徒然から覚めて

雨吐流

冬支度

 綺麗な夕焼けを見て、秋だなぁなんて思った。思っていたはずなのだけれど、金木犀の香りが消えて、冬の匂いがする。

 今朝の毛布の中で感じた冷気を思い出して、今日だと思った。

 思いついたのは午後1時。太陽はもう帰りのことを考えていそうな角度。急いでベッドの下から出した布団をベランダへ。午前に洗ったタオルケットと交代。もう乾いてる、ありがたいね。


 濡れてもいないのに布団を干すということに、実は慣れていない。ふかふかになるっていうけれど、ふわふわのカバーをかけた布団は何もしなくても気持ちいいし。お日様の匂いなんて別に好きじゃないし。

 でも最近眺めているイラスト集に、ぽかぽかをたくさん含んだ布団に埋もれる女の子がいたので。なんとなく、今回は真似してみようと思っていた。


 夕暮れ時まで、数時間。取り込んだタオルケットをベッドの下にしまって、ついでに扇風機も隣に。もうストックが少ないごはんを炊いて、お風呂の掃除。録りためた番組を見ながら爪を磨いてハンドクリームを塗ったら、いつの間にかベッドで眠っていた。午睡というもの。”昼寝”よりも微睡んでいる気がする。

 スマホが顔の横に。そういえば漫画を読んでいた。ははぁそれで寝てしまったのだなと難易度激甘の推理をかまして、時計を見たら午後3時半。これはおやつを食べる口実ができた。基本いつもお腹が空いている。

 冷凍庫の今川焼きをレンジに入れて、お茶を用意。いつもは飲み物を待っていられないけど、今日は焦りもまだ寝ぼけているから。

 今度は何度も見た映画をお供に、ほかほかのあんこと生地を頬張る。映画は好きなシーンだけ。緑茶も啜れば、余裕のある休日みたい。……お腹がまだ空いているから、みかんを追加。


 それからパソコンの前に座った。机も椅子も、パソコンも、買ったばかりのお気に入り。新しい小説を書こうと思った。でも進まない。タイトルずれてない?設定決めてなくない?あ。ここ矛盾してる。

 やめた。ネットショップでニットを探す。去年何も買ってなかったんだよね。スカートも欲しいかも。なんかどれも違うんだよなあ。いっぱいありすぎて頭が痛くなってきた。ん、頭痛いっていうか目がちかちかする。なんか画面明るくない?部屋が暗いのか。

 午後4時半。窓の向こうにはオレンジ、黄色、緑、青、紺のグラデーション。

 夕方だ。


 ベランダの手すりに肘をのせて、深呼吸する。空の色を目に焼き付ける。この色で、今度またアクセサリーを作ってみたい。

 電車の音と、車のドアを閉める音。近くに見える川。星はまだ出ていない。

 この空気はきっと今だけだから、たっぷり吸い込む。また1年、この街で生きたのだ。誕生日でもないのにそんなことを思う。

 やっぱり小説、書きたいなぁ。


 両手に抱えた布団はベッドの毛布の上へ。伸ばして、長さのバランスを見て、枕の位置を調節して。できた。

 オレンジの照明を点ければ、冬になったわたしの部屋。ふわふわで、もこもこで、全部の色があったかくて。

 今日は見逃しちゃったけれど、夕方よりもちょっと前の短い時間、壁に不思議な影ができる。レースのカーテンの皺が映って、林の中にいるように思えるのだ。

 わたしはこの部屋が好き。冬の部屋がいちばん好き。

 もう少し寒くなったら、湯たんぽを使おう。なんと今年は新しいやつ。柔らかいの、使ってみたかったんだ。

 あとはこたつ布団。そうそう、布団だ、布団。


 壁にぶつからないように、ベッドの前で距離を見て。

 飛び込む!

 ばふ、よりはもう少し硬い音。顔を埋めたまま吸い込む。

 うん。よく分からない。


 でも、悪くない。

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徒然から覚めて 雨吐流 @rain_99

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