第13話、区役所とマーガレット
『プップー!』「あ、あれ?ここどこだろ?」「横断歩道で止まってんじゃねーぞ!」「あ、すいません」「あ?どこ行くんだ?」「区役所です」「あ?それ、お前の後ろの方向だぞ?迷子か?もういいや、会社の途中にあるから、乗ってけ!」
引越して数日、今日はいよいよ正式な住民登録を済ませるため、役所へ向かう。異世界から来た自分が住民登録をする日が来るとは。
「すいません。」「まあ、困った時はお互い様だ。じゃあな」どうしてか辿りつかず困っていたら、親切な方が区役所まで一緒に来て案内してくれた。
20分もあれば着くはずの役所にたっぷり1時間かけて着くと、遅刻したにもかかわらず住民課の職員が親しみを込めて迎えてくれた。
「橘さん、こちらをどうぞ」と笑顔で書類を手渡される。
職員が丁寧に一つずつ説明してくれるのを聞きながら、私は異世界人である自分を快く受け入れてくれるこの街の寛容さに心が温まる。
「我が街としても新しい仲間サポートに力を入れているんですよ」と職員は私に優しく言い、最後に住民登録証をくれた。
「ありがとうございます。僕のような存在がここで役に立てるといいのですが」とお礼を言うと、職員は「大丈夫、きっと橘さんも、この街に新しい風を吹き込んでくれますよ」と声をかけてくれた。
リリーと役所の前で落ち合い、そのまま研究所に向かう途中、通り沿いに白いマーガレットの花が咲き誇っているのが目に留まった。
「マーガレットってこんなに美しいんですね」と私が言うと、リリーは微笑んで頷く。
「はい、春らしい景色ですね。この国では『真実』の象徴として、役所や裁判所の前などに植えられることが多いんですよ」
「真実ですか」と私は頷きながら花を見つめる。エーテルと共鳴するこの街の光景に、少しずつ自分の居場所が見つかり始めたような気持ちが湧いてくる。
引越してから数日、毎日通っている研究所に着くと、顔なじみになりつつあるスタッフたちが「橘さん、住民登録おめでとうございます」と挨拶してくれた。
異世界から来た自分に対して、どの人も温かく接してくれる。リリーが隣で、異世界から来た人がこの街にもいたことを教えてくれた。
「過去にもいろんな方が来られて、この街の発展に貢献してきたんです。例えば、作家や楽器職人、音楽家や建築家、事務職に優れた方まで。皆さんそれぞれに持っている視点や技能で新しい風を吹き込んでくれました」
「それはすごいですね。私もそんな風に役立てるといいのですが」と言うと、リリーは優しい眼差しを向けてくれる。
「大丈夫です。そんなに気負わず、まずはエーテルの使い方に慣れるところから、少しずつ挑戦してみましょう」
リリーの言葉にここで役に立ちたいという思いが強くなり、私は研究所にある本をより一層、真剣に読み始めた。
「まるで花を通じて街が僕たちと会話しているように感じます」と呟くと、リリーも頷きながら「ええ、橘さんが感じる通り、きっとこの街は何かを語りかけているのでしょう」と応えてくれた。
研究所からの帰り道、バス停前の花壇にはマーガレットが咲いていた。「ここでできることを見つけて、この街に貢献していこう」——マーガレットに向かって笑いかけた。
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