俺を裏切った婚約者が村を焼き討ちしにきたので落とし前つけさせることにした
サドガワイツキ
第1話 俺の幼馴染が村を焼くはずがない
長く続いた戦乱の世が終わり、天下泰平が訪れて十数年。
華々しい都から離れた寒村に、じいさんとおばあさんが住んでいました。
トシ爺さんは炭を焼いて生計を立て、ばあさんは家事をして暮らしていたのだけれど、ある日川から小舟に載せられて流されて着た赤子をばあさんがみつけ、桃色のおくるみに包まれていたその赤子をじいさんは我が子として育てることにした。それから15年、すくすくと健康に育ったその赤子につけられた名前は桃太郎―――――そう、この俺ってワケよ。
人口50人にも満たない寂れた寒村の生活は慎ましやかだけれど暮らしに困るほどではないし、幸いにも同世代の友人達もいるし、それに、幼馴染で恋人の玉子との祝言も決まった。田舎暮らしとしては恵まれていると思う。
今日も今日とて親しい友人達と川に釣りに出かけ、友人の猿吉(さるきち)と川に釣竿を垂らし手小一時間程たったころ遅れて釣りに合流すると言っていた友人の一人の雉助(きじすけ)が大慌てで俺達を呼びに来た。
「大変だ桃太郎!!村が、村が襲われた!!山向こうの豪族の鬼ヶ島の家の奴らだ!!」
「ダニィ?!雉助、案内しろ!!」
こうしてはいられないと釣り竿もそのままに村に戻ると、村は炎に焼かれており刀を持った野武士崩れの郎党が村人を襲っていた。村を襲う野武士たちは人の倍近い体躯に側頭部を刈り上げ、額から後頭部までの髪を逆立てた妙な髪形をしている。何故か肩だけに鎧をつけているのは都の流行りなのだろうか?
幸いにも村に残っていた友人の一人が抵抗をしてくれていたようでそこかしこに殴殺され、もしくは爆破されたかのように粉砕された野武士の亡骸が転がっているがそれでも多勢に無勢のようなので俺達も慌てて加勢する。
「待たせてすまねぇ!!」
山道を拓くのに使っている鉈を手に取りながら村に残って戦っていた友人の隣に立つ。俺と同じように猿吉、雉助もそれぞれに武器を持ち横に並んだ。
「桃太郎、お前の爺さんと婆さんは無事だ。だが、既に村人に多くの犠牲が出てしまっている」
「そうか……。しかしなんだって鬼ヶ島の奴らがこんな何もない村を?!」
俺と友人とのそんな会話に、ひときわ大きな身体を持つ武士がのしのしと歩きながら俺達の前に現れ、喉を鳴らして笑いながら答えた。
「ファ~ハハハハ!それはこの村に住む美しい娘、玉子を俺達の御当主様が見初めたからよぉ。玉子も御当主の求婚を受けたが、聞けば婚約をしているというじゃないか。……だが村そのものを滅ぼせば、寝取られ略奪婚ではなく滅びた村の美しい娘を引き取った美談となる。だから俺達はお前達を皆殺しにきたのだぁ!!」
「ふざけるな!!」
「ふざけてなんかいねぇよ!所詮この世は弱肉強食、強ければ生き弱ければ死ぬんだよぉ~。あぁそうか、お前が玉子様の仰っていた桃太郎だな?貴様に言伝だ。『私は鬼ヶ島に嫁いでこんな貧しい暮らしとはおさらばするわ、私のためと思って皆仲良く死んでね』だとよ。女というものは恐ろしいなぁ、ハハハハハ!!」
高笑いする野武士の言葉に歯噛みをしていると、村に残って野武士を素手で殴殺していた友人が拳をボキボキと鳴らしながら武士に歩いていく。
「話は済んだか?ならさっさと地獄に行け」
「なんだぁ~こいつはぁ~。生意気なこと言ってぇ、俺を鬼ヶ島の将、茂日間 示威怒(もひかん じいど)様とわかっていっているのかぁべっ!?」
「――――ホワッシャァ!!」
示威怒と名乗った巨大な野武士の顔面に友達の拳がめり込み、よたよたと後退していく。
「な、なんだぁ?全然痛くねぇぞ?ははは、みかけだおしだばらべひでぶっ!!!!」
示威怒の上半身が言葉の途中で爆発四散し、残された下半身が地面に崩れ落ちる。
「よくも好き勝手暴れてくれたな。――――お前たちは一人も逃さん、覚悟しろ」
ウオーッ、頼りになる友達だぜ‼やっぱり持つべきものは友達だな!!!!…
その後、村を襲った鬼が島からきた奴らを皆で協力して討ち取り村の被害を調べると酷いものだった。
力の弱い女子供や、それを護ろうとした男手に犠牲が出ているし誘拐された子供もいる。 そして、志摩家の皆……玉子の両親も死んでいた。自分の幸せのためには故郷や両親まで殺すっていうのかよ?!
……玉子にあって事実を確かめる必要もあるし、鬼ヶ島の連中にはこの落とし前を付けさせる必要がある。
幸い俺の家は焼け落ちず無事だったので、俺は無事だった爺さんと婆さんに鬼ヶ島に殴り込み(カチコミ)をかけることを告げた。俺の話を聞いた爺さんは静かに頷いた後、押し入れから一振りの刀を持ってきて俺に渡した。抜いてみてみると名のある業物なのがわかる名刀だ。こ、こんな素晴らしい逸品をポンッとくれるなんて何者なんだってばよ?!
「行って来い、桃太郎。けじめと落とし前をつけさせてくるといい」
普段は糸目のように目を細めている好々爺とした爺さんだが、言葉と共に開いた眼にはギラりと狼のような獰猛な光が宿っていた。爺さん?!?!?!
そんな爺さんの様子に驚きつつも受け取った刀をさげ、道中の食料にと婆さんから渡されたきび団子を懐に入れて家を出ると3人の友人達が外で待ってくれていた。
「村を焼かれて殺されてんのに“鬼ヶ島”に日和ってる奴いる?いねえよなぁ!!!!」
「雉助!!」
「やはり鬼ヶ島か。俺も同行しよう」
「猿吉!!!!!!」
「――――俺もゆこう。悪党には地獄すら生温い」
「犬士郎(けんしろう)!!!!!!!!!!!!!」
それぞれの武器を手にした雉助と猿吉という頼りになる友人達、そして村最強の拳士である犬士郎も一緒……これはもう勝ったなガハハ!!こうして俺は鬼ヶ島に向かうことになった。待ってろ玉子ォ!!!!地獄をみせてやっから首を洗ってまってやがれ!!!!
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