新米神様、世界を創る

２７．天使フィエナとの邂逅

セイルの世界は日に日に多様性を増していた。新たな生物が次々と誕生し、それに伴い環境や生態系の調整も必要になっている。テラヴィールが繁栄し始めた土壌には、草食動物が増え始め森林のバランスが変わりつつあった。一方、空高く飛ぶ「スカイフローター」という鳥の一群が長距離を移動するため、その体に付く微生物などが大陸を渡り、大陸間での影響なども発生していた。

セイルはそんな光景に嬉しさを感じつつも、忙しさが増す日々に焦りも感じていた。

「こんなにやることが増えるとは思ってなかったな……。」

彼は手元の世界地図を見つめ、次々と調整する場所を確認する。

「セイル、そろそろ休憩を取らないと倒れるわよ。」

リーネが珍しくセイルを心配するような口調でそう指摘してきた。

「わかってるんだけどな。でも、放っておくとバランスが崩れそうで……。」

リーネはため息をつき、机にそっと何かを置いた。

「生物の創造を勧めたのは私だから、無理をするなとは言えないけれどね。その代わりにあなたを手助けする存在を手配したわ。」

その言葉にセイルは顔を上げた。

「手助けって？」

リーネが指を鳴らすと神殿の扉がふわりと開き、光と共に一人の女性が現れた。彼女は純白の羽根を持つ天使で、穏やかで落ち着いた表情をしていた。

「彼女はフィエナ、見ての通り天使の一人よ。」

「初めまして、セイル様。」

フィエナは深々と頭を下げ、微笑んだ。

セイルはぽかんと口を開けてしばらくフィエナを見てからやっと返事をした。

「天使って本当に居たんだ……あ、は、初めまして。よろしく、フィエナ」

「天使は神の使いとして生物に神の言葉を伝える役目を担っているわ。あなたのいた世界では様々な神の存在が信じられていたけれど、そんな話聞いたことなかった？」

確かに聞いたことがあるような気がする。あれは、キリスト教だったか？セイルから見て、彼女は宗教などで謳われる天使の姿そのものだった。

「それ以外にも天使には神をサポートする能力も持っているの。あなたが権限を与えてあげれば彼女はその世界の管理をサポートできるようになるわ。世界の創造まではできないけどね。」

「リーネ様からお聞きしています。私はこの世界の環境調整や、生物の観察、記録をお手伝いするために参りました。至らぬところも多いかと思いますが、精一杯努めます。」

彼女の声には柔らかな響きがあり、セイルは少し肩の力を抜いて頷いた。

その日から早速フィエナはその能力を発揮し始めた。彼女は精霊や生物たちと親しくなり、セイルが見逃していた小さな変化を指摘することができた。

「セイル様、この川沿いに新しく発生した植物『ミストリーフ』が急速に繁殖しています。これが進むと他の植物の成長を妨げるかもしれません。」

セイルはフィエナが指さした方向を見ると、確かに水辺に青白い葉を持つ植物が密集していた。

「確かに気づかなかったな。ありがとう、すぐに調整する。」

フィエナは続ける。

「ですが、この植物には特徴があります。実は根が水を浄化する役割を果たしているようです。他の生物との共存を模索するのが良いかもしれません。」

「なるほど。じゃあ、周囲の植物が共存できるように繁殖の範囲だけを調整しよう。」

フィエナの助言は的確で、セイルが一人で抱えていた作業を大幅に軽減していった。

そんな日々が続く中、セイルは神殿の広間で一息ついていた。リーネとフィエナが傍にいる。

「フィエナのおかげでかなり楽になったよ。こんな優秀な天使が居るならもっと早く呼んで欲しかったな」

「それは駄目よ。最初から天使に頼っていてはあなたは神として成長できないでしょう？今回フィエナを呼んだのは、あなたが神としてある程度経験を積んだのと、世界の成長具合から必要になると判断したからよ」

厳しいながらもしっかり見守ってくれていることが分かるリーネの発言に、セイルは頷き、感謝の言葉を返した。

「そりゃそうか。この世界を創り上げるのは俺の役目だもんな。俺がここまで成長できたのもリーネのおかげだ。いつもありがとう。」

「どういたしまして。でも、気を抜くのは早いわよ？この世界はまだ成長途中、これからも様々な難題が待ち受けているわ」

「分かってる。そのために、フィエナが来てくれたんだもんな。」

セイルにそう言われたフィエナは微笑みながら答える。

「はい。ですが、セイル様の考えや想いを第一にして、補助するのが私の役目です。全てを肩代わりすることはできませんので、そこはお忘れなく。」

フィエナからもそう言われ、セイルは思わず苦笑した。

「頼もしい限りだけど、そうだよな。俺が本当にやりたいことを見失わないようにしなきゃな。」

フィエナは頷く。

「そのためにも、セイル様が創りたい世界の全体像をお聞かせいただけますか？それを基に、私もより良いサポートを目指します。」

フィエナの言葉に触発され、セイルは自分の世界を改めて見つめ直した。やるべきことが増え、管理が大変になっている今だからこそ、自分が何を目指しているのかを再確認する必要があると感じた。

「俺が創りたい世界、か。フィエナも来てくれたことだし、俺ももう一度しっかり考えないとな。」

セイルは決意を新たにした。彼の傍にはリーネとフィエナという頼もしい存在がいる。そしてこの世界は、彼らの新たな試みを受け入れる舞台として、まだまだ成長していくのだった。