宇宙戦艦を守りながら地上で冒険者をすることになりました!◆ノーザンディアの軌跡◆

桃源郷

第1章 惑星への降下

第1話 アリアドネ海戦 1

 銀河皇歴9939年 


 ラクテ銀河帝国軍北方銀河艦隊第499番艦隊総旗艦シエナ・ノーザンディア。

 この広大な銀河帝国を統べる皇帝の名の一部を戴く超大型新鋭艦は、10万単位の帝国艦を率い、アリア・ドゥーネ星系周辺宙域(=通称アリアドネ海)を航行中であった。


 アルマ級と呼ばれる帝国最大の大きさを誇り、乗組員3000人を超えるこの新鋭艦の処女航海は、長年敵対関係にあるアデルの大規模艦隊がアリアドネ海方面宙域に向けて進行中であるとの情報をもとに、これらの殲滅を目的に派遣された。


 また、アデル艦隊にも新型艦が多数確認されており、それらの戦力分析を主任務とし、あわよくばアデル本星の発見という副次的任務も期待されていた。

 もっとも敵方の本星の発見となれば、主任務がそれに入れ替わる。

 そのための大規模編成であった。


 アリアドネ海の深部宙域へと立ち入った帝国艦隊は、ついにアデル艦隊を捕捉し、艦隊戦に移行する。

 光学兵器による一斉射により両陣営の艦隊が一瞬のうちに消滅していく。

 しかし、艦隊戦においては銀河帝国艦隊が、質、量ともに敵艦隊を凌駕しており、アデル艦隊は湯水のように消滅していった。

 数の割にあっけなく敵艦隊を殲滅できそうだと考えた旗艦シエナ・ノーザンディアの首脳陣は、敵艦隊を殲滅すべく、さらに怒涛の追撃戦を指示した。



 この大艦隊を指揮するのは、ラクテ銀河帝国航宙軍元帥カイゼル・ラムダ・ブライエンである。

 ラクテ銀河帝国きっての名将であり、帝国貴族の公爵の地位を賜る彼は、類まれなる戦略で数々の戦場で勝利を収めてきた。

 また、軍人らしからぬその温和な性格から「帝国の父」と呼ばれ、軍人だけならず、民衆からも絶大なる支持を集めるような人物であった。

 当の本人は、「皇帝陛下を差し置いて帝国の父などと呼ばないように」と周囲にもらしていたのだが、そういった謙虚な一面も相まって、根強い人気があった。


 この大艦隊の実質的な指揮は、シエナ・ノーザンディアの艦長であるリエル・ブレスト大将が務めていた。

 リエル大将も女性でありながら大将まで上り詰めたその手腕と功績、さらにはその美貌から軍の広報役として軍内外からの人気が高く、本星にはファンクラブが存在するほどの人気ぶりであった。

 リエル大将の能力は申し分なく、「帝国の父」がいなくとも作戦行動に問題はなかった。


 しかしながら、「帝国の父」が参戦した時点で名目上はカイゼル元帥がこの大艦隊のトップとなり、また、同じ総旗艦内に元帥と大将が乗り合わせるという帝国軍航宙艦隊としては異例の配置により、同艦隊の士気はこれ以上なく高い状態を維持していた。



「よし、順調に敵の数を減らせているな」

 リエル艦長はシエナ・ノーザンディア艦橋の艦長席左舷側にある上級指揮官席でそうつぶやく。

「このまま押しつぶせそうか。それではあとは任せたよ、リエル艦長」

 カイゼル元帥はそう言って艦長席を立つ。

 リエル艦長は

「はっ、お任せください元帥閣下」

 と答え艦長席に座りなおし、すぐさま指揮を下す。

「僚艦に伝達、殲滅戦に移行する。深追いはしすぎないように各艦長に徹底させろ!死んだら元も子もないぞ。それからゲートで逃走を試みる敵がいれば最優先で報告しろ」

 これでこの戦闘も大詰めかと乗組員の空気がわずかに弛緩したその瞬間。


 総旗艦内部にけたたましいアラートが鳴り響く。

 そこかしこで『緊急事態(エマージェンシー)』がポップアップしている。

 一瞬何が起きたのかわからない乗組員は落ち着いてアラートの原因を確認する。


 敵艦隊は総崩れ状態であり、シエナ・ノーザンディアの位置は無数の帝国艦隊に守られた鉄壁の陣の中心だ。敵の攻撃の可能性は低い。

「なんのアラートだ!敵の攻撃ではあるまい」

 このアラートは総旗艦だけのものではなく、確認しうるすべての僚艦でも発生していた。

 リエル艦長が問いただすと、オペレーターが青い表情をして答える。


「北方銀河方向より超質量エネルギーの収束を確認!先頭の僚艦と敵艦隊を薙ぎ払いながらこちらに湾曲しています!このままでは直撃します!」


 いきなりのピンチにブリッジクルーは慌てふためく。

 突然、超質量の旗艦を飲み込むほどの極太レーザーがこちらに迫っているのだ。

 無理はない。

 しかしリエル艦長は冷静に指示を下す。


「AIリソースを最大にして湾曲角の高速演算を実施しろ、回避行動急げ!無理ならゲートに飛び込め!」

「間に合いません!回避―――‼」

 操舵手が舵をいっぱいに切る――――――――しかし間に合わない。

「直撃します‼」

 直後、光と大音量とともに激しい揺れによりクルーたちは床や壁に叩きつけられ、この瞬間に多くの乗員が絶命した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る