バッドエンド後の18禁エロ鬱デスゲーム主人公に転生しちゃったみたいです

田中又雄

第1話 BADENDの世界へようこそ

『シーン数:100/100 COMPLETE』


 昼間だと言うのにカーテンを締め切って真っ暗な部屋。

モニターの明かりだけが煌々と光り輝く。


 表示された画面を見た瞬間、達成感で満たされる。

まるで名作と呼ばれる小説を読みえた後のような、マラソンランナーが完走したときのような、WBCで日本が優勝したときのような...そんな満足感と喪失感だった。


 深く、呼吸をしたまま、後ろに倒れ込む。


 ...やった。やってやったぞ。


 購入してから約2週間、ほとんど飲まず食わず寝ずでこのゲームをやり続けて、大学の単位を1つ落としてしまったものの、この人気18禁エロ鬱デスゲーム【私を閉じ込めないで】を誰より早く完全クリアすることができたのだ。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093088568019628


 このゲームは発売前から話題となっていた。

あらすじを一応説明しておこう。


【ある日、目を覚ますと、12畳程度の大きさの何もない部屋に集められた男女6人。

そうして、とあるゲームマスターのような男にあることを告げられる。


『ここから抜け出すには3つの謎を解く必要がある。1つ...私の考えた謎解きを解くこと。2つ...それぞれが抱えている闇を暴くこと。そして、3つ...その中にいる裏切り者を見つけること。それが出来たのなら、男女2人の恋人関係...いや、大人な関係になったもののみこの部屋を抜け出すことができる。それ以外のものは例外なく死ぬ』というものだった。

見ず知らずの男女6人はそれぞれ生き残るため、謎を解き、恋に落ち、欲に乱れ、騙しあう...最高にエロく最高に面白いゲームがここに誕生。


あなたはたった一つのバッドエンドにたどり着けるだろうか?】


 それは圧倒的謎解き要素、個性的で魅力的なキャラクター、複雑で面白いストーリーというのがコンセプトのエロゲーであり、エロゲーという枠を超えて期待されている作品だった。

更に、先行プレイをした有名エロゲーマー達からも絶賛されていたのが影響し、注目度は最高潮だった。


 そんな噂を聞いた俺は発売日にオンラインで即購入し、その面白さにあっという間に虜になった。


 30のエンディングと分岐によるシーン回収、たまにエロいシーンで慰めながら、わずか2週間で完全クリアに辿り着いたのだ。


 それぞれのエンディングを見ることでわかる真実...。

更に唯一のバッドエンドを見ることで、ハッピーエンドに見えた29のエンドが全てバッドエンドと分かる仕組み...。

複雑で作りこまれた作品にいつの間にか自分もあの世界に入っているように思えるほどの没入感...。


 余韻に浸ってから少しして、自慢するためにもう一度起き上がり、カメラで画面を撮ってSNSに投稿する。


 こんな時に友達ではなく真っ先にSNSにあげちゃう自分を客観視し、少し絶望する。


 はぁ...疲れた。本当に疲れた。と、もう一度倒れこむ。

多分、人生で一番頑張ったと思う。


 見てわかる通り、俺はダメダメのクズFラン大学生であり、友人もほとんどいない。わずかにいる友人も全てネッ友であり、リアルの友達は0人。


 さて、解説動画でも作って小銭稼ぎでもするか、なんて考えてみる。

でも、そうだなー...。...とりあえず、今は寝よう。

でも...午後からの講義は出ないと...まじで単位が足りなくなるかもしれ...。


 脳内で言葉を言い終える前に、まるで麻酔を撃たれたかのように徐々に意識が遠のいていった。



 ◇


「...ん?」


 目を覚ますと見慣れない天井...見慣れないクローゼットには、見慣れた制服がかかっていた。


 ...なんだこれ?ここは...?


 その瞬間、鼻を包むようなお味噌汁のいい匂い。


 現状を理解できないまま、体を起こしてみる。


 見たことのない部屋...。

いや...違う。どこかで見たことがある気がする。

しかし、どこでみたかはわからない。けど...知っている...。そんな少しの違和感。


 ゆっくりと立ち上がり、匂いのするほうに向かう。


 扉を開き、リビングのようなところに来ると、一人の女の子が目に入る。


 その子のことは知っていた。

名前だってパッと出た。

それと同時にさっきの違和感の正体、そして既視感の理由がはっきりする。


 そう、リビングでソファに座ってまるで人形のように目が死んで、ぼーっと何も映っていないテレビを見ているのは...あのゲームの正ヒロイン【輝夜かぐや 夜月よづき】だった。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093088568087666


「...何が...どうなってんだよ」


 そりゃあ、あの制服も見たことがあるはずだ。

だって、それはゲーム中、主人公が常に着ていた制服だったんだから。


 けど...主人公とヒロインがこの世界で生きているということは...これは唯一のBADENDの...後の世界ってことか?


 いや...ゲームに転生するのはいいけど、よりにもよってBADENDの後の世界かよ!!と、脳内で叫ぶ。


 その瞬間、脳内で音声が流れる。


【ミッション1:ヒロインを正気に戻そう。

現在の精神値[-100]

ミッション成功:1000万円

ミッション失敗:篠木しのぎ 紅羽くれはが生き返る】


 篠木紅羽...。

それは彼女を裏切り嵌めたもう一人のヒロイン...。

こいつが生き返るということは彼女にとって相当なストレスになるだろう。


 いいぜ...やってやろうじゃねぇか...。


 こうして俺のゴールの見えないゲームがスタートする。

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