第30話、初夏の夜と世界樹の輝き
遠ざかったはずの天空に浮かぶ城から、まっすぐに光が放たれ、世界樹が青く光る。夏が近い紺碧の夜空の下、大地は温かな緑のエーテルで輝いていた。
「みっずき!今日のテスト、緊張してる?」
プラムの声が響く。今日の初級共通科目確認テストで合格すれば、次の段階に進むことができる。エーテル技術者として、その最初の一歩だった。
私は軽くうなずき、深呼吸をする。
『キーンコーンカーンコーン』
「始めてください」
地理、世界史、数学、課題図書に対する小論文、社会と、高校生時代を思い出しながら、この世界に目覚めてからの知識を総動員して解いていく。
「今日はAランチ食べれたな」
「テスト期間中だから、終わったら帰る子も多いんだよー」
「瑞樹は「狂乱の青い夜」までどうするの?」
午前中のテストの後、私たちはいつもの学食でだべっていた。
「ええ、私は演劇部で参加なので」
「あっ!そっか。エドガーはいいとして、レオンは?」
「俺は兄貴たちと一緒に生徒会手伝いで参加だ」
「感じ悪いなー」「私と一緒ってことよ。違う?」
窓の外、まだ明るい中天の光を見ながら、なんだかんだ言いながらも、こうして話合える相手がいることに、唇が上ることを抑えられなかった。
午後の実習テストの課題は、すでにあるエーテルギアに、制限時間内にコンダクターを作成してギアを動かすこと。
私は白い小さな鳥のギアを選び、上下に移動するように回路図を組み立てた。
「よし!」
ギアを発動させれば鳥はパタパタと舞い上がる。それを見たプラムはテスト中だが「すごい!」と大喜びだ。
後半組のエドガーは「さすが瑞樹!」と褒めてくれて嬉しい。エドガーの横にいるレオンは腕組みしてうなづいていた。
『次は県立観測所〜、県立観測所です。お降りの方はボタンでお知らせください』
その夜、県立観測所に集まった私たちは、天空の城の影響が終わる「狂乱の青い夜」を迎えた。世界樹がエーテルを放出し、世界が輝き始め、私たちは静かになった。
「いつ見ても綺麗」
プラムが感動したように言う。
少し離れていた祐二が私に語りかけてきた。
「瑞樹、このエーテルの光には不思議な力があるんだ。俺たちの心に、何かを響かせる」
祐二は続けて言った。
「俺はこの美しさを、観るものの魂を揺さぶりたい。この一瞬、ほんの3分にも満たない光が、みんなの胸に忘れられない何かを残すように。」
そして、世界樹の優しいエーテルに満ちた大地へ演舞を捧げる時がきた。
私にとっては、演劇部での初めての舞台で、祐二たちと共に短い踊りを披露する。入部してから、ずっと、家に帰っても、時間があれば練習していた。
「はっ!」
たった5分。
だが、観客の拍手が響く中で、私は今日この日、この夜を、この観客の笑顔を決して、忘れはしないだろう。
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