第21話 田舎の猫 奴隷商に行く
日が昇るとすぐに私はテントから出て、ラフィの様子を伺った。まぁ、この近辺には『フィールド』が張ってあるから外部からの攻撃を受ける心配はないわけだけれど。
『フィールド』というのはクローズドフィールドの略称で、簡単に言えば結界のことだ。このスキルがあればインドアに入らなくても安全にキャンプができる。ゆるキャンがしたい時には便利なスキルである。
ラフィがまだ目覚める気配がないので、私はインドアに入って日課の筋トレを始めることにした。昨日はダイエットなんて必要ないと言ったが、やっぱり気になるお年頃ではあるのだ。それにパフォーマンスがピークの時間帯に体を動かすのは気持ちが良い。前の世界の学生時代、ラジオ体操には真面目に参加してたのよ、私は。
インドアの中で一通り日課のメニューを終えると、『クリーン』のスキルで体の汚れを落とす。元の世界でも私はシャワー派だったので、湯船にはこだわらない。奇麗になれば良いのだ。現実主義万歳……
さて、ラフィを起こすことにしよう。この後私は男の家に行かなければならないからね。ラフィも連れて行こうか迷ったけど、頭に血が上りやすい彼女のことだ。男に突っ掛かっていく可能性が高い。揉めるのも面倒なので、男の家には私だけで向かうことに決めていた。
「ラフィ、起きて。起きなさい、ラフィ!」 優しく言っても起きる様子がないので次第に言葉尻がキツくなる。すると、ようやくラフィが起きてテントから出て来た。
「なに……こんな朝早くから。まだ、奴隷商は開いてないわよ……ふわぁ……」
欠伸をしながら彼女が言った。
「今日は別行動をするわよ。貴女は奴隷商に行かなくても良いわ。私が何とかするから」
私が奴隷の取り引きするところを彼女に見せたくない。そんな思いからこう言うと、彼女は慌てたように言った。
「な、なんでよっ? なんで置いていくの?私も行くっ!」
「私はこれからあの男と一緒に奴隷商に行くことになってるの」
そう言うとラフィの目が急に吊り上がった。
「アンタ、あの男とグルなのっ? 母親のことも救ってやってたしっ。私を最初っから騙すつもりでいたのねっ!」
「ラフィ、落ち着いて聞きなさい。私は始めから奴隷商人に用事があってこの町に来たの。そして今日あの男の仲介で奴隷商人に会うことになってるのよ」
「だったら私も連れてきなさいよっ!」
そういう訳にも行かず、私は言葉に詰まってしまった。仕方なく考えた末にこう続ける。
「いい、ラフィ。騙すつもりなら貴女を助けたりはしないわ。大体貴女を騙して私に何の得があるっていうの?」
「そんなの、私も奴隷商人に売り飛ばすとかっ!」
まぁ、そういう結論に至るよな。たった1日で相手の事を信じ切れてしまう方が心配だ。はぁ、めんどくさ……。私は黙って強制的に、ラフィとラフィのテントをインドアへ収納した。
その後私は男のアパートに跳んだ。そして男と落ち合うと男にラビィのことを聞いてみた。その時男が話したことは意外なものであったけど、私としては納得できるものだった。
いくら私だって真の悪党を助けたりしない。男は人攫いに身をやつしてはいたけど、本質は善だったのだ。下手をすると私やラフィよりも善性だったのである。だから助けた。
これは推測に過ぎないが、男のお人好しが原因で多額の借金を背負ったとかそんなところが人攫いに身をやつした原因だろう。ほら、前の世界でもあった他人の借金の保証人になったばかりにってヤツだ。
男の案内に従って奴隷商に出向いた私は、そこでラビィに会うことができた。
「いらっしゃいませですわ~っ!」
可愛く元気に挨拶する彼女の顔には、プロの営業スマイルが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます