性的暴行 魂の殺人

愚人

第1話

夏の夕暮れ時、古い杉木立に囲まれた河口神社は、不思議なほどの静けさに包まれていた。

 その中を河口警察署外勤課本兆交番勤務の伊藤智子巡査は、周囲を見渡しながら不審者や迷子がいないか目を配りながら歩いている。

 いつ危険が襲って来るかも知れないという緊張の中で、鳥居と木漏れ日が織りなす影絵のような光景を見て、身体の強張りが少しだけ綻ぶのを智子は感じた。


 鳥居を通って参道を歩き本殿から裏へ向かうと、かすかに煙草の匂いが漂ってきた。普段ならまだ境内の遊具場から子供たちの元気な声が聞こえて来るのだが、暑さが一段落しているにもかかわらず全く聞こえて来ない。

 

 ふと、壁が剥がれ落ちたままのトイレの前に、二人の少年が立っているのが目に入った。半袖の白色の体操着の紺色の校章から粗川市立美並中学校の生徒に間違いない。二人とも背丈は普通だが胸前や腕の筋肉が発達していて、太もももガッツリとしている。

 片手に煙草を持ち、手慣れた仕草で煙草に火をつける。指に煙草を挟んで吸う姿は、体操着を着ていなければ成人男性そのものだ。


ー中学生なのに煙草なんて吸って、駄目じゃないー


 智子は深いため息をつきながら、静かに少年に近づいていった。


 この三ヶ月の間で、中高生の喫煙補導件数が急増していた。煙草の自動販売機の設置数は大幅に減少しているにもかかわらず、補導件数は増えている。そのことから、河口警察署では中高生の喫煙補導に積極的に乗り出しているところだった。


 中学生とはいえ、相手は体力的に優る男だ。柔道部なのかもしるない。普通の体格の男性が相手でも格闘に不安があるのに、もしあの少年と格闘になったら圧倒されてしまうのではないかと怖気ついてしまう。ましてや相手は二人だ。絶対に敵うわけがない。

 交番に応援要請をしようと、貸与されているスマホに手を掛けるが、今まで一緒にいた男性警官も緊急要請で駅前商店街に駆けつけ、数台のパトカーのサイレンの音も聴こえて来る。智子は応援を要請するのを躊躇する。 

 それにもまして応援を遠ざけるのは、男性警官たちの陰口、会話だった。


「婦警なんて役立たずで、使い物にならない」

「婦警とのパトロールなんて、貧乏くじを引かされたようなもんだな」

「そうだな。なにせ、婦警を危険から守るという余計な任務がつくからな」

「警察署なら自分の身ぐらい、自分で守れっていうんだよ」

「まったくだ」


 伊藤婦警は一人で行くことを決意し、ウンっと頷いて少年たちに向かって行った。


「ちょっと、君たち」


 緊張と不安で声は少し掠れていた。智子は、ショルダーバッグのナスカンをギュウッと握りしめて、怯える心を抑えようとした。


「あなたたち、まだ中学生でしょう?。この校章、美並中学校のだよね?。生徒手帳、持ってるよね、見せてくれない。それと、今吸ってる煙草の火を消して」


 黒髪を短い七・三分けにした少年が、婦警を小馬鹿にするように口元で笑い、煙草をひと息吸うと、薄紫婦警の顔をめがけて薄紫の煙を強く吹き出した。


「ゴホッ。ゴホッ」


 煙を吸い込み咳き込だ智子は、少年を睨見つける。


「何するの!。女だからって、甘く見ないで!」

 

 中学生にさえ軽く思われたと思い、ついカッとなる。煙草の細い筒を掴み捨てようと手を伸ばした瞬間だった。少年のごっつい手が獲物を捕らえる蛇のように素早く伸びてきて、手首を掴まれた。

 

「あッ!」 


 智子の声が喉で凍りついた。少年の目が、昨日、警察署の廊下で擦れ違いざまに見つめてきた、連続婦女暴行魔と同じ目をしていた。智子の全身を悪寒が走り抜け、怯えが包み込む。


 次の瞬間、腕を強く引かれ、トイレの中へと軽々と押し込められた。


「嫌だッ。嫌ッ!」


 薄暗いトイレにパッと広がる携帯投光器の光。その眩しさに智子は思わず目を瞑る。


 汚れの滲んだコンクリートの床に膝を打ちつけ、痛みが滲む。激痛に堪えながら逃げようとして、蛙のように這う。

 異臭の漂う薄暗い空間の隅。別の携帯投光器が顔を襲う。


「嫌!」


 婦警は目を逸らし、顔を俯かせる。小さな赤いランプがトイレの二かから点滅し、レンズが婦人警官の姿を捉え続ける。


「ちゃんと、撮れてるか?」

「大丈夫だから、心配すんなよ完也」

「それより完也。お巡りが来る前に、早く、その女を犯ッちまえよ」

「言われなくてもわかってるよ!」


 少年たちの会話から、レイプの二文字が智子の脳裏に浮かび、不安と恐怖で瞳が大きく見開く。


「嫌ああ…ッ!。やめてええッ」

 

 怯え、震えた声で智子は叫ぶ。スマホを構えた少年たちから完也と呼ばれた男が、厳つい顔をして婦警を睨みつける。


「声を出すな!。殺すぞ!」

 

 少年の大人びたどすの利いた声が、低く響く。


「嫌だ。嫌ッ。嫌ッ。やめて…」


 尻を床につけながら後退りする婦警。壁に背中が当たるとトカゲのように壁に手をつけて、這い上がる。

白色のショルダーバッグの中の特殊警棒に手を伸ばそうとした瞬間、両腕を掴まれ、黒い虫の這う壁に強く背中を押しつけられ、虫を潰し殺す。


「いや...ッ。誰か助…」


 息を震わせ、助けを呼ぼうとした口を、指の強い力で覆われ塞がれてしまう。


「んんッ」


 トイレの外から人口的な物音は全くしない。ただ、杉木立を渡る風の音だけが智子の耳に聞こえくる。


 智子の脳裏に、合気道の師範の言葉が走った。

 

「どんな状況でも、冷静さを失わずに相手の力を利用して」


 けれど、今この瞬間、そんな教練言葉も、合気道の技も、すべてが無意味で無力だった。自分が「警察官」であることすら、意味を失っていた。

 智子の身体はFreezeして、ただの「か弱い一人の女」に転落させられていたのだ。


 口の中に挿入してきた生暖かな舌と唾液。あまりの不快さに吐き気を催す。しかし、ふと唇が解放され、淀んだ悪臭が新鮮な空気に感じる。

 それも束の間だった。智子は「オエッ」と、床に向けて唾液を吐く。再び唾液を吐こうとした瞬間に身体を振られ、唾液が制服にかかる。


 身体が浮いたような感じがしたかと思うと、再びペットボトルやビニール袋の散乱する床に、引き倒されてしまう。


「キャッ!」


 短い悲鳴を上げて倒れた婦警に、すぐさま完也が覆い被ってくる。


「嫌ああッ!」


 虚しく響く悲鳴。仰向けにされた智子の制服にごっつい腕が伸びてきて、一気に制服を大きく左右に引き裂かれる。


「嫌ああああッ!」


 甲高く、悲哀に奏でられた婦警の悲鳴に変わり、大きな怒声がトイレに響く。そして智子の薄い両頬の肌を打つ厚い手のひらの音。Flopした智子は智子は無抵抗のまま、鈍い身体が白色のブラジャーを胸元に押し上げられ胸を露わにされてしまう。


 乳房を撫でる少年の指が、智子にはゴキブリが這っているように思えた。


「お願い…やめて…」


 震える声が喉から零れる。しかし少年の目は、もはや人間の目ではなかった。智子は思わず顔を背けるが、人工的な光とレンズが無慈悲に婦警を追い続けている。この光が智子に擦り込まれていく。


 手慣れた手つきで、完也の指が純潔の素肌の乳房を何度も侵食されていく。


「あっ、ああっ…アン」


 歪んだ顔の顎がひくっと上がり、悶えた声がスマホの録音機に吸い込まれていく。天井のシミを見つめる目に涙が溢れる。警察官としての誇り、一人の人間としての尊厳、女性としての清らかさ─すべてが、この薄暗い空間で踏みにじられ、失っていく。微かな吐息が漏れ、自分という存在が解離していく。


「私は…もう…、私じゃない…」


 少年の指が下半身へと伸びていき、太ももを這う。やがて恥丘でしばらく弄んだ後、下着とパンストをゆっくりと膝まで下ろしていく。


「お願い…股間に触れても良いから…レイプだけはやめて...」


 智子は涙交じりの声で、完也に哀願する。


 完也は許しを請う婦警の顔を見下ろしながら、背筋に快感が走るのを感じていた。警察官という権力者が、自分の前でこんなにも無力になっている─その光景は、今までの鬱屈した感情を一気に解き放つものだった。

 単なる悪戯的な猥褻ではなく、婦人警官の肉体を蝕み、征服し服従させた喜びに完也は満たされていく。


 完弱々しい一人の女に成り下がった婦警の姿に、完也の支配欲が更に膨れ上がる。婦人警官の智子の女性器を、この手で踏みにじれる─そう思うと、血が沸き立つのを感じた。


「撮影、バッチリだからな。お前の恥ずかしい姿、後で、じっくり見させてもらうぜ」


 完也はズボンと下着を下げると、ゆっくりと腰をおろす。


「避妊なんてするなよな。二人の可愛い子供じゃないかあ…そんなことしたら、婦警さん…殺人犯だぜえ…」


 完也は婦警の耳元でそう囁くと、男性器を挿入させ、腰をクイッと前に動かす……。

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