トップガン マーヴェリック

シビれる展開しかない130分。


「予想を裏切り、期待は裏切らない」

傑作を評する時に、よく使われる言葉です。

戦闘機で言えば、マッハ3とか4とか5ぐらいでしょうか。


マッハ10の大傑作になるとどうなるか?


「期待どおりのことしか起こらない」


この映画は、すべての事象がトム・クルーズにシビれるための伏線であり、セリフ、リアクション、イベントのすべてが、次の場面で「トム様かっこいい!!!」と演出するための前フリなのです。


若きルースターはマーヴェリック(トム)を恨んでいた→トムは過去にルースターの兵学校入隊を妨害していた→でもそれはルースターの母に頼まれた行為だった→トムは母に頼まれていたことを隠し、あえて憎まれ役を引き受けていた→トム様かっこいい!!!


一事が万事、こんな展開です。

なので、


トムが指導する作戦は生還率と引き換えに難易度を上げたミッション→危険で高度な飛行術を身につける必要がある→それを教えようとした結果、貴重なF18を大破させてしまう→トムに飛行禁止令が降り、除隊するしかない流れに追い込まれる→上層部はトムの代わりに新しい指導官を着任させる→新指揮官の提案する新作戦は、生還率の低い代物→命令には従うしかない→若者たちの命を守るには、誰かが旧作戦の飛行プランを成功させるしかない→それは……!


この流れがくると、もう次の展開がわかるわけですよ。


→トムは飛行禁止令を無視して戦闘機で飛び立つ→模擬ミッションを成功させ、新作戦を葬り去る(部下たちを守る)→トム様かっこいい!!!


ピンチはチャンス。

ピンチはフラグ。


やばい展開になればなるほど、次のシーンでトム様がやってくれると言う期待感が湧き起こり、レベルの高い脚本ゆえに、逆転の伏線は事前にバラまかれているわけです。


だから、わかる。

次の展開が、わかる。


これですね、ヒットするミステリーの構造なんですよ。

よくできたミステリーは、謎を明かして、客を驚かせる。

ヒットするミステリーは、謎を明かす手前で、客に予想させる。


名探偵役より一歩だけ早く、謎を解かせる。

すると謎解きのシーンの快感が2倍にも3倍にもなるわけです。

自分の予想が当たっているわけですからね。


離陸する時に車輪が折れる→着艦時に盛り上げるつもりだな?→やっぱりぃぃ!


こんな感じで。


劇中では「指導官となったトムが、若いパイロットを訓練」していきますが、劇場においては、観客が「ピンチ→逆転→トム様かっこいい!」という流れの訓練を何度も何度も受け、学習し、映画後半ミッション開始の時までには「何が起ころうと、トム様にシビれる展開しかないんだ!」と訓練されきった状態でクライマックスに臨むことになります。


実際、シビれる展開しかありません。


防御手段を失うルースター→トム様が盾となり、機体は大破!


ルースターは上層部にトムを救出する部隊の出動を願い出るが、上層部は拒否→ルースターは命令を無視して、トムを救いに!


結果、ルースターも被弾して墜落。

脱出したルースターが生きていることを確認したトムは、喜ぶどころかルースターを突き飛ばします。

なんで助けに来た! 死にたいのか!

ひとしきり叱ったあとで「無事で良かった」


こんな展開が秒で刻まれていくわけです。

胸熱しかない。

セリフ、アクション、全てが「かっこよさ」のために捧げられてゆきます。


一人残らず勇者。

卑怯者はただの一人もいない。

恐ろしいことに、悪党すら、ただの一人も出てこないのです。


敵は「ならず者国家」と呼ばれるだけで国名はいっさい明かされませんし、濃縮ウラン施設を作ろうとする指導者すら出てきません。

敵パイロットは全て遮光性の高いヘルメットで顔を覆われていて、人格がないのです。撃墜されても、大体ちゃんと脱出できている。


ロボット軍団の地球侵略基地をぶっ壊しました、ぐらいの罪のなさ。


こんな戦争映画見たことある?

ないよ、わたしは。


戦争をダシにして、敵を悪にして、ヒロイズムに酔う映画は山ほどあります。

それも娯楽の一つです。否定されることではありません。


ですがこの「トップガンマーヴェリック」は、快楽のための物語であることに自覚的で、自省的で、快楽のために作られる戦争映画の有害さをとことんまで脱色させているわけです。

キャンプで焚き火をするけれど、下にシートを敷いて、自然へのダメージは最小限にする。ゴミは持ち帰る。


(そこまですると逆に気持ち悪い、と言う感想すら生んでしまうぐらいに)


まぎれもなく、娯楽映画の頂点。


人を楽しませることを極め続ける男、トム・クルーズの最高傑作です!!



しかし、敵の軍事基地になぜF14が。


ミサイルも機関銃もフレアもフル装填、燃料満タン、完全整備済みで準備されている展開までは訓練されきった身でも予想できませんでしたよ!


が、なんでそこにF14がああああ〜! となったあとで、かつての愛機に乗り込むトム! 父の愛機に乗り込むルースター! 旧型機vs最新鋭高性能機! ルースターの前で貫禄を見せるトム! トムはルースターの父を守りきれなかったが、ルースターを守り切った! ルースターもまたトムを守り切った上で生還した!!!!!


あのF14は、こっちの気持ちを油断させるための罠だったとしか。

こんな展開見せられたら、ぜんぶ受け入れるしかないじゃないですか。


ほんと、もう、かないません。

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