First Contact 15 第二部 START


「ピーマンは入れるな」

「こどもですか。それにこれはピーマンじゃなくて万願寺とうがらしですよ」

「万願寺?」

「ほら、細長いでしょう?ししとうに似てるでしょう」

「ししとうというのは何だ」

部屋に戻ってきてキッチンで真面目に神尾を睨んできく滝岡に。

「…―――後で教えてあげますから、これ切ってください。切るのは得意ですよね?」

にんじんを渡す神尾に受取りながら滝岡が顔をしかめる。

「…――外科医を何だと思ってるんだ?」

「外科医ですね」

「これ切るのか」

「はい、お願いします」

真面目に刻み出す滝岡を隣に思わず笑んで。

「おい、あのな?」

「みじん切りにしてください。2ミリ角位を基準にしてもらえれば」

「…そうか」

きちんと綺麗に四角く2ミリ角の微塵切りが出来ていくのに思わず感心しながら。これも購入してきたステンレス製のパッドに刻んだ野菜を入れるようにいって。

「それでいいですよ。次はこれの皮を剥いてください」

「わかった」

「剥いたら、水につけてください」

綺麗に芸術的に剥けていくじゃがいもの皮に隣で玉子を溶きながら。

 やっぱり、外科医って器用ですね。

無駄に精密に綺麗に切られた野菜が置かれたパッドに感心して。

「手を洗って待っていてくれていいですよ?」

「みていていいか?何がどうなるんだ、この材料が」

「…いままで、本当に料理したことがないんですね、…」

隣で目を見張ってみている滝岡に多少あきれながら。フライパンにオリーブオイルを敷いて、にんにくを入れて炒めて香りをつけて。

 乾燥バジルに、オレガノ、パセリ。

 あっという間にできるチキンライスに、ふわりとしたオムライスの玉子に滝岡が息を呑んでみている。





「さ、食べましょうか?」

「…いただきます」

極真面目な顔で滝岡が食卓にオムライス、万願寺とうがらしの甘辛煮、等々の乗ったさまを前にして真剣にいう。

 セロリが綺麗に刻まれたソースが乗るオムライスをすくって食べて。

食事を終えて、滝岡が真剣に神尾をにらむようにみる。

「はい?どうしました?」

「…――一年だったな?」

「はい。構いませんか?同居」

にっこり、笑顔でいう神尾に唸る。

「…―――ベッドは買えよ」

「どっちにしろ、今晩はいいでしょう?」

「いっておくが、おれにだって私生活はあるからな?」

「わかりました。そのときは邪魔しないようにしますから」

「…―――」

つまって、滝岡が横を向く。

 それに楽し気に神尾が笑んで。

「おいっ、おまえな?」

「はい、何ですか?」

面白そうにみる神尾に滝岡が怒って。

「おまえな、だからっ!」

「はい。あ、御茶飲みます?」

「…飲む、じゃなくて、神尾っ」

「皿は洗ってください」

「―――わかった」

素直に皿を持っていく滝岡に思わずあきれて笑む。

 まったく、面白い人だなあ、…。

「おまえ、何かヘンなこと考えてるだろう」

皿を持ったまま振り向いて睨む滝岡に神尾が笑む。

「いえ、…――どうしてわかるんです?」

「おまえな?本当に考えてたのか!」

滝岡がいうのをさらりと流して。

「御茶いれますから、食器洗い機買います?」

「…それは何だ?」

「―――本当にいままで家事はどうやっていたんですか?」

「家事は、…―小野さんに頼んでいた」

「小野さん?」

「家政婦さんだ」

真面目に睨むようにしていう滝岡に、そうか、ここの設備とか多少は揃ってたのはもしかしてその家政婦の小野さんのおかげかな、と内心しみじみとしながら。

「…――聞いた僕が悪かったです。今日は洗ってもらいますけど、手が痛むといけませんからね。明日買ってきましょう」

「手が痛むのか?」

「沢山洗うと、洗剤で手が荒れたりするそうですよ。手は痛められないでしょう」

不思議そうにきく滝岡に少し微笑んで神尾が応える。それに真面目に眉を寄せて考え込んで。

「まあな、…そうなのか。確かに手に傷はつくれないからな」

そーっと皿を洗い始める滝岡に笑って。

「保湿クリームとかはもってますか?」

「ああ、ある。洗ったらつければいいんだな」

「手は大事ですからね」

「確かにな」

あくまで真面目に皿を洗っている滝岡を隣に。

 ――何だか、面白いことになりそうだな。

神尾が、ついそう思いながら御茶を入れながら笑みを零すのに、滝岡が突っかかる。

「おまえな?また何か、…―」

「御茶入りましたよ?」

「まて、…――よし、出来た」

洗った皿を、真剣に滝岡が籠に伏せて置くのを神尾が待って。






「おまえ、だからベッドは買えよ」

「先に食器洗い機ですね」

「…―――」

済し崩しにこうして始まった二人の同居がこれから一体どうなるのかは。

 何にしても、滝岡と神尾。

 二人の第一次接近遭遇はこうして終わり。

 新たな旅路が始まっていくようだった。

 なべて世は、ことも、…なし?






「おまえ、何してるんだ?」

肩の重さに気付いて目覚めて滝岡が隣をみると。

まだ薄暗いベッドの隣につまり。

 気持ち良さそうに、返事処かもうぐっすりと深い眠りの中にいる神尾の姿を発見して。

「…――――な、何でだ、…!」

人の肩を枕代わりにしてあっさり眠っている神尾の顔を引きつった顔で滝岡がみる。それでも、何となく起したらまずい気がして動けないでいるのだが。

 朝六時。いつもの習慣的な起床時間にきっちり目が醒めて引きつった顔をしている滝岡にまったく構わず、本当に気持ちよさそうに神尾が眠っている。

「のんびりとした顔をして、…――いや、だから、つまり、なんでこんなことに」

左肩をすっかり枕に取られて、どうしたらいいのかまったくわからないで動けずにどうしてこうなったかの状況を考える。

 つまり、…―確か、昨日こいつが押し掛けてきて、…――。

事務長が、とまで考えてくちを大きく曲げる。

 何だって、こいつがうちの病院に勤めるのに寮が一杯だからって、事務長はおれの処を紹介するんだ?

そうして押し掛けた神尾に何故か流されて、いまこうして一つしかなかったベッドに仕方ないから一晩だけだぞ、といって寝ることになって。

「…――だからって、人を枕にするな、…!」

何故かそれでも小声でいってしまう滝岡の声に起きたのか。

「…―――」

何か、むにゃむにゃといって寝惚けた顔で薄く神尾が目をあけるのに、どきりとして思わず僅かに引く。

 引きつった顔でみている滝岡に神尾がぼんやりとした顔で身を起して髪を軽くかくようにしながら完全に起きていない顔でみてくるから。

「おい、…起きた、んだよな?起きたなら離れろっ!いいか、神尾、おまえが昨夜ベッドが一つしかないからここに一緒に寝たのは仕方ない。けどな?…――人を枕にする許可は出してないぞっ、…!」

半身を起して、ぼんやりとした半分眼を閉じたまま滝岡の言葉を聞いているのかいないのか不明な神尾を前に。

 ようやく離れた神尾にそちらをみたままベッドの上で後退して、ヘッドレストを背に何とかこちらも半身を起した滝岡が。

「だからっ、…―!人を枕にするなっ!いいか?ベッドを買え!」

「…――ああ、おはようございます、…滝岡さん?」

「滝岡だ」

即答する滝岡に寝惚けて眼を瞑りながら神尾が髪を掻き回しながら、また眠りそうになる。

「…おいっ!もう六時だぞ?起きろっ!」

「…―おはようございます、…。おやすみなさい」

いうと、かくり、と頭が垂れて。

「…ま、まてっ、…!ねるな!いや、ねてもいいが、人を枕にするなっ、…―――!」

叫ぶ滝岡に構わず丁度良い枕をみつけたように神尾が手を伸ばして。あっさりと抱き込まれて押し倒されて仕舞に肩を枕にされて、すっかり順調に神尾が眠りに就くのに。

 動けないでおもわずその寝顔をみて固まって。

「…だ、だから、―――」

「――――…」

すっかり満足そうにねむっている神尾。

 沈黙して。


「…――だから、起きろっ、…――!人を枕にするなっ、…―――!」

叫ぶ滝岡の声が、寝室に響いていた。






「いいじゃないですか、減るものじゃなし」

「…おまえ、いまなにかいったか?」

台所に立つ神尾が背を向けたままあっさりいうのに。ダイニングのテーブルに座っていた滝岡が凄い顔をして、その背を睨む。

「おまえな?人の肩を枕代わりにしておいてその言い草か?」

睨んでいる滝岡を背に淡々と神尾が朝食を作りながら簡単に答える。

「何が問題がありますか?」

「あるだろう、…って、おい?」

良い匂いがしてきて、玉子と何かの実に美味しそうな匂いに滝岡が言葉を途切れさせる。

 それに皿を手にテーブルに置きながら。

「スクランブルエッグです。どうぞ」

にっこり微笑んでいいながら簡単に神尾がテーブルに並べる朝食に滝岡が沈黙する。

 メインにスクランブルエッグにベーコンを添えた皿とグリーンリーフにサニーレタスとバジルに水菜、胡桃とミニコーンにクルトンとブラック・オリーブにケッパーの入ったサラダを不思議そうに滝岡がみる。

「うまそうだな。何か、いろいろと入ってるが」

眉を寄せてにらむようにサラダをみていうのに神尾が笑う。

「大丈夫ですよ。どれも身体に良いものですから。レタスには食物繊維にビタミン、ブラックオリーブもビタミンミネラルにポリフェノール等が入ってます。胡桃も抗酸化作用があって身体に良いんですよ?それに使っているオイルはオリーブオイルですからね。そこにレモンを絞って岩塩と胡椒を挽いてみました。食べてみてください」

「…ふうん、…よくわからないけど、旨そうだな」

いってから、サラダとスクランブルエッグの他にスライスしたブロートを置いてコーヒーを二人分、それにヨーグルトとトマトジュースのグラスをテーブルに並べた神尾に驚いてみあげる。

「おまえ、いまの間にこれを用意したのか?」

「そんなに時間は掛りませんよ?いま作ったのは、サラダとスクランブルくらいで後は切ったりするだけですからね。ドレッシングを混ぜて」

「…――すまん、何も手伝わずに」

「いいですよ。ほら、食べましょう。トマトジュース大丈夫ですか?」

グラスに注ごうとボトルを手にする神尾に滝岡が戸惑いながら、グラスを手にする。

「大丈夫だ。…その、すまん。その、この食事代、昨日のもだが、…――そういえば、まだ払ってなかったな。いくらだ?いってくれ」

真面目な顔でいう滝岡に神尾が微笑んで。

「いいですよ。それをいうなら、家賃も考えないと」

「いやだから、―それこそ、そういう訳にはいかないだろう。家賃に関してはともかく、半額でいいか?だから、つまり」

作ってもらってるが、とつまる滝岡に面白くなって神尾が笑む。

「いえ、それをいうなら僕は此処に住まわせてもらってますから」

「現在進行形でいうな」

「事実でしょう?それより冷めますよ、勿体ない。先に食べてください。あとで話しましょう」

「…―それもそうだな、…いただきます」

実に美味しそうなたまごをみて、うれしそうにいう滝岡に少し横を向いて笑うのをこらえて。

「…おい?いま、おまえな?」

「すみません。まあほら、先に腹拵えをしましょうよ。朝食は大事ですからね?」

「それもそうだな、…――。うまい」

ひとくち、スクランブルエッグをくちにして。

 真剣にみて、真剣に食べ始める滝岡を前に。

 ――本当に面白い人だなあ、…それにやっぱり作り甲斐はあるかな、これだけ美味しそうに食べてもらえると。

思いながら、神尾が微笑んで滝岡に向き合って眺めて朝食を。






「さて、食器洗い機を買いにいきましょうか」

「…―――!」

実に美味しい朝食を食べて、食後のコーヒーに満足していた滝岡がはっとして神尾をみる。

「それは?」

驚いてみている滝岡にあっさりと笑みを返して。

「昨夜いったでしょう?食洗機です」

「いってたが、―――だがな?しかし、…」

「今日はお休みなんですよね?一応、日曜ですから」

「それはな。…呼び出しとかがなければ」

「じゃ、今日、時間がある内にいっておかないと」

にっこり笑んで悪戯気にみていう神尾に滝岡がつまる。

「その、だから、…――先にベッドを買え、おい?」

「ほら、いきますよ」

「…―――」

促す神尾に滝岡がつまって。




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