休憩中、青柳がポツリと言った。
「お前、なんで急にストイックになったんだ? 二軍に来てから、毎日鬼みたいに練習してるじゃん。」
翔太は一瞬迷ったが、少しだけ本音を漏らした。
「……俺、なんだか自分が目立つことだけ考えてて。全然プロじゃないなって……」
青柳は目を丸くした。
「そうか?結果出てたじゃん。もっと上を目指したいって感じ?」
「まあ、そういうことにしておいてください。とにかく、自分の実力で認められたいんです。」
青柳は翔太の真剣な表情を見て、少しだけ黙った後、笑った。
「いいじゃん、そういうの。俺もお前みたいに頑張らなきゃな。」
◇
その後、翔太と青柳は練習後によく一緒に自主練をするようになった。翔太は青柳にスイングのアドバイスを受ける一方で、青柳は翔太の前向きな姿勢に触発され、以前よりも積極的に練習に取り組むようになった。
「お前さ、意外と努力家だよな。」
「え? 意外ですか?」
「いや、あの記者会見のときのお調子者っぷりを見たら、普通そう思うだろ。」
翔太は笑いながら答えた。
「あれはキャラ作りです。まあ、確かに調子に乗りやすいところはあるんですけどね。」
青柳はその言葉に笑いながらも、翔太の真剣な努力を認めていた。
◇
夏の日差しが強くなる中、翔太と青柳はそれぞれの課題を乗り越えようと奮闘していた。翔太は青柳の守備練習を手伝い、青柳は翔太のバッティングを見守る。
「お互い、一軍に戻ろうな。」
「もちろん。そのときは、俺が一番目立ってやりますよ。」
青柳は苦笑いしながら答えた。
「そっちの派手さに付き合うのは大変そうだけどな。」
二人は笑い合いながら、また練習に戻っていった。
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