第4話、透き通る青とはっきりした黄色

『ピー〜〜……プシュ〜』


空中を浮くバスに乗ってやってきたクロックタウンの中央広場は、朝の光で活気に満ちていた。朝は食べないが、こうしてみると食べ歩きもしたくなる。


病院から見えた巨大な時計塔がそびえ、その周囲には大小さまざまな歯車が規則的に動き、レンガの壁には透き通った緑色に包まれた銅色の配管が縦横無尽に張り巡らされている。


見上げれば、蒸気を吐き出すパイプや、青空を滑るように移動する機械仕掛けの鳥たち。どこを見ても、蒸気機関とエーテルが生み出す不思議な光景が広がっていた。


「橘さん、ここがクロックタウンの中心広場です。この街で最も賑やかな場所です。」


街行く人はチュニックが多い。職業柄、衣装の研究はしたが、比翼ボタンのスーツにベルベルスカートなどあまり統一感がなかった。今日のリリーはダークブルーのジャケットにブラックのスリムパンツという出立ちだが、生地が違うのか、光沢がある。


アクセサリーは着けてないが太陽の光に反射して差し伸べられた左手に装着された青いエーテルギアが、他の緑のエーテルギアと異なり、独特の輝きを放っていた。


街にはさまざまな機械が稼働しており、歯車と蒸気が行き交う人々の生活に深く根付いているが、リリーの青のエーテルギアはどこか別格な存在感を感じさせる。


観光広場だという広場には、いくつかの露店が立ち並び、歯車をあしらったアクセサリーや小型のエーテルギア、今は地球に合わせれば5月だからか、レモネードなども売られていた。


私が興味深そうに触るとくるくる回るメリーゴーランドのエーテルギアを見つめていると、店員が私たちに気づき、だが、少し緊張した様子で会釈をした。


「いらっしゃいませ」


私が異世界人だからか?と身構えたが、私の格好は街ではありふれた、とても軽い木綿のような生地の赤いTシャツに滑らかなスコットランドスカートと舞台衣装のような服を着ている。


リリーが少し苦笑して、やんわりと次へ促してきた。どうやら、原因は彼女のようだ。


「それ、とても綺麗ですね」


歩き出しながら、思わず口にすると、リリーは少し戸惑ったような表情を見せたが、やがて微笑んだ。


「ありがとうございます。気を使わせてしまいましたね。そうですね、少しだけ説明すると、この青いエーテルギアは、少し厄介な存在でもあるんです」


「どういう意味ですか?」


リリーは静かに答える。


「このギアは、古代からの技術を使ったものなんです。私は義手ですが、本来は非常に強い力を持っています。力の使い方が繊細で不安定なため、少し警戒される存在です」


「この義手程度なら別に危険はないんですけどね」と笑う彼女の言葉に、先程の店員さんがぎこちなくなる理由が分かった。街中で抜き身の拳銃をちらつかせているようなものだろう。


何かあったんだろうか?なぜその特別な「義手」を?だが、少し歯切れの悪い彼女もまた、異世界人の私とは違った意味で「異質」だとわかって、仄暗い仲間意識を自覚する。


僅かに視線を逸らしているリリーの足元の花壇には黄色の水仙が静かに咲き誇っている。この街の、この時期の花壇の、常連「夢を追う花」。


広場の機械と蒸気に囲まれても、その明るい黄色がどこか安らぎを与えている。


「綺麗ですね」


リリーの優しい声が、私の胸に静かに響く。未知の世界で何をするべきかまだ見えないが、この街で何を見つけられるのか——私の新しい人生が、今ここから始まる気がしていた。

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