第5話 サヤナとナギサ、工房は食堂へ

◇ 

俺は、

探検を一通り終えて、

シャワーも浴び直した、

さっぱりした身体で、

南十字星の扉を開けた。


「あれ?」

南十字星の店頭には、

誰もいなかった。


「御用の方はベルを鳴らしてください。」

の注意書きとともに、

美しい竜の形をした、

白銀のベルが立てて置いてあった。

これも、シオン先生の作品かもしれないな。

暖かくて綺麗で優しかった。


でも、

鳴らす前にポーラは見つかった。

シャッターの空いた工房で、

アトラスとリフォームに勤しんでいたからだ。

笑い合う二人の背景に、

七色のシャボンの輪が、

2つ3つ見えた。


お似合い。

見た目は二十四と十四才、

成人と半竜なのだけど、

二人の中身の年齢に、

ピタッと合ってるんだろう。


この世界は、

そういう世界だ。


年齢は大事だけど、

回廊の向こう側に比べたら、

深刻でなく、

些末なことだった。


そして工房は、

大きな食堂になるんだと思った。

もう九割完成してる。


大きなかまど。

大きなテーブル。

しかもたくさん。

天窓の光が指す、

静かなトルソーの部屋も素敵だったが、

こっちも、木造の建物に似合ってて素敵だった。

いかにも、

ポーラらしいな!って思った。

ふっくら、

たっぷり、

惜しみない。

ミル姉さんに、近いのかもしれない。


俺が、

入口でもじもじしてたら、

アトラスとポーラは、

ぱあっと笑って手招きした。

二人もセンスが似てるんだと思う。


力なく斜めに頭を振っても、

にこにこ腕を取って、

ぐんっと胸に引き寄せてくれるような、

暑苦しい優しさだった。

夏のせいだけじゃないだろう。

二人の身体の汗は、

靄のように白く輝いていた。



そして、

昼の鐘が鳴り終るか、

終わらないかのうちに、

サヤナと、

ナギサがお喋りしながら、

工房に入ってきたんだ!!


妖精のサヤナは、

緑髪のショートカットだ。

くりん外巻きにカールした前髪。

そしてリュックサック。


かもめのナギサは、

青髪ストレート。今日はひとつ結び。

ポニーテールだ。

肩がけのスポーツバッグ。

二人とも、

各々のカラーと銀の刺繍をあしらった、

ここのサッカーウエアだ!


俺、嬉しくて、

駆け寄って飛びついちゃったよ!

仲間だ!!

そして、ぎゅうってした。

懐かしい、潮風と草原の香り。

知らない土地の花と果実の香り。


むぎゅっとした感触。

どきーー!!っとして、

真っ赤になったけど、

二人は、

顔を見て、

すぐにゲラゲラ笑ってくれた。

そして、

両サイドから、

ぎゅっと仕返してくれた。

うわあっ!!



チワは、

遅れて到着するんだって。

夜になるかもしれない、とのことだった。

山に登山ならぬ、

夜のナイターってやつだな。


俺は好きだ。

ボールを蹴る音がいつもより、

ばあんって響き渡る。


仲間もこうこうとした、

白くて眩しい照明の下で、

テンション高く走る。


虫がパチパチと口に入るのはヤだけど、

きっと、

煉獄のレンのキックは、

さぞ闇夜に映えるだろう。


うん。

最っ高に生かしてる!!と思った。

夏は暗くなるのが遅いし、

むしろ、チワ遅れて来ていいよ?って思った。

ふふ。


そして、

妄想してるうちに、

ゲストが続々集まった。小学生や中学生も増えた。


工房のかまどが、

ポッと燃えて、

蓋のついた大きなお皿が、

ぽんぽんぽんと並んでいく。

ごちそうのいい匂い!!


アトラスの横に、

ミル姉さんがやってきた。

シオンさんも来た。


みんな、バトラーの格好はしてた。

蝶ネクタイにスーツ。


でも、うーん。

なんだろう??


やっぱり、

給食当番とか、

全校集会の先生にしか見えないのだった。


ベルを鳴らしたところで、

思い通りに世話を焼いてくれる気が、

まあったくしなかった。



卓のごちそうは、

山盛りになり、

乾杯のグラスがやってきた。


ドリンクは、

ミルッシュソーダにした。

ここにきて初めて飲んだ、大事な飲み物!


あっ、向こうに森の神殿のみんながいる!

つんつんと袖を引っ張って、

サヤナとナギサにも教えた。


手を降ると、

にっこりわらってくれた。 

挨拶はミル姉さんと、シオンさんだった。

今日のシオンさんは銀髪だ。


乾杯チアーズ!!


そして、

かちゃんかちゃんと、

乾杯のグラスの音が元工房、

現、食堂に響いたのだった。

クラスIIの再開!!

みんな幸せだった。

俺たちはポーラたちに容器を貸してもらって、

チワのための、お弁当を作った。

俺たちを見て、

シオンさんが、

ドリンクの小瓶をたくさんくれた。


あっ、

あれ?

喋ったよね!!!


がうがう、くるくるじゃない!!

もしかして、


片思いが終わった?




あ、あああーー!




思うやいなや、

入口から、俺の嫁。 


エルザが、

しずしずと入ってきたんだ。

俺のプレゼントした帽子を被って!!!

青い蝶が、閃光のように俺をスパッと撃ち抜いた!

それから潮風の一撃。

ざっぱーーん!!

埴輪の正装女子そっくりの神々しいお顔で、

俺に、にっこり笑った。


俺は、へなへなとその場に座り込んだ。

ぽろぽろ涙が出た。

手を合わせて拝んだ。


サヤナがびっくりして、

俺の背中を撫でた。

そして、エルザを見て、

ぷぷっと笑った。

ナギサは、意地悪く、

ぷー、クスクスと笑った。


うっ、

うっ、

俺だってえ、


不安じゃないわけじゃ、

なかったんだよお。

俺は尻もちをついたまま、立ち上がれなくなってしまった。



そして、

へなへなのを俺よそに、

二人は笑ってエルザを、

俺たちの席に呼んでくれた。


そして、

ビュッフェからは、

あんこクリームパン。

エルザの大好物。


暗黒竜と、あんこクリーム。

ぷぷっ。 

似てるけど、

似てねえ!!


エルザは、親父ギャグが好きなんだ。

チワのお弁当セットにも、添えておこう。


それから、

三人は、

俺にドリンクのおかわりを持ってきてほしいと頼んだ。

オッケー★


俺、知ってるんだ。


俺抜きだと、


エルザは、

女の子たちと会話してるんだよ。


ほら、ね。


遠巻きに振り向くと、

俺じゃなくて、シオンさんや、

アトラスのこと見て、

きゃあきゃあ言ってるのが見えた。

いいんだ、いいんだ。

楽しそうで何より。


あれ?

さっきの二人組は居ないな?お隣さん。


まあそうか。


疲れてたもんな。


少し悩んで、

あんこクリーム大福を2つ、

緑茶缶を2つだけ、

彼らの部屋に、

持っていくことにした。


それで、

サヤナとナギサにも、

お詫びの挨拶に、

ついてきてもらうことにしたんだ。

経緯あれやこれやも説明した。


二人とも、

いいよって笑って言ってくれた。


そりゃそうだよな。


俺、中身が小2だってバレてるんだもん!!


くそー、

前回の最初のログイン設定を、

ミスらなきゃなあ。


俺は、

ごめん、のかわりに、

二人に、力こぶをつくって、

にこっとしてみせた。

ササッカーの勝利を誓った!!


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