第17話 FILM-0、最強タッグによる大無双

第5回FLOWアジア大会本戦 第一試合

開始から30分


第6リング収縮開始 残り人数7人 4チーム





アジア本戦も早いことに最終盤に突入した。


気分が高まりさらに興奮してきて、より鼓動が速まるのが自分でも分かる。


『悪いな』

「ん?」


耳を澄まして敵の足音を聞いていると、突然アミアの謝罪の声が飛んできた。


『せっかく狂犬に帰れたのに、俺の指示に従ってもらったことだよ』

「なんだそんなことか。理論で動くのはアミアの得意分野だろ? こういうのは役割配分だ」

『サンキュ。ま、でもここからは──』

「分かってるよ」


──ここからはアミアがメインではなく、俺が主人公に変わることくらい、分かってるぜ。


残り人数は俺だけが1人チームの7人。リングはあと5分でさらに半分小さくなり、さらにあと5分で完全に閉じきる。


長くても、あと10分で運命の第一試合が終了する。


:ついに来るぞ

:ここまで残ってるのが奇跡に近いけどな

:その奇跡を起こしてみせるのがFILM-0なんだよなぁ

:いや違うぞ?

:え?

:奇跡を起こしてるんじゃないんだよ

:そうだぞ、こいつら奇跡を現実に変えてるんだ

:アミアの理論を声かけているIGLをレイのプレイスキルが無理やり理論をぶち壊してる

:やっぱ狂ってんなw

:こっちまでアツくなってきた


俺とアミアはこれからの激戦に備えて深く息を吸う。


──まるで、俺が操作するキャラに憑依したような気分だ。


ゲームの中のキャラでしかないコイツが、全力で楽しもうと言ってきている。


「あぁ、楽しもうな」


深く息を吐いたのちにそう言った。今顔がめちゃくちゃ笑っているような気がするな。


「──行くぞ、相棒。頭脳は任せた」

『あぁ、俺の無念まで任せたぜ相棒。ブチかましてやれ』


俺たちの心がまた1つ通じ合い、FLOWアジア大会本戦第一試合、最後の戦いが幕を開けた──。




コンテナの中に身を潜めた俺は、よく耳を澄まして待機する。


コンテナとはいえ、両サイドの入り口は完全に開け放たれている。


そのため片方には簡易シールドを設置し、敵の銃弾が俺に当たらないようにする。


そこまで大きくないものだが、コンテナの入り口を防ぐには十分だ。


「さて──」


現在、リングの大きさは直径200mを切っている。


周りの敵が少しだけ銃を撃ったり爆弾グレネードを投擲したりと、キルするチャンスを伺っている音が聞こえてくる。


当たり前のことながら、どれもリング内で置きていることなのでかなりうるさい。


──だが、初代ソロ世界王者の聴覚はその程度では止まらない。




「────中央の建物の中に1チーム、街を囲う塀の外に1チームか。あと1つだけほぼ聞こえねえから特定出来ないな」




:エグいってw

:待て待て待て待て

:今日だけで待て待てって打ちすぎて予測変換で出てくるようになったんだがw

:戦いの音しか聞こえねえよ!!

:どうなってやがるんだよマジでwwwww


1チーム場所を特定出来ないということは、それなりに離れているとは思う──が、どこから射線が通るか分からないから動けないな。


1人のプレイヤーが隠れる場所もそろそろ限られてくるから、いつ強引に攻められてもおかしくない。


もっと、耳を澄まして────!



『────ふむ、1



だがそれよりも先に、ずっと黙っていたアミアの声が届いた。


『このリングからして、レイの言った場所以外で"あまり動かず"、"2人が隠れられる"場所は、第6リングから外れているちっちゃい崖の下だ』


アミアの言葉を聞くとともに、1秒ほどマップを開き脳に焼き付ける。


その記憶から、最後の1チームは俺とは正反対の崖下であることと、中央の建物のおかげで射線が通ってないことが分かった。


「ナイスだ」

『内気な敵は?』


俺の賞賛を『当たり前のことをしたまでだ』と言わんばかりの冷静さでスルーされ、質問が飛んでくる。


180°の話題転換だが、アミアの提案することは大体予測できていたので、


「塀の外の敵だ」


とすぐに返した。


『なるほどな……』


俺の返答にアミアはうわずった声でそれだけ答えると、また無言になる。


あぁ、懐かしい。あのアミアの冷静な声がうわずったものになるなんて。


そうか────感覚を共有しているのは、アミアお前もだったんだな──!




今のアミアも間違いなく──極限状態ゾーンに入っている!




約10秒。その短い時間の思考のすえ、またアミアの声が耳に入る。



『こちら側にある中央の建物の扉にグレネードを1つ。その後、4.5秒後にサブマを銃の引き金を引き続けろフルオート。その後すぐに塀の外だ』



今のアミアの指示に絶対的な信頼を置いている俺は、その言葉と同時進行で言われた通りのことをこなしていた。


そして、アミアのカウントダウンの合図と共に、サブマをフルオート。


すると、扉の耐久値が無くなって壊れた直後に、グレネードが爆発した。


その音が、既に塀の外に向かって走り出していた俺の背後から聞こえてくる。



『──最上位勢であるという敵の心理をついた作戦だ。爆発直前に扉を壊して爆発ダメージを内側にも伝えるなんて技、だと思わないやつはいないだろ?』


『そして、建物にいた敵は塀の敵と見合っていた。その方向とは別の場所から連携のようなものが襲いかかってきたら、


『建物にいた敵はグレネードを投げながら警戒するはずだ。それしか無いからな。だが──爆発音が2回もすれば、は戦闘が起こったと勘違いして、漁夫ろうと来る』


『────戦い合うぜ?』


とても楽しそうな声でそう言うアミア。


しかし、その言葉の内容は完璧なまでに計算されつくされた作戦だった。


事実、アミアの言葉通り俺の背後からまた爆発音が鳴った。


それを「さすがすぎるな」と思いながら聞きつつ、サブマのリロードを終えた俺は塀を登って乗り越える。


着地した先にいるのは──2人の敵。


塀越しでも僅かな音で完璧に場所を把握していた俺は、サブマの射程圏内で引き金を引いた。


その異次元な速度に敵は当然反応できず、1人を倒しきった。


しかし、その時間があればもう1人の敵が迎撃態勢に入るのは余裕である。


だが────


「はっ! 5年前、俺が何人の漁夫を連続で相手したと思ってるんだ。elle式あのキャラコンは──ソロで勝ち抜くために開発したんだぞ?」


俺の使用キャラのアビリティを発動し、超速になる。


そして、近くにあった障害物にしかなり得ないほどの小さな岩で『岩蹴り』を、精密な操作で塀側に方向を指定して行った。


岩からの反動でキャラの下半身が反対を向き、


バグを意図的に利用した技グリッチのようにも思われるが、運営からも『グリッチではない』と認められた、特定条件下の鬼ムズキャラコン──。


『elle式、壁走り』


4年前、俺が消えるとともに使い手もいなくなった技に、現代の最上位勢が反応できるわけもなく。


ダダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!


『──やっぱ、狂犬がお似合いだぜ』


2人の敵を倒しきった俺は、休むことなくまた街に帰る。


内気な敵とはいえこの大会でここまで生き残った生存勢。決して弱い訳では無い。


それでも俺たちが攻めたのは、生存勢ほど戦闘に移り変わるまでの時間がかかる。ただそれだけだ。


──つまり、街での戦闘の勝者──対面が強いヤツとの2対1は俺でも負けるということだ。


俺の直感とアミアの頭が言っているのだから、ほぼ確実に。


「漁夫じゃねえと、勝てない……!!」


俺は戦いに参加するために塀を乗り越える。




────が。




ダダダダダダダダダダダダッッッ!!!




俺たちの戦略に、どちらかのチームが気づいてしまったのだろう。


完全に待ち構えられていた俺は、塀を乗り越えたあと地面に着地することは出来なかった。




Ray……死亡




:うわー!!!

:マジか!!

:待ち構えてんのエグw

:おしいいいい!!

:いいもん見せてもらったわ

:まぁアミアいなかったし十分だろ

:いやそうじゃん、アミアいなかったのかw

:1人でこれ……え?

:ま、まぁ次も頑張ってもらおうぜ!!


『あちゃ〜……』

「うわー、マジか……」

『あの戦略に気づかれるかぁ……やるな、現代も』


その後、第一試合はすぐに決着がつき、俺たちFILM-0は3位という結果だった。


『6位までだっけ? 世界大会行けるの』

「だな。ま、行けるだろ?」


俺は自信満々でアミアに質問した。

質問というか、確かめたという方が正しいかもしれない。


『んだな。スナイパーでの事故が無ければ』


その後、俺たちは2試合目、3試合目と出場し、1位と3位という結果に終わった。


第一試合から極限状態ゾーンに入ったことで、脳もだいぶ限界を迎えていたようで、最後は凡ミスも少ししてしまった。


ここは反省点だな。


までも、最終順位はキルポイントも入って2位。



世界大会出場、決定である。







《あとがき》


FLOWアジア大会本戦編、閉幕です。

「面白かった」

「続き気になる!」

「か、かっけぇ」

と思ってくださった方、よければ星を入れてくださると幸いです!


次回は掲示板を挟んだ後、VTuberします。

……一応、VTuber小説なので(FPSしそうなのは内緒の話)

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