第6話 D面-1
◇キャラクター紹介
星屑13号/「ココロスター」を専門とするVR配信者。「D面」は彼女の視点で進行する。
**********
とあるVR配信サービスの利用規約より抜粋
第12条 サービス利用中のバイタルデータ取得およびサービス停止について
1. 当サービスは、お客様の健康と安全を守るため、サービス利用中にお客様のバイタルデータ(心拍数、血圧、体温、その他の生体情報を含む)を継続的に取得いたします。
2. 取得したバイタルデータが当社が定める基準値を超えた場合、お客様の健康を考慮し、当サービスの提供を自動的に一時停止または中止することがあります。
3. (以下略)
*
「イェーイ! 星屑13号のスターダストチャンネル、はっじまるよー! みんなー! 見てるー?」
ハイテンションなキャラクターがVR空間上に設けられたステージ上で両腕を上げ下げしている。
ステージ前には様々な種類のアバターが観客として集まっている。
: 乙
: テンション高い
: 見てるよー
ステージの後ろのスクリーンにコメントが次々に映し出されて流れていく。
「でも! その前に確認! このチャンネルはゲーム『ココロスター』を勝手に応援する個人チャンネルです。ここでのやりとりで『ココロスター』の運営さんには迷惑をかけないようにお願いします。そして、今日は3rdライブの感想会だー! 観たか? 聞いたか?」
: 見たぞ
: 配信で後悔した
: 結局どうだったんだ?
: 前回に続く惨劇は回避したのか?
「あー! 観ていないヤツがいる! 観ていないヤツは速攻で落ちて、速攻で配信チケットを買って、速攻で観てこい!」
: なぜ?
「『なぜ?』じゃない! あれを観なければ、この後の人生、チョー後悔する!」
: 激しく同意
: あれは神回
: 2窓開いて片方は配信見ている
いくつかのアバターが姿を消した。
「そうだよ! そう! 今回はマジ神!」
: ワイは3窓。別端末でゲーム放置プレイ中
: 現地組が羨ましい
「ふふん! 現地組のボクはチョー勝ち組!」
キャラが胸を張るから、ツッコミを入れられる。
: 昨日まではグダグダ言っていたのに
: 手のひら返し クルリ
「うぐっ! ……だって、仕方ないじゃないか! 前回の悪夢の2ndライブを目にしてしまったら」
: 確かにそう
: あれは本当に悪夢だった
「だから、今回もまたあの惨劇が繰り返されるんじゃないか、って想像しちゃったんだよ。トラウマになっていたんだよ」
: 惨劇は回避された
キャラの顔は深刻なものになる。
「マジな告白をするけどさ。今回のライブもダメだったら、『ココロスター』から卒業するつもりだった」
: !
: ?
: やめるんか?
: チャンネルも?
「止めない! 絶対止めない! 止められるか?! あのライブを見せつけられて、止めるヤツなんかいるわけがない!」
: それはそう
: よく言った!
「うおぉーー!! これからも『ココロスター』を推し続けるぞ!」
: そうでなくちゃ
: やってやれ!
: 前回もあの本気を出してほしかった
「2ndは忘れる! 無かったことにする! 今日の3rdが2ndで3rdだ!」
: 意味わからん
: ライブなんてどこがいいんだ
: 言っていることメチャクチャ
: 言いたいことは分からんでもない
「待った! 待って! 今、『ライブなんてどこがいいんだ』って書いた人、ちょっと待って。君の意見は否定しない。ゲームのリアルイベントなんて必要ない、って言う考えは否定しない。でも、一度でいいから美羽姉たちのライブを見て。お願い! 見てくれたら、絶対分かる。美羽姉たちのライブがゲームと現実のボクたちファンを結びつける懸け橋になっているんだって分かるから」
: その通り!
: よく言った!
: 今ならライブの冒頭30分タダで見れるぞ
: 沼に引きずり込むには十分
「……ふぅ~~。よしっ! 話題を戻すよ。でさ、今日のライブの演出、凄くなかった? 光がビューンで、ピカッと光って、きらきら~て、なって」
: 意味わからん
: 言葉が分からない
: ライブを見てなければ意味が通じない
: あれ立体映像広告の応用
「へ~。そうなんだ~。立体映像広告と同じなんだ」
: 最近電車の中でよく見るやつか
: そうそう
: バスでも見かける
: 一気に広がった感ある
: 最初見た時感動したけど最近はそうでもない
: 目線が合うことが少ないから嫌い
「分かる、わかる。『ココロスター』以外はスルーする」
: 反対側が透けて見えるからな
: 最初興奮したけど実際観たらスンとなった
: あれライブに使ったんだ
「え? もしかして、詳しい人いる? もしよかったら、教えて教えて!」
: 中の人がおったりするん?
: 中の人じゃない。けどちょっと語れる
ステージ前のアバターの一体が手を上げた。注目が集まる。
「いいよいいよ。語って語って」
: リアルボイスは勘弁。今、実は仕事中
「了解~。なら、チャットならOK? 他のみんなはしばらく書き込みは控えてね」
スクリーンに流れるコメントが途絶える。そして、
: OK。始める
: あの技術自体はライブに応用することは出来る
: だけど設定が激ムズイ。会場に合わせた微調整がめんどい
: 3rdはシビアに調整されていたからあの美しさ
: 大金も手間もかかっている
: 今回使われたのはおそらく最新のフラッグシップモデル
: あれと比べれば電車とかで見るのは廉価版
: フラッグシップでも調整が甘いとボケボケ
: 面倒だから多分これからも
: より楽なレーザーとかスモークとかが使われる
: こんなところかな
「ありがとー。で、1つ質問。そのうち、『ココロスター』のキャラをステージに登場させること、なんか出来るのかな?」
: 答:理論上はできる。でも激ムズ×∞
: 調整が半端なく大変
: 半透明でも激ムズ
: 透けさせないことで、ムズさ倍
: ほんのわずかなズレやミスが全部台無しにしてしまう
: 動かさないといけないから、さらに倍×∞
: 結論無理
「そっかー。ありがとー」
: 知りたかったから助かる
: できたらガチブチ上がる
: けど半透明だと下がる
「でもさ、今回のでもメチャクチャよかったよな!」
: 同意
: 激しく同意
「ボクの隣の人は初めてのライブみたいだったけど、途中から声、メチャクチャ張り上げて狂ってた! ボクも負けじと声を張り上げた!」
: ワイも同じ
: 歓声がすごかった
: コールレスポンスがすごかった
「会場にいた同志たちのコールがやばすぎ。会場が揺れてたもん」
: 仕方ない
: あんなパフォーマンスを見せつけられたら
: 歌声が天元突破
: ダンスがキレキレ
: ワイらも天元突破する
「後半なんか、もう、キャストさんたちと同志たちの魂と魂のぶつかり合いだった!」
: イエス!!
: 熱気がすごかった
「でも、一番はアンコールが終わった後!」
: そうそう
「誰も帰らないんだよ!」
: むしろなぜ帰るってなる
: 2ndはアンコール前から帰るヤツおったな
「そうそう……って2ndは無かったことにするの! 今日は3rd!」
: ワイ配信組なんだが、結局あれどんな感じだった?
「もう、これからが本番って感じ。アンコールって叫ぶ声と手拍子だけで会場が揺れてた」
: 誰も足踏みはしていないのにな
: 足踏みは禁止
: あそこで解散が指示されてたら暴動が起きていたかも
: 同意。暴れてた
「暴れるのは禁止だぞー。でも、江莉姉がステージに飛び出してきた時は、同志たちより先に脱走したのか、って思ったねー」
: そうそう
: ワイも思った
: その前の曲の最後引きずられていったからな
「そうそう。最後、美羽姉たちに寄って集って抑え込まれて、引きずられて舞台袖に下がって行ってたもんね。でもさ、江莉姉の後に続いてみんなが出てきた時は興奮で身体がマジ震えた!」
: ワイも
: 歓声がすごかった
: 今日イチだった
: 配信組のワイもモニターの前で叫んでた
「そして歌われた『リスタート』。エモかったー。エモすぎてエモすぎて、思い出しただけで鳥肌が立ってきた」
: まだ未公開曲
: 公式探しても見当たらない
: 運営太っ腹すぎ
「今度の放送予定のアニメの主題歌らしいけど、いつ放送されるか、スケジュール出ていたっけ?」
: まだ出ていない
: そもそもアニメも「制作決定」としか出ていなかった
: 監督、脚本、作画監督は実力派揃えているから期待してるんだが
「期待してる! メチャクチャ期待!」
: <朗報>美羽姉がSNSに江莉姉との2ショット写真を上げる
「え?! マジ? ちょっと待って! 見る! 見る! ……うわぁ~」
: エモい
: エモすぎる
「もう、ステージ衣装が眩しすぎる。達成感溢れる笑顔も眩すぎる。汗かな? ちょっと化粧が崩れている、髪もほつれている。そこがまた……もうたまらん。尊みが過ぎすぎる」
: 分かる
: 分かる
: 尊死するなよ
: 尊死したら配信停止だぞ
「美羽姉からのメッセージもある。『みんな、愛してる!!』 愛してるよっ!! 美羽姉!!」
弾幕のように「愛してる」という書き込みがされる中で、ちらほらと「バイタルアラート出ていない?」「気付いてる?」の書き込みも。
「もう、これはね、『「ココロスター」を生涯愛せ』という神のお告げだね」
: 神託だ
: 言いすぎ、じゃない
: 神託だ
: <朗報?>キャスト陣が次々に写真を上げ始める
「待って! 待って! 見る! あ!」
: あ?
: あ!
>「キコキコVR配信」をご利用いただきありがとうございます
>配信者のバイタルサインが基準許容値を超えたことが確認されたため
>現在、配信を一時停止しております
>再開までしばらくお待ちください
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