第三次世界大戦で荒廃した国の孤児院で育ち、禁断の愛と友人を見つけた。暗い運命を変えられるのか？ [簡易版]

第7章：未払いの借り―最後の旅の前（パート2）

欺瞞の舞

2017年11月28日、16時25分 -

背が高い若い男が立ちふさがる。色白で、茶色い巻き毛がほどよいボリュームで整い、細身ながら引き締まった体つき。闘争心むき出しの怪物を想像していたが、その顔立ちは意外と整っていて、落ち着きと無邪気ささえ感じる。瞳には自信が宿り、穏やかな視線でこちらを見つめる。そのギャップが胸の中にかすかな不安を残す。

「潰せ、クリアン！血を見せろ！」群衆は狂乱し、怒号をあげる。審判が静かに問いかける。「準備は？」返事する前に、沈黙が答えと見なされたのか、審判は手を上げ試合を開始した。

アドレナリンが全身を駆け巡り、感覚が研ぎ澄まされる。拳を構え、臨戦態勢。相手は余裕を見せ、小馬鹿にした笑みを浮かべる。苛立ちが募るが、ダンテの忠告が頭をよぎる。これは罠かもしれない。油断や焦りは禁物だ。

足を進め、ガードを高く保ち、相手の動きを探る。だが彼は踊るように身をかわし、攻撃は空を切る。苛立ちに突き動かされ、さらに打ち込むが、すべて優雅に避けられ、嘲笑が響く。「それが精一杯？」という嘲りが耳を刺す。熱くなったら負けだ。

全力の一撃を繰り出そうと拳に力を込めた瞬間、予想を超える動きが飛び込む。避けるのではなく、容易く受け止め、低いキックで足を払われ、背中からキャンバスに叩きつけられた。息が詰まり、背中に痛みが走る。

顔を上げるが、彼は攻め込まず、悠然と立ち尽くしている。侮られているのか、それとも圧倒的な実力差なのか？屈辱が胸を焼くが、弱音は吐かない。息を整え再び立ち上がる。観客の喧騒が遠ざかり、自分の荒い呼吸だけが響く。「かかってこい」と体で示すと、彼は嘲るように手招きする。

汗が頬を伝い、目を逸らさない。ジャブで牽制しても、また涼しい顔でかわされる。じわじわフェンスへ追い込んでも、彼の余裕は崩れない。強烈なフックを繰り出すが、頬をかすめるに留まり、返すように軽いボディブローが腹にめり込む。息が詰まり、苦い液体がこみ上げる。呼吸できず、膝が崩れ、キャンバスに叩きつけられた。

視界が揺れ、痛みに喘ぐ中、必死で立ち上がる。彼は当然そこにいて、微動だにせず見つめている。

防御しながら隙を狙うが、攻撃するたびに凌がれ、腕に響く衝撃が痛みを増す。ここで守ってばかりもいられない。一瞬の隙を待つ。

相手が再び打撃を繰り出した瞬間、素早く踏み込み、身をかがめて側面へ回り込む。背後をとるが、彼の背中に深い傷跡と蛇のタトゥーがあるのを見て一瞬ためらう。その隙に肘がこめかみを直撃し、白い閃光が走る。足元がおぼつかず尻餅をつく。

息を整える暇もなく、彼が襲いかかる。咄嗟に足を出し、足元を払うと、彼はバランスを崩すが、フェンスを掴んで踏みとどまる。必死に立ち上がり、もう一度攻防が始まる。拳と拳が交差し、ブロックと回避の繰り返し。腕が痛み、肌が焼けるようだ。

「それが限界か？」と憎まれ口を叩かれ、歯を食いしばる。「好きにはさせない」と体で主張すると、彼は「本番はこれから」と低く囁く。寒気が走る。これ以上疲弊する前に、一気に決めるしかない。

冷静になり、狙いを定める。全身の力を拳に込め、顎へ突き出す。一撃が彼の顔面を捕らえ、肉と骨の感触が伝わる。彼の目が驚きに見開くが、わずかな歓喜の刹那、逆襲のローキックで足元をすくわれる。痛みで声が出ず、体勢を崩した隙に、彼は再び地面へ叩きつける。

背中が痛み、呼吸が乱れる。上から押さえつけられ、打撃が次々と降り注ぐ。ガードを固めても隙を突かれ、強烈な一撃がこめかみにめり込む。視界が揺らめき、頭に黒い霧が立ち込める。意識が遠のき、暗闇が視界を侵す。

これで終わりか？本気で潰しにきている。もう時間がない。暗闇が世界を飲み込もうと迫る――。