メーコのアンテナ通信講座

 ◇◇◇



 この映像教材とかで流れてそうな何とも言えない穏やかな謎のBGMは何?


「こんばんわ、メーコだ、では早速…… 『メーコのアンテナ通信講座』始めるぞ」


 しかも何だよ、そのタイトル……


「そして撮影係兼アンテナ係の息子くんもよろしくな」


 お気に入りの真っ赤な下着を身に付けた義母さんが、ベッドに座りながらこちらに向かって話しかけてきたが、声が出せなかったので仕方なく手に持っていたデジカメで軽く頷くような動作をしておいた。


「ではまずは…… アンテナを立てるぞ」


 そして義母さんはフニャっと倒れていたアンテナに手を伸ばし……


「ギコギコはしたらダメだ、あくまでも優しく、下から上までまんべんなく確かめてから慎重に立てるんだ、分かったか?」


 ギコギコはどう考えてもダメだろ! アンテナが壊れちゃうよ!


「んっ…… 異常な無さそうだ…… どうしてもアンテナの土台が不安定で立ちそうになかったら、ルーターをコロコロするのもアリだ、アンテナに手を添えながらだとより立てやすく電波も飛びやすくなるぞ……」


 アンテナを立てるのにだいぶ時間をかけているな…… 説明を忘れるくらい念入りに、たっぷりとあれこれ確認している……


 義母さん、夢中になって作業しているけど撮影中だよ?


「ぷはっ…… よし、これくらいでとりあえずは大丈夫だろう…… 次はアンテナから飛ぶ電波を受け取る、受信機がある施設を電波が受け取れる状態にしていくぞ…… 今度は息子くんの出番だ」


 ここで一旦映像を止めて、デジカメを三脚にセットし、画角を合わせて…… そして工事を始めるために二人とも着ていたものを脱ぎ……


「アンテナから飛ぶ電波にはたくさんの個人情報が含まれているが、受信機側にも重要な個人情報が保護されているんだ、だから簡単に侵入出来ないよう受信機には何重にもロックがかかっている、なので一つずつロックを解除する必要があるんだ…… んっ…… ちゅっ……」


 ロック解除作業の始まり…… ていうか、義母さんから積極的に第一のロックを解除しようとしているんですけど!


「この大きな施設内にはロック解除のためのスイッチがあちこちに隠されているんだ、その施設によってスイッチの場所は違うからまんべんなく全体的に、手探りで慎重に優しく…… 時には反応を確かめながらスイッチを探す作業をするんっ! だ…… ぞっ…… あぁっ…… そこっ、第二ロック解除しちゃうぅっ!」


 優しくあちこち探っていると、どうやら第二ロックというものが解除したらしい…… よく分からないけど。


「第三のロックは蓄…… 電池の所にあるからぁ…… いっぱい確かめてくれ……」


 探せと言っておいて大きな二つの蓄電池まで自分から案内して教えちゃってるし。


 とりあえず蓄電池全体を探り、そしてまだ使用出来ない電力供給部分も義母さんに

頭を抱えられながら探っている。


 それよりも気になるのが…… さっきとBGMが変わってるんだけど、これってトムさんが危険な任務に挑みそうな映画のやつに似ている感じがするな。

 著作権とかもあるし似ているだけで同じではないんだけど…… 何故このBGMを選んだんだ!?


「あっ、いいぞ…… 上手にロック解除、出来ている…… んんっ、さすが私の息子だ……」


 映像の中でやっている事とBGMの差がありすぎて頭が混乱してしまいそうだが、それでも義母さんのアンテナ通信講座は続き……


「そしてここが一番重要で頑丈なロックがされている大切な場所だ…… 優しく扱わないと警報がなってしまうから慎重に探るんだ」


 大きな施設の中で最もアンテナ工事と密接な関係にある重要な地下施設。

 ここを攻略する者だけがアンテナの本工事を行える…… と、散々義母さんに教えられてきた。


 むしろ早く本工事しろと圧をかけられていたが、受注するわけにはいかないと今まで意地になって拒んできたのだが…… 早とちりであっさり『じゅ』して『ちゅう』しちゃったんだよなぁ。

 

 そして義母さんは地下施設の入口にある二枚の扉の前に、アンテナ係である俺を近付かせて……

 

「息子くん、手順は分かっているな? 扉周りを優しく探ってロックを解除してくれ……」


 もうロック解除してるんじゃないのというくらいパカッと開いちゃっていたけど…… とりあえず言われるがまま作業を始めたんだっけ。


「けっ…… いほぅっ! 警報が鳴っちゃうぅぅっ!」


 早っ!! 警報鳴るの早っ!


「その扉の上のスイッチはぁっ…… き、危険なスイッチだからぁぁっ…… いいっ、もっとぉぉぉっ!」


 施設全体が揺れている…… おぉ、こうして映像で見ると乱れっぷりが凄いな…… 特に蓄電池の。


「はぁっ…… はぁっ…… もう…… ロック、解除したからぁっ…… 早く接続して通信を始めよう……」


 そして義母さんは工事に必要な道具の入った小物入れに手を伸ばし…… 

 あっ、またBGMが変わって、今度はモンスターをひとカリイく時にテンションが上がりそうなBGMになった……

 これもやっぱり原曲ではなく微妙にメロディが違うから、何か変な感じがする…… 


「アンテナ工事で電波を送受信する際にはこうしてアンテナに漏電漏水カバーを被せると安全に施工出来るから、良い子のみんなは覚えておくんだぞ? あと、裏表もあるからしっかり確認するように」


 慣れた手つきでカバーを装着し、二枚の扉を手で両側に少し開き……


「いよいよアンテナから電波を受け取るため、受信機への接続作業を始めるぞ…… いいか? とにかく優しく、受信機側の反応を見ながら通信を始めるんだぞ? 先生との約束だからな…… んんっ!!」


 そしてひとカリBGMの一番盛り上がるタイミングで…… アンテナと受信機の接続が完了した。


 それからは『アンテナ通信講座』という話はどこへいったのかと思うくらい…… ただただ送受信作業を夢中でシた……


 アンテナの電波を伝わりやすくするよう角度を変えたり、受信機へのアプローチ方法も工夫しながら作業。


 そして……


 …………

 …………


「しゃ…… 作業…… 終了だ…… おつかれさま…… そして見てくれ…… カバーをすることによって情報漏洩も防げたぞ…… だから、個人情報を守りたい人は…… きちんと漏電カバーを装着するように…… これで『メーコと息子くんのアンテナ通信講座』は終了だ……」


 何十億という膨大な個人情報が入った袋をプラプラとさせながら義母さんはカメラに向かって最後の挨拶をして……


 ここで映像は終わった。




 ◇◇◇


 


「ふふん! 最高の出来だろ?」


「義母さん、どんな動画編集をしているんだよ……」


 これ、動画を購入した人に怒られるんじゃないの? 今からでも遅くないから販売を止めたら?


「『母親が息子に手解きをしている所が見たい』というリクエスト通りだし、そんな事ないと思うぞ? 特にこの最後の方のまーくんが腰が抜けそうになっている感じが…… 何度見ても素晴らしいじゃないか! ふへへっ、まーくん可愛い……」


 もう販売したいというより、単に見せびらかしたいだけなんじゃないの?


「『仲良し(N)』の仕方を『教える《ティーチ》(T)』動画を『録画レコーディング(R)』…… これも立派なN・T・Rだな! どうだ、まーくん? こうなったらお母さんのNTRでしか興奮出来なくなっただろ?」


 俺が悪かったからもう忘れてくれよ…… あの後すべて処分しただろ? 


「ふっふっふっ……」


 不敵な笑みだな…… というか、今の義母さんはある意味無敵だから、無敵の笑みか?


「あぁっ…… まーくんと出会えて良かった…… まーくんとだから一緒にアンテナ工事するのもこんなに幸せだと感じるんだろうな」


 アンテナ工事動画はこれで最後にするみたいだし、何より義母さんが幸せそうに笑っているから…… いいことにしておこう。


「さーて、この動画を分割して、価格を設定して販売するか!」


 だけど身バレしないように気をつけて編集してくれよ? お願いだよ?

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