第43話、新学期初日

「お願いです、あと5分」『にゃ!』『pppp...』『カチッ』「zzzz....」『にゃ〜』「いっ!た!なな、ザラザラな舌で鼻舐めるのやめて!」『にゃ!』「ぐはっ!?みぞ、お」


今日から新学期。宿題も終わっているし、学園の文化祭に向けた劇の準備も進んでいる。9月は文化祭、10月のコンクールに勝ち抜けば、11月は全国演劇コンクールと部活動も多い。


今週末には進級テストもある。この学園は体育や教養の共通科目以外は、各学科に星1から星5まであり、各学科で必須科目全てで星3つ以上を獲得し、一年生で受ける共通科目を修了すれば卒業できる。


最短で一年あれば卒業できることもあり、その最初の試験が今週末にある。通常は3年通うが、私としては早く卒業して、もっとこの世界を知りたかった。


「これ、なんです?」「お願いが叶う紐だって」「あら、私にも?」「もちろんです、先生」「まあ、嬉しいわ。ありがとうございます」


レオンはクラスメイト全員に願いが叶う紐を渡していた。カラフルな紐を思い思いにみんなが付けると、クラスとしての連帯感が高まった気がした。


アドはカラフルなピンバッジらしい。隣のクラスにもきっと連帯感が芽生えたことだろう。


「どうしたの、瑞樹?」「ああ、とても楽しくて」「え?僕なんか今日朝起きたくなくて、もうつらかったのにー」「私もー。瑞樹が寝坊してくると思ったのにー。あと兄者から瑞樹にまたきてねって、これ。」「修さんに?」「猫まっしぐらなやつだ」「あの猫、今日なんか私のこと起こしたら、私の布団で寝始めたんですよ、ほんとにもう!」「修さん、お母さん。瑞樹が遅刻しないわけね」「いい猫だね」「なんで!?」


祐二とは、夏休みの前半にあったオーディション以来。ほぼひと月ぶりだった。

「瑞樹、キャンプファイヤーは暴れたんだってな。」「誤解だよ。単にギアを使えば空中が歩けるのかなと試しただけなんだ」「炎に落ちる直前だったんだって?セシル先輩が水龍召喚して、あたり一面、沼地になって復旧予定立たないから田んぼにするって」「彼、もう魔法使いでいいのでは?」「鍛え上げた裸の上半身に短パン、ウエスタンハット被ったスニーカーの男魔法使いか。いくらなんでもそれはないだろ」


演劇部員ですら、それはないと思うけど、その人はテニス部の部長だ。私は靴底に衝撃を出して蹴り出すと同時に光をレーザーのように真っ直ぐ出すことで、まるで光を踏んでいるかのように宙を舞った。


結果は大成功だったが、ちょうど焚き火の真上に来た時、光が混じって衝撃を出す位置を間違えて滑った。轟轟と音が聞こえる中、慌てて燃えた木枠を踏む覚悟をした時、頭に凄まじく鈍い衝撃が走り、気がついたら濁流に飲み込まれ、わからないうちに学園にいた。


セシル先輩のギアは水を出すとは聞いていたが、みんながいうにはあの時、大きな水龍が私を飲み込んで火から救ったそうで、その水龍召喚ギア、セシル先輩の卒業制作予定のギアはオーバーフローで壊れてしまった。


次の日、学園で目が覚めて、セシル先輩のお家までエヴァンス先生とお礼に行ったら、黙ってゲンコツを一発もらって、そのまま抱きしめられた。セシル先輩はずっと無言だったけど、本当に反省した。忘れないために先輩の壊れてしまったギアの一部を頂いた。


-今も大切に持ってるんです。そんなに親しい訳でもなかった後輩のために、卒業制作予定のギアを壊してまで助けてくれた先輩のことは今でも覚えています-


「意外とお調子もんだよな、瑞樹」「つい、まあ。それより祐二の夏休みは?」「ああ、よかったよ。いっぱい見てきた」


にやにやと、自慢話がしたそうな祐二に噴き出して、まだまだ残暑が厳しい、私の新学期が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る