シビル・ウォー アメリカ最後の日
おもしろかった!
そして、つまらなかった!
面白かったのは何よりも第2次南北戦争というコンセプトだ。
現代のアメリカで内戦が発生して、アメリカがパレスチナのようになる。
先進国が戦場になる。
治安はなくなり、憎しみが吹き出し、凄惨な私刑が横行する。
実に惨たらしく、恐ろしく、心に迫る映像だ。
このシチュエーションを成立させるために、監督が採用したアイデアとは何か?
理由を説明しないこと!
なぜカリフォルニアとフロリダが合衆国に反旗を翻したのか?
全く説明されない。
内戦状態から話が始まり、物語が終わるまで、全体状況についての説明が一切ない。カメラで写していない地域のことが全くわからない。なんなら反旗を翻したカリフォルニアとフロリダの現状もわからない。アメリカが内戦状態に陥ったことで、諸外国がどんな反応を示しているかとか、世界経済がどうなっているかとか、全然さっぱりわからない。
正しい。
現代のアメリカが内戦に突入する可能性はゼロだ。
納得できる理由を作ろうとするとすればするほど、アメリカが内戦に陥るような世界を作り出そうとすればするほど、その新設定のせいで、映画の中の現実が、我々の生きている現実とは違うものになってしまう。
じゃあ、なにも説明しない。
アメリカが内戦状態に陥り、至るところで戦闘が始まり、多くの人間が殺されていく。
その映像を怒涛のように流すことで、否応なしに映画の現実を受け入れさせる。受け入れるしかない。
映画だからできるマジックである。
内戦は、分断されたアメリカの比喩だ。
19世紀の南北戦争と違うのは、別々の勢力が合衆国に戦いを挑んでいるところだ。戦っている人間ですら、自分が銃口を向けている敵が何者なのかわからない。撃たれるから撃ち返している。殺されそうだから殺している。どさくさ紛れに殺したいやつを殺している。
現実の反映があるから、映画の中に溢れる人間の悪意や狂気が心に迫ってくる。あの赤メガネだけではない。無関心な街にもだ。この部分だけで、この映画は十分に傑作になっている。
では、つまらなかったところはどこか?
説明が足りていないところだ。
面白かった理由と表裏一体なのだが、この作品、説明すべきことも省略している。A24らしさと言ってしまえばそうなのだが……。
いちばん象徴的なシーンが、主人公リーの死だ。
リーはなぜあそこで、ケイリーをかばったのか?
人間性の発露? 先輩としての責任感? 彼女を止められなかった後悔?
解釈が絞り込めないので、映画のクライマックスである一番キメのシーンを、ありがちで平凡なムーブで決められてしまったガッカリ感で見送ることになってしまう。
あのシーンのアイデアは実に素晴らしい!
戦場ジャーナリストは、仲間の死すら、写真におさめなければならない。
素晴らしいカットが目の前にある!
人の心など捨てて、シャッターを切り続けろ!
その絵の迫力に、ストーリーが負けている。
前ふりを積んでいけば、むちゃくちゃエモーショナルなシーンにできるのに、必要なお膳立てが足りないので、心が滑っていく。
なんでもいいんですよ。
リーはこの仕事を最後に故郷に戻って農場を継ぐつもりだったとか、ケイリーに対して、戦場に高揚を覚える戦場カメラマンは失格だ、と教え諭すけれどケイリーにはなかなか理解してもらえないでいたとか、もっと単純にケイリーは亡くした妹に似ているとか、なんでも。
そういう前振りの後で、リーが飛び出し、ケイリーをかばって死ぬ。
すると情感がこもる。
あそこでリーが飛び出す理由。
ケイリーをかばったことで失われたものの価値。
自分のせいでリーが死んだことに、ケイリーは何を思うのか?
その辺がさっぱりわからない。
想像で補おうにも、手掛かりが少なすぎる。
もったいない……、本当にもったいない……。
とはいえ、この作品は現代アメリカがパレスチナになるというアイデアが本当に素晴らしく、隣人だったはずの人間が隣人を殺しだすおぞましさを体感するのに大画面と大音響はぴったりでした。特に音!
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