第20話 田舎の猫 呪術師と語る

 「名乗るほどの者ではないわ」 

 「いいから、さっさと名乗れっ!」

 そういうのは後で恥ずかしい思いをするからやめとけ。経験者は語るんだぞ……


 「すぐ怒るんだから。カルシウムが足りてないんじゃない?」

  「お友だちを助けたかったらさっさとしなさい? 私が優しくしてるうちに……」

 拳を握りながら私が言うと彼女の態度が一変した。 


 「アンタ、助けてくれるのっ? それを早く言いなさいよっ。私はラフィエット。ラフィエット・ルージュ。ラフィと呼んで頂戴」

 食い気味に彼女が言う。『貴女の命を救ったのは誰でしたっけ?』と言いたいのを我慢して私は続けた。


 「いい子ね。私は虹乃音子(ねこ)よ。故郷のグリーンフィールドからシーオーシャンに行く旅の途中なの」

 「子ども扱いするなっ。これでも14歳なのよっ!」

 『鑑定』したから知ってるんだけどね。この子も『触ったら逮捕』で『ゴメンなさい』な案件なわけだ。


 「了解よ、お嬢ちゃん。取り敢えず『大人』の事情ってヤツがあってね、明日の朝まで待つことになるけどそれでいい?」

 私は敢えて挑発的に言う。さっきからかわれたんだ。これくらいは良いだろう。ラフィはぐっと拳を握り締めながら


 「分かったわ、『お・ば・さ・ん』」

 と言い放った。ほほぉ、ならば戦争だ。

 「やっぱり帰る事にするわね。お疲れ様でした」

 「わぁぁ~っ、ゴメンなさい、ゴメンなさい、もう言いません~っ!」


 涙ぐむラフィを見て私はちょっと大人げなかったかなと反省する。『ちょっと? ねぇ、ちょっと?』と頭の中に鳴り響くキャティの声に中指を立てながら。


 その後ラフィにこの辺りで一番美味しい物が食べられる店へ案内させ、私はようやく朝食にありついた。ラフィも呪いの影響で今までロクに食べられなかったのだろう。一心不乱に食べていた。 朝食後店を出た私たちは、特にする事もないのでダラダラと話をして過ごした。


 彼女と話をして分かったことは、彼女がここから遠く離れたホーリーフィールドという田舎町の出身であること。旅をしながら修行をしていること。ラビィとは旅の途中で出会って意気投合し、一緒に旅をしてきたこと。ところが一週間ほど前にラビィが男に奴隷商へ連れて行かれてしまったこと等々…… 


 まずホーリーフィールドについては、アカシックレコードに頼るまでもなく聞いたことのある名前だった。確か古の時代に聖女が造ったという伝説のある町だ。地形的に交通の要所から離れているので大きな街には発展しなかったが、それなりに由緒ある町である。


 ラフィが旅をしている理由だけど、彼女の部族では子どもが14歳なると旅に出て修行しなければならないという掟があるとのこと。前の世界でも『可愛い子には旅をさせよ』って諺があったしね。独り立ちさせる為にって事だろう。魔女が宅急便の仕事始めちゃったりするのと同じアレだ。え、『かわいい』の字が違うだろうって? いいんだよ、『可愛い』は正義なんだから。


 私の方からは、生い立ちとかシーオーシャンに行く目的とかを簡単に話した。スキルの事については話さなかった。あたおか扱いされるのはご勘弁願いたいからね。


 エルフの村についても伏せておいた。成り行きとはいえマーシャさんの依頼で奴隷取り引きをしようとしてるなんて言ったら、ラフィの私に対する印象が最悪になるのは間違いないもの。


 そうこうしているうちに時間も過ぎ、私たちは先ほどの店に再び赴き夕食を食べた。この世界では通常1日2食だ。その代わり1回の食事量が多い。


 ラフィも私もたくさん食べるので店員が目を丸くしていた。食べられる時にはしっかり食べる。旅をする者の常識だ。ダイエット? そんなものは月曜日のゴミの日に出しておけ。


 何をするでもなく時間が過ぎて行き、夜も大分更けてきた。私としては一度エルフの村に帰っても良いんだけど、このままラフィをほっといて帰るのも何だかなあってことで、この場でキャンプをすることにした。


 インドアから張ったままのテントを取り出すのを見てラフィは目を丸くしていたけど、彼女自身も収納スキル持ちなのでそれ程は驚いていなかった。そして彼女もテントを取り出すと、キャンプの準備を始めた。


 当たり前だけど彼女の収納スキルはインドアのような無制限の容量ではないので、彼女のテントは折りたたまれており、張るのを私も手伝った。 私のテントはマーシャさんたち4人が寝起きしていたものなので、2人くらいは余裕で寝られるんだけどね。出会ったばかりで一緒に寝るのは抵抗があるだろうと思ってお誘いはしなかったのよ。 


 そして次の日の朝が来た。

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