第29話 田舎の猫 村の生活を謳歌する
さて……
こんな物の存在を知ってしまったらやることは一つだろう。そうだ、世界樹の葉の大量生産である。覚えているだろうか? 私のインドアには植物を超促成栽培できるという能力があることを。 私は早速リーシャに事情を話し、世界樹の苗木を手に入れられないか相談した。するとリーシャは難しい顔をしてこう言った。
「葉から苗木を生み出すのには最低でも数ヶ月はかかるのです。今世界樹の木は若木で、幹を傷つけたりすると枯れてしまう恐れもあるので……」
流石に世界樹そのものをインドアの中に移植するのは危険すぎる。そう簡単にはいかないかぁ……。でも、葉から苗木を作り出す技術はあるんだよね? その方法を教えてくれれば私がちゃちゃっとチートなアレで……
「実はそれも確立されてはいないらしくて……」
作ったのではなく出来ちゃったって事なのね。いや、エルフの一念岩をも通すって事か。同じ行程を繰り返すのに数ヶ月はかかるとして、それが成功するとは限らないって事か。なかなか難しいわね。奇跡というのは再現性のない事象だから奇跡なんだよな。
「それに作り出した人たちはもう同じ事をやりたくないみたいで……」
あー、何となく分かる。このテストで赤点を取ったら留年するという危機に直面して必死で勉強する。その結果奇跡的に赤点回避。じゃ、普段からそのくらい勉強すればいいじゃん? そう言われて「うん」と肯ける人は何人いるだろうか?
ましてや普段のエルフちはかなり怠惰な性格をしている。悠久の時を生きているのだから、明日やればいい事を今日やるなんて事は絶対にしない。几帳面で計画的な生活をするエルフ? それはもうエルフじゃないだろう。葬送のエルフを見れば分かるよね。
あ、アカシックレコード!私は一縷の望みをかけてアカシックレコードにアクセスした。しかし結果はimpossible。アカシックレコードは過去の事象を記録しているだけで、未来予測はできないのだ。
世界樹の苗木が作られたという事象は記録されている。その時の行程も。しかしこの行程通りに行ったとしても、再現性があるかどうかまではアカシックレコードには記録されていない。やってみなければ分からないのだ。
「諦めるのは勿体ないような気がするんだけど、しゃーないかなあ……」
将来的に世界樹が実をつけるようにでもなれば、それこそ劇的な大量生産ができるはずだ。未来に期待しよう。そう考え、私はインドアに世界樹の葉をしまった。
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約1ヶ月の時が流れた。私はなんだかんだで未だファティマ村に滞在していた。心の中では「シーオーシャンに行かなきゃなぁ」という思いはあるものの、「急ぐ旅でもないし、ま、いっかぁ」という思いもあって、ダラダラと日々を過ごしていた。村には私の家も建てられ、もうすっかり村人1である。
移住者たちもここでの生活に慣れ、日々を穏やかに過ごしている。人攫いだった頃のダークな面影を残す者はもういない。そうそう、連れて来られた奴隷達は奴隷の身分から解放され、村人として新たな人生を楽しんでいる。ま、なんだかんだ皆幸せそうで何よりだ。
マーシャさんたちも新しい村人と積極的に交流しているようだ。昨日もカラオケ大会を開いて滅茶苦茶盛り上がった。私? 私も当然参加した。グリーンフィールドの歌姫と呼ばれた私が歌わなくてどうする。
『初耳よね~。しかもローカルだし』
「くっ……」
最近では『キャティ』の煽りもスルーできるようになってきた。私も日々成長しているのだ。ホントなんだよ……
ちなみにカラオケなんだけど、カラオケの機械自体は魔道具である。そして曲はもちろんこの世界の曲が主流だ。でも私が元いた世界の曲もちゃんとあるのだ。不思議かもしれないけど、懐メロってジャンルで伝わっている。きっと過去に転生した人が伝えてくれたんだろうね。ありがとね。
こうした交流会はほぼ毎日行われていて、最近は合コンなるものも開かれているらしい。特にリーシャは、ラフィに呪いをかけられた母親を持つ男と仲良くしているみたいだ。世界樹の葉が取り持つ縁なのかな。いや、もしかしたらこれもまた世界樹の葉の効能なのかも。また一層世界樹の葉の需要が高まった気がする。
ミーシャは妹ちゃんと共に移住してきた男と仲が良いようだ。サーシャが妹ちゃんと仲よくしてる事がきっかけで知り合ったらしい。どうやらサーシャが恋のキューピッド役をしたようだ。
ん? もしかして妹ちゃんと2人で共謀したのか? ミーシャと男が結婚したらサーシャは男の義理の妹になる。妹ちゃんはミーシャの義理の妹に。……ってことは2人は義理の姉妹になるんじゃない? これは計ったな、二人とも……
こうしたカップルが最近村のあちこちで出来はじめていて、村全体に甘ったるい空気が充満していた。
こういう時によく言われる言葉がある。『好事魔多し』。平和というのはいつだって失ってから気づくのだ。
その日ファティマ村に激震が走った。
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