第8話、ヒナギクの灯と振動の誕生
『わふ』「しー」
目の前のテーブルには、小さな歯車や配線がきっちりと並び、今まさに形になろうとしているギアが置かれている。
「‥よし」「次はこれですかね?」「あ、ああ。ありがとうございます」
ギアの大きさは片手に収まる程度の円形のコンパクトなデザイン。中央に嵌める緑色に光るエーテルコンダクターは私の手の中で、その淡く輝いていた。
「あと少しですね、橘さん。この振動装置をライトの向きに合わせてセットすれば、動作も安定すると思います」と対面に座ったリリーが手元を覗き込む。
私は慎重にライト部分を固定し、コンダクターからのエーテルの流れを調整するための微細な配線を丁寧に組み上げていく。
集中しながらギアを組み立てるうちに、私がまだ子供だった頃、祖父の古い時計を分解し怒られたことを思い出した。
「橘さん?」リリーが不思議そうな顔をして私を見つめている。
「すみません、少し昔を思い出していました。機械いじり、好きだったんです。」
リリーは優しく笑った。「エーテルの流れからも橘さんがギアが好きなのはわかります」『わふ!』「ね?」
エーテルコンダクターから発せられるエネルギーが、配線を通ってライトと振動装置に正確に伝わるようにすることが、このギアの要だった。
「なるほど、エーテルの流れをこうやってライトに集中させるのですか。理にかなっています」
一つ一つの部品を正確にはめ込みながら、ギアの形を完成させていく。
『パチリ』
最後にエーテルコンダクターを嵌めこむと、ギアはまるで生き物のように淡い緑色の光を放った。手に持つとわずかな温かささえ感じられる。
「橘さん、完成ですね。さあ、試してみましょう」とリリーが微笑む。
私はギアを軽く握り、彼女が用意してくれた小さな金属板にライトを向けてスイッチを押した。
ライトが金属板を照らした。次に振動装置を作動させる。ギア本体は振動せず、光が当たった場所だけにわずかな衝撃が伝わる仕組みだ。
「カタッ」と軽い音が響き、金属板がわずかに揺れる。
「うまくいったようだね」と私が言うと、リリーも微笑んで頷いた。
「橘さん、初めてにしては素晴らしいです。このギアなら、光を当てた対象にだけ振動を与えることができるので、周囲の注意を引く際にも役立ちます」
ギアが思い通りに反応してくれたことに、私はほっとしつつも達成感を感じていた。
エーテル技術は私にとって未知の領域だったが、リリーの助けもあり、この試作機ができた。
「この仕組みなら、夜道での警戒や緊急時のサインにも使えそうだね」
「そうですね。橘さん、完成、おめでとうございます」『ワン!』
リリーの言葉に、私は頷き破顔した。子どものようにギアを手のひらに乗せてその温かな重みを感じていた。
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