江戸の剣豪、異世界でも無双する〜転生しても我の剣技に死角なし〜

朧月アーク

第1話 江戸の剣豪、死する

関ヶ原の戦い後の宴は盛大なものだった。


古今東西のありとあらゆる贅沢さを尽くした料理と酒、煌びやかに場を彩る調度品の数々。


「見事私を補佐し、こん戦いを経て、石田三成率いる西軍を討ち滅ぼした英雄よ」


我はあるじである家康様の前でひざまずき、頭を下げる。


「よっておぬしに最強の剣士たる称号、剣豪を授ける」


家康様がそう言うと、そばに控えていた家臣が刀を俺の目の前に置いた。


白蓮びゃくれんつるぎ


「はッ!」


我は跪ずきながら返事をした。


「この刀はわしからの褒美だ。これからは剣豪の二つ名を名乗るがいい」


「―ッ!有り難き……幸せ」


剣術に生きて七十と有余年、我の人生の全てが、認められたのだ。


――そうして我はその場にいた共に戦った仲間達から、会場が割れんばかりの拍手を受けたのだった。


「それではうたげを始めるっ!」


家康様がそう言うと、場は一気に盛り上がった。


「おぬしも楽しむといい」


「御意ッ」


我も立ち上がり、ぜんの前に座る。


「我は酒でよい」


あるじが酒をたしなまないのを知っている我は、自らぜんの前にあるさかずきあおった。


すると急に視界がぐらつき始める。


――なッ……何だこれは?


我は思わずさかずきを落としてしまった。


「――貴様が飲むのは想定外だったが、これで徳川軍の大幅な、弱体化が謀れた」


我は薄まる意識の中、そのような声が聞こえた。


「お前は……誰…だ」


「私は――大谷吉継おおたによしつぐ、三成の唯一の友であり、仲間だ」


「な……に……」


「これより石田三成に代わり、私が天下をべる」


我の意識はそこで途切れた。


―――――――――――――――


……目が覚めると、我は一面が白色の謎の空間に包まれていた。


まるで霧の中に浮かんでいるようだ。


暑さ、寒さを感じない。


音も、味も、何もかも


―確か……我は宴で酒を飲まされて……


「目を覚ましたのですね、剣豪様」


声がする方に顔を向けるとそこには無表情な顔をした、金髪の女が立っていた。


―ッ!


咄嗟に我は身構える。


「警戒しないでください。私は貴方に危害を加える気はないですから」


「………一体、誰なんだ貴様は」


「私は転生を司る女神、ザグレウス」


「転生……?女神……?」


「はい、貴方は死に、そして新たな生を授かりました」


「……そうか」


我は冷静を装いながらも、内心は動揺していた。


「私は貴方にお願いがあってここ、『現世うつしよはざま』に呼びました」


「その願いとは………?」


「はい。貴方には剣豪として、ある世界に行って欲しいのです」


「ある世界?」


我は疑問に思い、女神に尋ねる。


「その世界は魔王によって危機に瀕しています。そこで貴方のような剣豪を召喚し、魔王討伐をお願いしたい、と」


「我に……魔王なるものを倒せと」


「はい。貴方様なら出来るはずです」


女神は我の目を真っ直ぐに見つめながらそう言った。


―この者は……本当に我がその魔王とやらを倒すと信じているのだな……


「……一度失った命だからな……分かった。引き受けよう」


「本当ですか!ありがとうございます!」


女神は満面の笑みでそう言った。


「それでは貴方様にスキルを与えましょう!」


「すきる?それは何だ?」


「簡単に言うと、特殊能力ですね」


―特殊能力………異能と言うわけか


再度女神のことを見ると、細い腕を組んで何やら考えているようだった。


「……貴方様の肉体なら6つはいけますね」


「スキルがか?」


「はい。転生者にスキルを与える時は、その肉体に耐えきれる数じゃないと、壊れるかもしれないんです………肉体も精神も」


何やら恐ろしいことを言っているようだが、我には到底理解できぬ領域だった。


「では、貴方様にスキルを授けました。詳細は次の世界で確認してみてください」


「承知した」


「それでは、貴方様の新たな人生に祝福を」


そして我の視界は光に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る