35.精霊たちへの感謝祭
セイルの世界は、各地の幻想種と連携を取れるようになった精霊たちの活躍により、ますます安定した秩序を築いていた。幻想種たちも自然界の守護者として、その役割を存分に果たしていた。
そんなある日、水晶球を眺めながらセイルは考え込んでいた。
「こうして世界が調和を保てているのも、精霊たちのおかげだよな……何か感謝を伝えたいけど、どうしたらいいんだろう?」
そのつぶやきを聞きつけたリーネが、静かにセイルのそばに歩み寄った。
「感謝を形にしたいなら、みんなが集まって楽しめる場を作るのはどうかしら?」
セイルは顔を上げ、目を輝かせた。
「それだ!みんなでパーティをやろう!精霊たちを集めて、リーネやフィエナも一緒に、楽しい時間を過ごせたらきっといいよな。」
パーティの企画に胸を躍らせるセイルだったが、すぐにある問題に気づいた。
「……そういえば、精霊たちって食べ物とか飲み物って必要なのか?」
リーネは肩をすくめて答える。
「精霊たちはあなたや周囲の魔力をエネルギーに変換しているから、通常は食事を取ったりはしないわね。」
リーネの返事を聞いてセイルは顔を曇らせた。そんなセイルを励ますようにフィエナが代わりになる案を伝えた。
「セイル様、精霊たちが食べるものを作ること自体は、あなたの魔力を創造の力で変化させれば可能です。ただ、彼らに楽しんでもらうのが目的であれば普通の料理をただ真似るのではなく、彼らに合ったものをイメージする必要があります。」
「イメージか……抽象的だな。でも、折角やるなら楽しんでほしいしな。よし、やってみるか!」
セイルは早速フィエナの協力を得て、精霊たちが楽しめる「料理」の創造に挑むことにした。しかし、想像以上に難しい作業だった。
「セイル様、もっと色彩を意識してみてください。精霊たちは形よりも魔力の流れや輝きに惹かれるのです。」
「えっと、こんな感じか……?」
セイルが慎重に魔力を操ると、淡い光を放つゼリー状の物体が浮かび上がった。それは虹色に輝き、目を見張るような美しさだった。
「良いですね!でも、これだけだと物足りないかもしれません。もう少し質感を変えて香りも加えれば、さらに魅力的になると思います。」
何度も失敗を繰り返しながら、セイルは少しずつ精霊たちが楽しめる料理を完成させていった。透明な水晶の器に盛り付けられた料理たちは、光を受けてキラキラと輝き、まるで星々を閉じ込めたようだった。
料理がひと段落してフィエナが精霊たちの様子を見に行ったところで、セイルはふと思いついた。リーネとフィエナへの感謝を込めて、自分が人間だった頃に得意だったお菓子も作ろう、と。
「……何か、懐かしいな。」
セイルは一人になった厨房で人間時代に何度も作ったことのある小さなクッキーを焼き上げていった。香ばしい香りが部屋中に広がり、それを嗅ぎつけたように現れたリーネがそっと厨房を覗き込んできた。
「あら、良い香りね。セイル、何を作っていたの?」
「あ、いや……これはその、ちょっとしたサプライズ!」
セイルは慌てて咄嗟に完成したクッキーを隠した。リーネはそれを見てくすっと笑いながら言った。
「ふふっ、そうなの。それじゃ、期待してるわね。」
そして迎えたパーティ当日。リーネやフィエナ、精霊たちを庭園に招き入れた。庭園はセイルが魔力で飾り付けをした特別な空間になっており、淡い光を放つ植物や浮遊する花びらが幻想的な雰囲気を醸し出していた。
テーブルの上には、魔力で作られた鮮やかな料理が並んでいた。精霊たちは興味津々といった様子で料理を囲み、一つずつ手を伸ばしていく。
「これは……美しい。光を放つ果実がこんなにも甘やかで、しかも魔力の波長が私たちにぴったりだわ!」
アリエルがそう言いながら、果実を口に運んでうっとりとした表情を浮かべた。
「この液体は、まるで流れる星の川みたいだね……香りだけで心が落ち着く感じがする。」
エアレットはその飲み物を飲み干して、穏やかな笑みを浮かべた。
「このサクサクした結晶、美味しいだけではなくエネルギーも満ちてくる感じがするな。」
アルディアもスナックのようなそれらを食べながら満足そうな表情で感想を零した。
セイルはそんな彼らの反応を見て胸が温かくなった。
「セイル、良い感じじゃない。精霊たちもとても喜んでいるわね。」
リーネが微笑みながらそう言った。
一方、フィエナはセイルが用意したクッキーを手に取り、少し驚いた表情を見せた。
「セイル様、このクッキーとても美味しいです。菓子作りもお得意だったんですね。」
「いや、趣味程度のものだよ。でも、リーネやフィエナ、それに精霊たちが頑張ってくれてるおかげで、今の世界がある。だから、今回の料理やお菓子にはその感謝の気持ちを込めたつもりだ。」
セイルの言葉に、リーネもフィエナも静かに頷いた。そして精霊たちもまた、セイルの気持ちに応えるようにより一層彼のため、そして世界のために頑張る決意を新たにするのだった。
パーティの夜が更けていく中、セイルは水晶球越しに世界を眺めながら思った。
「この世界は、俺一人じゃ作れなかった。でも、みんながいるからこそ、こんなにも輝いているんだ。」
夜空には無数の星々が輝き、彼らが過ごした楽しいひと時を祝福しているかのようだった。
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