とある母子のN・T・R

『とある母子のN・T・R』


 それが義母さんがメインのファンクラブの裏でひっそりともう一つ作っていた、十八歳未満閲覧禁止の秘密のファンクラブの名前だった。


 そのサイトには定点カメラで撮影されたと思われる、男女が仲良く工事しながら互いの機密情報を激しく交換している、十分ほどの短い動画が分割されて販売されていた。


「義母さん、これは一体どういう事だ?」


「うぅっ…… 違うんだ、これは…… その……」


 何が違うんだよ! 色々ぼかされてはいるが、おもいっきり俺達の作業風景が撮影されてるよね!? 


 あと、このファンクラブの名前は何なの? 『NTR』要素ないよね?


「それは…… まーくんを誘惑したNTRって言葉がどうしても許せなくて…… それならお母さんが新しいNTRを生み出して、まーくんの記憶を上書きしようと……」


 いや、誘惑されてないし…… しかも新しいNTR? 意味分からないんだけど…… そもそもNTRって、『寝取り寝取られ』って意味だよ?


「そんなのは知っている、だけどお母さんのは違うんだ…… 母子の『仲良し(N)・タイムに(T)・革命レボリューション(R)』を起こし、そして母子の『仲良し(N)・タイムを(T)・記録レコード(R)』する、それがお母さんが新たに考えた『N・T・R』だ!!」


 ……義母さん、アホなの? いや、逆に頭が良すぎて俺の思考じゃ追い付けないくらい義母さんの思考が加速していたのかもしれない。


 その事について深く考えるのはとても頭が痛くなりそうだから一旦頭の片隅に、すぐに忘れてもいいような所に置いといて…… それよりも!


「義母さん! なんて事をしてるんだよ! 顔が分からないようになってはいるみたいだけど、こんな危険な動画を販売するなんて……」


「だってぇ…… お母さんとまーくんくらい歳の離れたカップルがイチャイチャしている別のファンクラブを見つけてぇ…… 羨ましかったんだもん! お母さんだってまーくんとイチャイチャしてるの自慢したかったんだもん!」


『だもん!』じゃない! 義母さん、そんなキャラじゃないだろ!? しかもNTRという言葉に恨みがあるような事を散々言っておいて、実はめちゃくちゃ私欲で承認欲求からくる行動だった! だけど自慢ついでにちゃっかり販売しちゃうなんて義母さんはしっかりしているというかなんというか…… んっ?


 販売? そういえば最近、義母さんの羽振りが良かったのって、まさか……


「購入してくれたみんなが『幸せそうでいいね』とか『こんなN・T・Rならどんどんやれ!』ってコメントを残してくれて、みんながお母さんとまーくんの幸せを応援してくれているんだぞ!? そんな応援されたらもっと自慢したくなっちゃうじゃないか!」


 な、何ぃぃぃーーー!? ちょ、ちょっと待て…… よく見たら販売数ランキングみたいのがあって、義母さんのファンクラブの動画が五十位以内に入ってるぅぅぅ!!


「ふふふっ、特に人気の動画は『息子くん、ママの大きな二つ蓄電池ちくでんちで電力補給』だ!」


 バッ、バ…… ブゥゥゥ……


 うわぁぁぁぁーーー!!


 そんな…… 十八歳未満閲覧禁止の場所での販売でモザイクがあるとはいえ、不特定多数に俺が義母さんのを一生懸命蓄電蓄電としている所をガッツリ見られただなんてぇ……


 万が一身バレなんかしたら、俺…… もう恥ずかしくて外を歩けない!!


「そうなったら一生お母さんが面倒を見てやるから安心してくれ! たっぷりしながらな! ふふふっ……」


 そしてついでに仲良しを隠し撮りするつもりなんだろ!? その手には引っ掛からないぞ!


「内緒で撮影して販売したのは謝るが…… 昨日のうなぎも今日のすき焼きも、四日前に就職祝いで行った高級寿司も、全部全部私達の仲良しのおかげだという事を忘れるんじゃないぞ? 仲良しのおかげで美味しい物をお腹いっぱい食べられたんだ!」


 うっ…… 確かに遠慮せずに昨日のうなぎはたらふく食べた…… 寿司もお高いネタを義母さんに勧められるままパクパク食べた…… だから怒るなと言いたいんだろう。


 あぁぁぁ…… 


「これでまーくんもお母さんと一緒で、身体を売っちゃったようなもんだし、かなりの本数を買ってもらったから私達は美味しい物を食べて生活出来た、だからもう諦めるんだな」


 義母さん…… もう開き直ってる……


 はぁぁ…… もう売っちゃったもんはどうしようもないし、身バレさえしないように細心の注意を払っているみたいだし…… お腹いっぱい食べちゃったから、諦めるしかないんだ……


「そうだぞ、いつまでもクヨクヨしてたって良い事はない、それなら諦めて楽しく生活した方が良いじゃないか!」


 開き直り過ぎだよ……


「分かった、売ってしまったものは仕方ない…… だけど義母さん、もうこれっきりだぞ?」


「…………」


 何故返事をしない! 何故目を逸らすんだよ!!


「義母さん、分かったか?」


「…………」


「義母さん」


「分かったよ、でもぉ…… 最後にもう一本だけ撮影させてくれ! 視聴者さんと約束しちゃったんだよ、クリエイターを応援するための『特別PAPI《ぱぴ》プレゼント』ってやつで先行投資だと言われてかなりの金額を受け取っちゃったし……」


 えぇっ!? 何でそんなもんを受け取っちゃったんだよ! 


「撮影は出来ないから返金しないと…… で? いくらくらい貰ったの?」


「……百万円」


「ひゃ…… 百万円!?」


「だって! 販売した動画の収益はまだ手元に入ってこないし、まーくんの就職に必要な物を買い揃えないといけないし…… 借金返済もあるからお金が必要で…… ついオッケーしちゃった、てへっ!」


『てへっ!』って、可愛く言ったところで誤魔化しになってないからな!?


「お母さんに『可愛い』だなんて…… まーくんもお母さんをおだてるのが上手になったな! よーし、今日の夜はお母さんがたっぷり甘やかしてやるからな!」


 おだててない! しかも自分の都合の良い解釈をして…… どんな耳をしてるんだよ!


「えっ? こんな耳だけど…… はっ! まーくん、まさかお母さんの弱点は耳だって見抜いていたのか!? 我が息子ながらやるな……」


 義母さんの弱点なんか知らんわ!! 

 でも確かに耳元で囁いたらブルッと震えていたような…… って、今はそんな話をしてない!!


「でもお金はもう使っちゃったから、返せと言われても返せないぞ? ふふん!」


 何だよ、その『どうだ、参ったか』みたいな顔は…… 


「撮影するしかないんだよ、まーくん…… 諦めるんだな」


 くっ! してやったりみたいな顔をしやがってぇ……


「まーくん、人生諦めが肝心だ…… だから…… まーくんもお母さんと一緒に…… 身体を売ろう?」


 だからぁ…… 義母さん、言い方ぁぁぁーーー!!

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