第5話 元プロさん、魅せプ無双する
FLOWプレイヤーは、elleという名を忘れた者はいても、elle式という名を知らないものはいない。
今でこそ当たり前となっている技術だが、その全てには初めて開発した神のような存在がいる。
その最たる例こそ──elle式。初代世界王者のelleが見せた、いや魅せたキャラコンの技だった。
しかしそれが更新されることは、elleの実質的引退とともに無くなっていった。
◇ ◆ ◇
あのチームを倒してから、5分が経った。
アミアが2人スナイパーで抜いた以外では特に進展はなく、第3リングの収縮が始まった。
すでにマップ全体の1/4の大きさであり、ここからはリングの収縮がさらに速くなる。
「このリングの傾向、どうだ?」
『おそらく少し奥の崖辺りだな』
第6リングの収縮の開始は、試合開始から30分が経過したときで、その数人しか入らない小さなリングになったときには大体試合が終わっている。
つまり、崖上が有利ということである。
しかし、この最上位マッチではそんなこと全員分かっている。
ここからの読み合いこそが、本番である。
「崖、か……」
『どうした?』
「いや、すまない何でもない」
『そうか。なら、おそらく対面に自信のあるやつらが崖上に来ると思うから、漁夫れる場所に移動するぞ』
「了解」
アミアの完璧なルート開拓により、誰にも接敵することなく一つの家に移動することができた。
2階からは崖上に射線が通る、完璧な位置取りだ。
『やっぱり来たな』
アミアに言葉で俺も2階に上がり、窓から例の崖を覗いてみると、グレネードやらドームやらスモークやら、乱戦が始まっていた。
『狙える時は撃っていいか?』
「あぁ。このあたりの警戒は俺がする」
「助かる」
役割チェンジをして5分。第4リングの収縮が始まった。
この家はリングの外なので、俺たちも早めに移動しないといけない。
そして当初の予想通り、あの崖がリングの中に入っていた。
「アミア、崖上は?」
『2人頭抜いたが、どんどん人が集まってきやがる。事故るかもしれねーし、俺たちは崖下だな』
「了解」
あの乱戦の中、2人も倒してるのはさすがすぎるな。
しかし、崖下か……あの技が使えるかもしれねえな。
『気のせいかもしれないが、なんかエグいこと考えてね?』
「否定はできんな」
『マジかぁ』
その言葉とは裏腹に、とても楽しそうだった。
第5回FLOWアジア大会予選、開始から51分
最上位マッチ開始から26分
第4リング収縮中 残り人数12人 6チーム
俺たちは崖上からの射線が通らない道を選択しながら崖下に進んでいく。
『残り12人だ。崖下何人いる?』
先行している俺にアミアが聞いてくる。
「多分……1パだぞ」
『おいおいマジかよ。崖上に8人いるのか? 大混戦すぎるな。とはいえ、まずは崖下を占拠しないと話にならないな』
アミアの言葉を聞いて、崖下のチームの様子をバレないように探ってみる。
2人とも適当にキャラを動かしながらも、上を警戒しているようだった。
「相手は崖上しか警戒してなさそうだから、スナイパーで1人抜いて欲しい。行けるか?」
そう注文はしたものの、敵の動きはかなり上手い。弾除けに慣れているキャラコンだった。
それに外せば警戒されてしまう。
さすがのアミアでも、一発で当てるのは至難の業か……?
『──俺を誰だと思っている?』
バンと重い銃声が鳴り、俺の視界に映っていたキャラが1人、急に四つん這いになった。
ワンパン、ダウンであった。
ゲキムズショットを一発で、しかも頭に当てた。
「やっぱアミア最高だぜ!」
俺はテンションを爆上げしながらあのチームの元に凸っていった。
ここまで生き残ったチームとはいえ、単純な撃ち合いの1on1で、俺が負けるはずがない!!
ダダダダダダダダダッッッ!!!
「っし! 壊滅!」
『ナイス!』
最終盤になるに連れて、俺たちのテンションが上がっていくのが声の大きさとなって分かる。
「崖上の状況は?」
『さっき一気に状況変わって、あと2パ! まだ銃声鳴ってるからラスト2v2まで行くぞ!』
「了解!」
なら……やるか!!
しばし、新キャラコンというのは運で開発されると言われていた。
『このタイミングでジャンプして、◯秒後にダッシュボタンを押す』。
そんなの、狙って見つけるのは不可能に近い。
それこそ数十時間同じ動作をミリ単位で調整しながらやらないといけない。
しかし、そんなことを考えている奴らは永遠に知ることは無い。
その数十時間をやってのける人が、世に新技術をもたらしているということを。
『──終わった! ラスト1パ!!』
「行くわ! アミア、俺のピッタリ真下にグレネードを投げてくれ!」
『は? 何言って──いや、お前のことだ。信頼してるぜ!』
アミアは俺の真下にグレネードを投げてくれる。さすがのエイム力だった。
FLOWにおいて、グレネードは味方にもダメージがある。
ダメージはちょうど100。シールドがちょうど壊れる。
そして、今回重要なもう一つの効果、ノックバック。
爆発の起点に近ければ近いほど、遠くにふっ飛ばされる。
ダメージはどこでも均一だが、ノックバックの効果は中心の方が強い。
つまり、体力を半分犠牲にしてノックバックの最大活用ができる!!
ドカンッッッ!!!
大きな音とともに、俺は大きく吹き飛んだ。
だが、グレネードの爆発だけでは到底崖を登ることは出来ない。
──FLOWには、慣性がある。
そして、俺の使っているキャラは、このゲーム最速のアビリティを持っている。
数十時間の研究の末見つけた、完璧なタイミング──ッ!! そこでアビリティを発動すれば──
俺は、天高く飛び上がった。
『──……っは、バケモノかよ』
「おいおい、何もう終わりみたいな声出してんだ?」
俺が世界に見せたいのは、新技術ではなく魅せプ無双!!
敵が俺に向かって発砲してくる。
「──残念。このゲーム、空気抵抗は実装してないんだな」
『は……?』
何言ってるんだ、とアミアが声を上げるが、俺の言葉の意味は俺の行動で示す。
空中で身体を動かし、空中で弾除けをする、その行動で──ッ!!
体力は、3割しか削れない。
そして俺が構えるのはSMG──ではなく、スナイパー。
「知ってるか? スナイパーはスコープすれば、真っ直ぐ飛ぶんだ」
空中でエイムした俺は、引き金を引いた。
そして、頭に当てる。
『おいおい、待ってくれよ』
アミアが呆れた声を出すが、そんなものは聞こえない。
俺は今──────
俺はキーボードとマウスから手を離した。
「ナイスチャンピオン」
『は──? おいまだ1人残って────』
ドォォォン!! ドォォォン!!
完全に操作をやめた俺の背後で、2回の爆発が起こった。
「このゲームには、重力がある」
『は?』
「重力は現実にもあるものだ。つまり、予測することができる。そして、俺の『耳』は、相手の位置を特定できる────」
『だから、何を言って──』
「相手の行動を予想して、下と上から投げたグレネードの爆発が同タイミングになるように調整して投げ、それが今の敵の場所で起こった。それだけのことだ」
『──馬鹿げてる』
あぁ、馬鹿げてるとも。何十時間練習したと思ってるんだ?
……何十時間? いいや違うな。何百時間、これだけを練習し続けたと思ってるんだ。
初代世界1位に輝くってのは、才能と努力が馬鹿げた者がなるものだ──。
第5回FLOWアジア大会予選、開始から2時間17分
最終マッチ終了
最終ランキング
1位:Ray(elle)&aMaチーム ポイント──409
2位:nameko&し〜たけチーム ポイント──248
歴代最高ポイント更新
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