第12話:二軍志願の決断

「監督……僕を二軍に落としてください。」


監督は驚きながらも黙って翔太の顔を見つめた。


「……理由を聞こうか。」


翔太は顔を上げ、まっすぐに答えた。

「僕はまだ一軍で戦える選手じゃありません。もっと鍛えて、本当の力を身につけたいんです。」


鷹司監督はしばらく翔太を見つめた後、静かに頷いた。

「いいだろう。自分で決めたことなら、俺はそれを尊重する。ただし……戻ってくるときは胸を張れよ。」


翔太は深く頭を下げた。

「ありがとうございます!」


監督室を出た翔太は空を見上げた。曇り空から一筋の光が差し込んでいるのが見えた。


(次は絶対に……もっと強くなって戻る。)


翔太は自分の拳を握りしめ、新たな決意を胸に抱いていた。


   ◇


札幌の二軍練習場は、市街地から少し離れた郊外にあった。6月の初夏、雨が上がったばかりの空気は少し湿っぽく、周囲には草の匂いが漂っていた。


翔太はその練習場に荷物を持ってやってきた。プロ入り後、二軍での生活2度目だったが、彼の表情にはどこか清々しさがあった。


(ここからだ。もう一度、自分を作り直す。)


翔太は荷物を置くと、早速練習場の芝生に出てランニングを始めた。二軍の他の選手たちが横目で「お調子者の翔太が落ちてきた」と見ていたが、彼は気にする様子もなく黙々と走り続けた。


二軍生活が始まって一週間、翔太は一つの課題を自分に課していた。それは、「野球以外の基礎から見直す」ことだった。


彼は自身の判断ミスや焦りが、技術だけでなく精神的な未熟さから来ていることに気づいていた。これまで、自分の持つ「注目されると強くなる」能力に頼りすぎていたと感じていたのだ。


(俺はもっと地道にやるべきだったんだ。派手なプレーも良いけど、それだけじゃプロじゃない。)


翔太は食生活の見直しを始め、炭水化物やタンパク質、ビタミンなど栄養バランスについて本を読んで勉強するようになった。また、筋力トレーニングも基本に立ち返り、正しいフォームを徹底的に学んだ。

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