第38話、先生と秘密の授業

「クロックタウンの歴史と学校」


クロックタウンは、ミドルウエスト地方の東部、南北ではほぼ中央、ヴィクトリア王国の広大な背骨を形成する約500kmに及ぶ山岳地帯にある盆地に位置しています。


西部山岳地帯の世界樹近くにある盆地としては最大の広さを誇り、飛行船の発着所や鉄道路線の中心として栄えてきました。


特に世界樹によるエーテル利用が可能なため、他の山岳地帯と異なり、人口オーナス時に都市計画を進め、花と機械の街として新たな都市に生まれ変わりました。


「エヴァンス先生」「あら、これ、よくまあ」「あ、やっぱりエヴァンス先生の本ですよね?」「ええ。私の本です。図書館ですか?」「街角図書館で借りました」「あら。瑞樹さんが街に馴染んでくれて嬉しいです」


私は途中入学であり、またこの世界を知らない。エヴァンス先生は担任として、他の特別講座のあとに時間をとって勉強を教えてくれていた。


「この、学校と学園の関係なんですが」「ええ、新しい都市計画になる前、この街は歴史ある廃墟でした」


本にある写真には、誰もいない、古い街があり、それはどこか、日本のような街並みだった。


「異世界人とエヴァンス先生のご先祖様達13人がこの街の基礎計画を立てたんですよね」「その本にも書きましたが、14人が作った訳ではありません。この街で生きていた、またこの街を応援してくれた方々がいるから今があります。その14人は単に代表者でしかありません」「この異世界人はせっかくの富を家以外の全部を寄付して、家も配偶者が亡くなったら街に寄付してしまいましたね」「ええ、その跡地がエーテル研究所です。彼は非常にクセがある人だったそうですが、自分の子供たちがそれぞれ自立できるだけのお金、我々からしたら大金ですが、彼の資産からしたらごく僅かだけ残し、貴族院への推薦も断り、最後まで一技術者でした」「エヴァンス先生のご先祖様はこの学園を残された」「ここは公立ですよ。私は類系ですが、試験結果によるものです」「すいません」


なんとなく、失礼をしてしまったかと、言葉を切ったが、エヴァンス先生は気にした様子はない。どこか不思議そうな顔をしている。この国では親族や利害関係者は推薦文すら書けない。私はリリーとリョウとギルド職員の3名からの推薦状で入学試験を受ける権利を貰った。


「瑞樹さんがいた世界では違うのですか?」「あ、いえ。まあ、ツテとかコネとかは、ありますが」「そうでしたか」


なんとなく、私が元いた世界が蛮族のような気がするのは、この街や出会った人たちに公共心が強いからだろう。


「瑞樹さん、それは我々が公務員だからです。でも、我々だってお給料や待遇面などで不満もあるんですよ」


とても面白そうに笑うエヴァンス先生に、さらに気まずくなる。私の前世の公務員は、全員とは言わないが、公共心はさほど高くなかった。


「なぜこの街をエーテル循環重視としたのですか?」「ええ、それはですね、、、」


あまりの気まずさに、話を無理矢理変える。よくある異世界物語は「俺つえー」が主流だが、元の世界より今の世界の倫理観の方が好きだと思う程度には、私はこの世界に馴染んだのだろう。


「みっずき!終わった!?」「オズワルドさん、ノックしましょうね」「はい!」


プラムの後ろには、エドガーが両手を合わせて謝っている。「ごめん、先生の話が面白くて」「え、なに?先生、瑞樹だけに面白い話をされたんですか?」「ええ、瑞樹さんとの秘密です」


そういって、先生と笑いあった。

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