第15話 田舎の猫 策を講じる
「あー……テステス。本日は晴天なり。これは演習ではない。天気晴朗なれど浪高し。そこにブレーキはないんか~?」
……のっけから飛ばすなぁ、あのエルフのおばちゃん……。そう思った途端、マーシャさんの視線が私に突き刺さった。それはもう『ギンッ!』という効果音付きで。
しまった、リンクしたまんまだった……。私は慌ててリンクを切ると、鳴らない口笛をすひゅ~すひゅ~と吹きながらマーシャさんから視線を逸らした。
視線をこちらに向けたまマーシャさんが話し始めた。
「本日はお忙しい中お集まり頂きまして誠にありがとうございます。男性の方々はまだご自分の置かれた状況が理解できないかと思いますが……」 そこからはマーシャさんの街頭演説が30分程続いたんだけどさ、長いから要約して伝えるね。
まず、連れて来られた男性達には帰る術がないこと。……無条件で帰すつもりはないという脅しね。
この村の現在の状況と今後起こるであろう暗い未来について。……人が足りない種も足りないってことよ。
そしてその暗い未来を打開するために、マーシャさんたちが男性達に期待すること等々。
……ナニを期待しているかってことまでぶっちゃけるのはどうなん? ここのエルフって完全に肉食だよね……
選挙演説よろしく最後は「よろしくお願いしまーす」で締めくくったマーシャさんにエルフ村の女性たちから拍手が贈られた。
男性達はというと喜色満面の者が半数、戸惑い顔の者が半数というところだろうか。恐らく喜んでる者達は、住処に帰ったとて家族も恋人もいない連中だろう。多分彼等は喜んで残ってくれるはずだ。エルフと言えば綺麗どころが揃ってるからね。男にとっては最高のハーレム状態だろう。
反面戸惑っている者達はリア充爆発しろって奴等だ。もしくはLGBTQ+のGか。まぁね、非合法な事をやってる奴等程お金は持ってるからね。Money is powerは異世界でも共通なのだ。
そんな彼等に朗報がもたらされる。戸惑っている者達にリーシャが告げた。
「ご家族がいらっしゃる方々にはご提案があります。もしご家族、ご親戚、お知り合いに独身男性がいらっしゃるのあれば、その方を紹介して頂く事を条件にお帰り頂いても結構です。もし複数の方を御紹介頂ければ、この村特産の豪華記念品も差し上げます」
……これはアレだ。前の世界にもあったマルチ商法ってヤツだ。紹介した者の数が多ければ多いほど、特典が豪華になるってヤツだ。
「但し、約束を反故に出来ないよう精霊と契約して頂きますけど」
精霊との契約は絶対である。破った場合は命に関わる重い契約である。
「破った場合、未来永劫子々孫々、お子様の出来ないお身体になりますのでそのつもりで……」
あー、そっちかあ……。個の命より種の存続ね。確かにきっついわ、それ。
男の中から嘆くような声が上がった。
「俺にはよぅ、家族といえば病気の母ちゃんしかいねぇんだよ。親戚もいねぇし、知り合いにも独身の男なんていねぇし。でもよぉ、母ちゃんが心配でよぉ。帰りてぇよぉ……」
涙を流しながら訴える男の姿に、周囲の男達ももらい泣きをする。
「でも私たちも慈善事業ではないので……」
リーシャが冷たく言い放つ。優しい? 人としては尊敬できる? 『平和ボケ』? 誰のことだっけ…… 見かねた私はその男の耳元でそっとアドバイスをした。
「アンタらもさぁ、人攫いなんてやってるんだったら奴隷商人との付き合いとかあるんじゃないの? そっからさあ、売りものにならない奴隷をちょいちょいっと横流しできない?」
人差し指を上に向け、クイクイっと曲げ伸ばししながら私は言った。私のスキルなら四肢欠損していても治してやれる。ラノベでよくある瀕死の奴隷を激安で購入し、再生するアレだ。野○再生工場とも言う。
悪党の上前をはねるようだが、私は結果良ければ『もーまんたい』な猫人なのである。どの道この先奴隷として生きていかなければならない運命なのだ。奴隷にとっても悪い話ではない。最悪下半身が使えればそれでいいのだ。
そしてこの取り引きには損をする者が誰もいない。家に帰りたい男も、奴隷も、売れない奴隷を裁ける奴隷商人も、エルフ村の女性たちも、みんなWINーWINな関係である。現実主義万歳……
その話を聞いた男は目から鱗が落ちたようだった。そしてこう言った。
「あぁ、なんて……なんて……外道……」
「やかましいっ!」
男の脳天に私のかかと落としが決まった。
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