第16話ーreposeー
ちゃんと説明したいところだが、今は一刻を争う。
シャワー室にいるノエルに声をかける為にアリシアを抱えたまま、片手でドアを開ける。
「ノエルわるい。すぐ…」
「ぴゃぁぁああああ!?」
ちょうどシャワーを浴び終わって脱衣所に戻ってくるノエルとバッティング。
このままでは俺のバットもバッドエンディング。
そう、ロミオとジュリエットのように俺と息子が引き裂かれてしまうかもしれない。
息子のほうから迎えに来てくれればよいが、そんなことあろうはずもない。
「すぐ戻る!」そう伝えて勢いよく背中でドアを閉める。
「ちょ、シノノメさんどちらに⋯?!」
俺を罵倒するノエルの声が聞こえるが、
今はあまり時間がない。
アリシアを抱えたまま部屋から出て、ひとまずカウンターに向かう。
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「すまない、誰かいるか!!」
「お。兄ちゃんどうし⋯。?!」
運良く、コーヒーを片手におやっさんが出てきた。
営業終了後の一服中だったらしい。
「店主悪い、緊急だ。医療に精通したものはいないか。もしくは近くで診てもらえる場所を知りたい。」
アリシアは俺の腕の中で、さっきよりも辛そうに肩で息をしている。
明らかに状態が悪化していた。
こっちの状況を聞く前におやっさんが吠える。
「おい、レイラ!こっちに来てくれ!」
そう叫ぶと、カウンターの奥から女将さんが出てきた。
なるほど。レイラってのは女将さんの名前か。
「何事だい?あら、お兄ちゃん。それにお姉ちゃんまで。」
「レイラ。姉ちゃんのこと診てやってくれないか。」
ぎょっとした顔をしてから、女将さんがこちらに駆け寄ってくる。
「⋯⋯⋯ひどいね。手伝ってくれるかい。」
女将さんに言われるがままにアリシアを横に寝かせる。
そのまま慣れた手つきで介抱をはじめたため、邪魔しないように後ろに下がる。
「店主、彼女は医療に心得が?」
俺と同じく少し離れた場所で腕組みをしながら様子を見守るおやっさんに声をかける。
「ああ。あいつは昔、冒険者ギルドに勤めていてな。医者ではないが、医療班の助手を勤めていたから怪我した冒険者を診てきた経験と知識はあるんだ。」
「⋯なるほど。」
そういえば、おやっさんも元々はギルドで飯処を営んでいたっていってたな。
もしかしたら二人はそこで知り合って仲良くなったのかもしれない。
「あいつも元は姉ちゃんみたいにスタイルよかったんだがな。俺がうまい飯ばっか食わせたせいであんなことになっちまった。」
少し自嘲気味におやっさんは笑う。
「十分、素敵だしお似合いですよ。」
俺がそういうと、おやっさんは少し嬉しそうにはにかんだ。
あせっていた俺も少しだけ落ち着いて、視線を元に戻す。
アリシアの様子は、俺がついさっき抱えて近くで見ていた時よりは幾分かよくなっていたようだった。
俺は医者先生じゃないからよくわからんが、はたから見ても回復していそうな気はする。
よかった。
「ふぅ…。」
安堵して、今までの緊張感を開放するようにソファに腰を下ろした。
それにしても…なんで急に。
一緒に宿で寝泊まりすることになって、食事をして…
そのあと何か思い出したかのように泣いてたが、部屋に戻ってから様子がおかしくなった。
…なんなんだ。
食事の途中から…。
おやっさんの顔を軽く盗み見る。
介抱する女将さんとアリシアを見守る真剣な表情。
ありえない。
それにアリシアに毒を盛る理由も見当たらない。
そりゃ、不審者かと心配はさせたかもしれないがその後は俺たちも仲良く食事をしていたわけだし。
それに…。
おやっさんはたぶん、自分の仕事に誇りを持ってる。
俺はまだ数日の付き合いしかないが、それは間違いなくそう思う。
そんなことはしない。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
考えていても今は仕方がないと思った俺は、
下ろした腰を上げて立ち上がった。
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