しめじしめじと謝っている(50首)

少しずつ心の澱を出す時間なのにあっついだし巻きも出る


結婚をした友達がレジにいて束の間その旦那と二人きり


一万円立て替えている間だけその人に話しかけやすかった


関係のない星同士を結んだらできたよろけて死にかけの牛


退職の先を思うと深い穴ハロワとかでもない深い穴


錯覚じゃなくて実際曲がってる鉛筆が筆箱の中で邪魔


まずもって左と右が仲間割れしている、みたいな「い」の文字を書く


友達がいないと授業が進まない試験に受かってここにいるのに


もし明日月が割れたら卓球部の連中はわたしのせいにする


同じ釜のご飯を食べた人が「あれ美味しくなかったね……」と言って去る


わけもなく走り出したら青春というより不気味と思われそうだ


ただの恋ではなくわたしの恋だから馬鹿にしてくる女子めっちゃいる


春風があなたのような人間を本気で誘うと思いましたか


窓口に同級生が来てしまう頑張ろうねなどと言ってしまう


生ごみを心の前に置いたくせに普通にあいさつとかするんだな


わたしより生きづらそうな生きづらさ見かけて台風の夜の家


タピオカは必要ないとタピオカを作ってるとき言われたら泣く


タイピングだけが速くてそれ以外すべて遅くてまだ燃えている


正確に正確に作るカップ麺 どんな努力をしてきましたか


どうやってウニは動いてるんだろうどうやってわたしはどうやって


朝顔を咲かせるようなイメージで耳をすませば陰口だった


愛してる(わたしは、ですが) 焼くときはトングで焼き上がったら箸で


頑張って言いたいことを言ったのにWordが勝手に入れた改行


性格をたたむ夕暮れ新聞に誤字を見つけて勝った気になる


ずっと猫背 二重の虹を見た人にかかる税金でもあるみたく


花束はもらえなかった花束がもらえるかもと言ってしまった


とんでもない自己中だってばれてるよトレイのなかのしらすぜんぶに


158センチ57キロが暴れる場所を求めさまよう


雨の日の世界に向かって泣きながらしめじしめじと謝っている


メンバーが誰もいなくてしかたなくひとりっきりでいかれ続けた


石ころを放り込む池 感情を顔に出さないなんてできるの


水道が破れたような早口になっているのが自分でわかる


冤罪を証明できずに一生を終える想像たまにしている


遮られた話に出てくるはずだったきょうだいずっと海パンのまま


障害物リレーの障害物として指示されたとおりの場所に立つ


小学生のことをひとつもわからない小学生のころからそうだ


減るほうの採点ミスを申し出ておそろしいほど笑われている


ほんとうに仲間の居場所は知りません 仲間がいるように見えますか


人という字になるポテト 支え合うことが苦手なわたしの前で


見えなかった(何か言わなきゃ駄目かな……)のとき咲いた花、でかかったのに


つま先の力で履ける靴は楽 知り合いを増やすとかはもういい


もっと早くもっと速くと作られてなんでもビリのわたしに届く


友達と間違われたら困るから、みたいに夏の夜は短い


割り箸をじっと見たあと泣き出した 就活生によくあることだ


強風にむしろ心は踊るのか大漁旗に生まれていたら


小説の方が普通の出来事を真剣にやっている いやだなあ


実写化のときに存在ごと消えたキャラの分までしゃぼん玉吹く


友情を讃える歌を視線すら合わない人と並んで歌う


一人だけあんまり写っていない子がいると気づけることに気づいた


乗るバスと反対側のバス停にずっと立ってたような一日

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