異世界トラック ~冒険者登録すら出来ない半強制追放の底辺運転手が極振りトラック無双で建国余裕の側室ハーレム。家族を大事にしようとしてたら世界から魔王扱いされててツラい~
第26話 VSインフィニットフリーダム(1)
第26話 VSインフィニットフリーダム(1)
公国軍機との戦闘に区切りのついた運は激戦の爪痕が生々しく残る大地にフォークリフトのまま降り立った。討ち倒した機動兵器の残骸があちこちに転がり、鋼鉄の破片が陽光を反射して冷たく光っている。倒れた木々も無残に下敷きとなって散乱し、かつての緑豊かだった森の一部が荒地と化していた。
「わかってはいたけど、これが戦争ってやつなんだよな……ひでぇ光景だ」
倒れた兵器で抉れた大地や煙がまだ残るビームの焦げ跡。だが、視界を逸らしたところでまた少し離れたところでは新たな戦闘音が継続している。
「感傷に浸ってる場合じゃねぇ。とりあえず本陣に連絡するか……ナヴィ頼みだが、頼む! 繋がってくれ!」
運はナビ画面を操作して久遠の持つスマホに電話を掛ける。
「お、お兄ちゃん……?」
電話の向こうからはすぐに久遠の心配そうな声が返ってきた。
「久遠、そっちはどうだ?」
「お兄ちゃんこそ。こんなときに電話してて大丈夫なの? 敵のトラクター部隊は?」
「とりあえず5機と、新たに合流してきた5機の計10機は倒した」
「へ? もう?」
「ああ。だが現地で見ている限り、たぶん離れた位置でも別のトラクター部隊が動いてんな……見える範囲ならなんとかなりそうなんだが、この森けっこう広いからな。そっちになんか情報はないのか?」
「残念だけど、ドリアードたちが満足に動けないからあんまり情報が集まらなくって……」
「いや、なら無理はしなくていい。実は俺様、敵軍の位置を把握するものすごくいい方法を思いついたところなんだ」
「へっ? どういうこと?」
「だから気にするなって。こっちはこっちで勝手にボコボコにして回るからさ。……一応、五十鈴が何か作戦を考えてるなら邪魔しちゃ悪いと思って連絡してるだけなんだ」
「う、うん……正直こっちは後手後手になってて、なんとか立て直さなきゃって状況だから、もしお兄ちゃんがトラクター部隊をなんとかしてくれるならありがたいんだけど……」
「任せとけ! こっちは正直もの足りないくらいなんだ。ガンガン撃墜してやるぜ!」
「そ、それはすごいんだけど、いったいどうやってこの広い森の中を……」
「いいからいいから。電話をこのまま繋いでおけば情報交換はできるだろ。久遠はこのことを五十鈴に伝えてくれよな。俺様はさっき言ったとおり、これからトラクター部隊をボコりまくってやるからよ!」
「えっ!? ちょっ!? お兄ちゃん!?」
運は会話もそこそこに次なる戦場へ向けて高速で飛び立った。
運との会話が途絶えてしばらく呆然としていた久遠であったが、やがて思い出したように隣にいる五十鈴に声を掛けた。
「すごいっ! 五十鈴さん! お兄ちゃん、トラクターをもう10機もやっつけたって!」
それまでも険しい表情をしていた五十鈴はそれを聞いてさらに眉を顰めていた。
「じゅ、10機!? 10人で1機じゃなくて、一人で10機ですか!?」
「しかもまだもの足りないみたいでほかの機体を探してるみたい」
「は、はは……なんなのです? そのデタラメな強さは」
五十鈴は逆に脱力して肩を落としてしまっていた。
「五十鈴さん。呆然とするのもわかるけど、敵軍の位置を把握するのに何かいい案はないかな? お兄ちゃんはお兄ちゃんで何か作戦があるようなことを言っていたけど、これはもうお兄ちゃんを有効活用しない手はないって!」
「そ、そうでしたね。しかし、ドリアードたちの力が制限されてしまっている以上は……」
「悔しいな~! これで1機でも多くの機動兵器を止められればこの状況を立て直せるのに! ……でもあれ? お兄ちゃん、また部隊を見つけて強襲してるみたい……どうやって見つけたんだろう?」
「ええ? 里と言っても闇雲に探しても無駄なくらいには広いはずなんですが……どうしてそんなに簡単に敵機を見つけられるのでしょうか?」
「よくわからないけど、お兄ちゃんのことだから、また何か変なスキルでも使ってるんじゃないかな~? あ、全滅させた……と思ったら、また見つけたっぽい……あは、なんだこれ?」
「あの機動兵器トラクターを千切っては投げるみたいに……信じられません」
久遠と五十鈴はそろってポカンと口をあけていた。
だがそんな状況にも実感が追いついてきたように、やがて久遠はガッツポーズで拳を握った。
「大丈夫! お兄ちゃんを信じて応援してようっ! 行っけぇーっ! お兄ちゃぁーんっ!」
その明るい久遠の笑顔に引き立てられるように五十鈴も笑顔を取り戻す。
「勝てます! 勝てますよこの勢いなら!」
五十鈴は運が飛び去った方角を見つめ、少し頰を染めながら目尻を垂れていた。
一方、快進撃を続ける運は早くも20機目の公国軍機を撃墜していた。
「こんな広い里でたかだか50機程度の公国軍機を見つけるなんて無理だろと思ったが、こいつら馬鹿なのか?」
運は移動時においてはフォークリフトモードで高速かつ隠密に動いていた。
「暗号でもなく無線連絡をポンポンと……あっちの世界から来た学生さんってのは聞いててわかるが……トラックにだって無線スキルはあるんだぜ? ま、黙ってりゃ敵さんの情報が筒抜けだから、ありがたいんだけどな」
運の向かう方向には迷いがなかった。
「はい発見。こいつらチート能力で油断するのはわかるが、本当に危機感のねー修学旅行中みてーな奴らだな」
運は容赦なく不意討ちのビーム攻撃で公国軍機を混乱のうちに仕留めていく。
「悪いけどこれ、戦争なのよね」
投入された約50機の公国軍機のうち、30機ほどを撃破した頃だった。
「皆さん! ただちに無線連絡はやめてください! どうやら敵は精霊以外にも通信手段を持っています! こちらの動きが読まれています!」
無線に若い男の声が流れた。
「おっと、ようやく気づいたか……ま、ちと遅かったようだがな」
眼前にとらえた公国軍機を撃ち抜きながら運は軽快に笑った。
「どなたかは知りませんが、こんなことができるなんて、これを聞いているあなたも僕たちと同じように転移転生者なのでしょう」
無線の声の主は一方的に語る。
「僕はチリヌ公国軍トラクター部隊所属、
――なんだコイツ。撤退って言ってもトラクター部隊はすでにガタガタなんだろ? 今さら俺様がそんな話に乗る訳がないだろうが。
「森の中に大きな湖を見つけました。湖上であればそちらも存分に力を発揮できるのではないでしょうか?」
「……罠のつもりか?」
「もし応じていただけるのであれば、残りの部隊は集結させた上で武装を解除、その時点からの侵攻を保留とさせていだきます」
「バカなのか? まさか本当にロボットアニメの主人公にでもなったつもりなのか?」
運は一度立ち止まって逡巡した。
「だが無線に気づかれた今、残り20機近いだろう公国軍機が散らばることを考えれば……」
運はそう自分に言い聞かせるように笑った。
「いいぜ! そういう熱い奴、嫌いじゃなかったんだった」
トラックは一度森を上空に抜けた。
「湖はあっちか。とすると大和って奴はアイツだな」
湖上の大和機はバックパックからのエネルギー噴射により浮遊しており、その翼にも似たシルエットから見てもほかの公国軍機とは一線を画していた。
「なるほど、たしかにほかの量産型とは見た目からして全然違うな……ま、いい。放っておくよりも今ここで叩いておいたほうが良さそうだ」
トラックは一直線に湖へ向かった。
森の奥にひっそりと広がる湖の上でトラックと大和機が対峙していた。湖の水面が鏡のようにそれらを映し出し、互いの影が淡い波紋になって静かに揺れている。
「来て……くれたんですね」
到着したトラックを見て大和は言った。
「本当にトラックでしたか」
「ああ、お前が名乗ったのであれば俺様も名乗っておく。日野運だ」
二人の言葉と言葉の間には静かな間隔がある。それはまるで言葉にならない思いや視線を交わしているようであり、生身と生身の会話でもあるようだった。
「日野さん、僕には守りたい世界があるんだ」
「それは俺様も同じことだ」
「わかり合えませんか?」
「己が信念を賭けて戦うだけだろうな」
「僕は、殺したくなんかないのに……」
「勝手に攻め入って来ながら何ふざけたこと言ってんだ」
「それは……! 僕たちにだって理由があるんだ!」
「なら俺様のトラックで踏み潰して、お前の言葉のようにペラッペラに薄くしてやんよ」
運は大和の言葉を軽く鼻で笑って一蹴した。
「こうして話してる間にも一般兵に侵略されてるんでな。……時間が惜しい、行くぞ!」
開戦は運の撃ったビームだった。大和機はそれを片手のシールドで防ぎ、もう一方に握ったビームサーベルを構えて運に迫った。
「そっちが来るならっ!」
運も急発進で迎え討つ。
「速いっ!」
そのあまりのスピードにサーベルを薙ぐタイミングを乱された大和機はトラックと正面衝突をして弾き飛ばされた。
「うわあああっ!」
大和機は吹き飛ばされながらも瞬時に体勢を整え、武器を銃に持ち換えてビームを放つ。
「チッ! なんだあの機体さばきは!」
それを巧みにかわしながら高速で突進するトラックと大和機の二度目の正面衝突。それはまるで肉体と肉体のぶつかり合いのように両者ともに歯を食いしばっての激突であった。
「マジかよ、俺様の突撃に耐えるだと!?」
「くううっ! なんてパワーだっ!」
二度目の衝突もトラックが押し勝った。
「僕も日野さんもおそらくステータスは全部機体! だからこの機体性能差は僕と日野さんのレベルの差なんだ!」
大和機はトラックから距離を取ってビームを放つ。
「だけどわかった! 日野さんはパイロットとして訓練を受けたわけじゃない!」
同じようにビームを掻い潜っての突撃を試みようとする運。
「機体の性能の差が、戦力の決定的差でないことを……教えてやる!」
刹那、大和機の翼のような背後のパーツが複数に分かれて本体から独立し、それらが一斉に迫り来るトラックに向きを整えた。
「当たれぇー!」
大和機本体が放つビームのほか、本体から独立したそれぞれのパーツからも一斉に放たれるビーム攻撃。それらはトラックに擦り抜ける隙間を与えなかった。
「こんなのかわせねーぞ!?」
ビームの束をまともに受け、トラックは流れるように森へ落下した。
「なんだあれ、反則じゃねーか。何発同時に撃ってきやがんだ……こっちはヘッドライトからしか撃てねーんだぞ」
ダメージを負いつつもトラックは再び森から上空へと浮かび上がる。
「信じられない、あの直撃を耐えますか」
「そっちこそ、機体の扱いが上手すぎんだろ」
いくばくかの沈黙のあと、両者は再び空中で激しい激突を再開する。
弧を描く互いの軌跡を追うように何度も衝突を繰り返しながら湖上を駆け巡るロボットとトラック。
それを呆然と立ち尽くして見る公国軍機パイロットたちは複雑な心境だった。
「なぁ。俺たちはいろんなロボットアニメを見てきたけど、いまだかつてトラックがロボットとまともに戦ってた作品なんかあったか……?」
「どうなってんだ、あのパイロット」
「いや、それな……トラックはパイロットじゃねぇ。ドライバーだ」
「なんてこった」
そうしている間にも彼らの眼前では激しい激突が繰り広げられていた。
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