【完】メガネは微妙に嘘をつく。
小池 宮音
無愛想後輩と偽物カップル
第1話
先々月入社した後輩、総務部の岡田
新卒入社なので年齢は23歳。わたしの5歳下。
口数が少なく、クール系で何を考えているのか分からない様子に、先輩のわたしは参っていた。
分からないことは聞いてくるし、喋らないことはないけれど、必要以上の言葉は発さず、ただ与えられた仕事を淡々とこなす後輩。正直ちょっとやりづらい。
歩み寄ろうと、お菓子を差し出して「これどうぞ」と言ってみても「あ、結構です」と断られる。
どうやら人間があまりお好きでないらしい。飼い慣らされていない犬か猫のようだ。それなのに容姿だけは一丁前にカッコよく、背が高くて鼻も高い。目も二重でキリっとしていて、掛けている黒縁眼鏡を人差し指でクイと押し上げる仕草がイケメンなのだ。これでニコリとでも笑えば、仕事が出来なくてもまぁいいかな、なんて思えるのだが。
岡田くんは無愛想で人づきあいが悪いが、仕事は出来る。こういう場合は、どう評価したらいいのだろうか。
「
そしてなぜかわたしのことを下の名前で呼ぶ。
「うん、オッケー。じゃあ、あとはここに部長印をもらったら、この書類は出来上がりです」
「はい、分かりました」
総務部はわたしと岡田くんと佐野部長の3人しかいない部署だ。この間まで1人同期がいたのだが、寿退社をして代わりに岡田くんが新入社員で入ってきた。
少数精鋭の部署なので、仲良くしていきたいのではあるが、何を考えているか分からない無表情さがとにかく取っ付きにくい印象を与えてしまっていて、わたしの頭を悩ませていた。
そしてなぜか席は隣同士。最初は向かい合わせだったのに、「教わりづらいから隣で」とわたしの右側へデスクごと移動してきた。
正直向かい合わせの方がパソコンのディスプレイを挟めるので集中できるのだが、教わりづらいと思われたなら仕方がない。視界の隅に入ってくる岡田くんの影を感じながら、わたしはとりあえず雑談をしようと話しかけた。
「岡田くんは、学生時代、何か部活とか入ってたの?」
「いえ。帰宅部でした」
「そうなんだ……なんか趣味とかはないの?」
「別に特には」
「そっか……」
会話が続かない。
わたし自身も話が得意なわけではなく、ましてや自分から話題を振ってそこから話を膨らませる能力は持ち合わせていなかった。
今までは同期がおしゃべり好きだったので、1人でベラベラ喋っているところにわたしが適当に相槌を打っているだけだった。朱莉は聞き上手だね、なんて言われたこともあって、あんたがベラベラ喋るからでしょ、と返したが、それがどれだけありがたかったことか今になって身に染みる。
岡田くんが真っ直ぐパソコンに向かう姿勢は様になっていて、横顔なんかとくにイケメンだ。瞬きさえも見惚れてしまうようなほど華麗で、目が釘付けになる。
ただ、いくら美しくてイケメンでも、中身が伴っていないとダメだと思う。
わたしの中で岡田くんは、『中身が残念な顔だけイケメン』という位置に落ち着いた。
「……なんですか」
ひとり納得して頷いたら、パソコンのキーボードに手を置いたまま、顔だけこちらに向けた岡田くんにジト目で見られた。
「岡田くんって、彼女いるの?」
「いませんけど何か」
「イエ、ナンデモアリマセン」
まぁそんな性格じゃ彼女も出来ないだろうね。かくいうわたしも彼氏なんていませんけど。
28年生きてきて、彼氏がいたのはたった半年、大学生の時だけだった。同じゼミで意気投合して付き合ったけれど、お互い男女交際すること自体が初めてで、手探りで一緒にゆっくり付き合っていこうね、なんて言っていた。多分、それがいけなかったのだろう。お互いが消極的で前に進まず、一緒にいても楽しくないことに気が付いて、さよならをした。
でも、貴重な経験をさせてくれた彼には感謝している。最初で最後の彼氏になりそうな予感もあるけれど。
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