変人ばかりの騎士団に所属する僕は、今日も団長の日課である素振り1万本に付き合わされる。

@kamokira

プロローグ

 僕の名前はランス。ただいま、絶体絶命の窮地に瀕している。


「ひっ..。や。やめろ! こっちくんな!!」


 先端が燃えている木の枝をかざしても、全然いなくなんない。

大抵の魔物はこれで追っ払えるのに....。


 その直後、ガォーという咆哮が僕の鼓膜を震わせた。

真っ黄色の目を近づけながら、

鮮血の付着した鋭い牙をこれみよがしに見せつけてくる。


 先生が言っていた。魔物よりもっと強力で、獰猛どうもうで、

とにかくおっかない奴。見つけたら、音を立てずに逃げろって..。


 決して、”火”なんかをかざして威嚇するなって..。



 頭上に生暖かいよだれが垂れた。臭いし、一着しかない服が汚れた。


 こいつは、、ドラゴンだ..。


 僕は自身の身に迫る死を悟った。もう助からない..。


「大丈夫! 坊や!?」


 その時だった。僕の背後から、何者かが現れた。

月夜に照らされ、全身がくっきりと見えた彼女は、背中から美しい

羽が2本生えていた。


 学校の教科書に載ってた、妖精族ニーフ

って奴にそっくりだ。


「ふん..。ここらはドラゴンの生息域じゃないのに..。

群れから逸れちゃったのね、可哀想に....。

でも! 小さい子供に手を上げようとしたアンタを、

見過ごすわけにはいかないわ!!」


 そう言って、美しい妖精族のお姉さんは、羽から金色の粒子を飛ばした。

昔近くの水田で見た蛍の光と、そっくりだ。


 とにかく、お姉さんが放ったその光の粒子はドラゴンが息を吸うと共に

鼻の中にミルミルと入り込んでいき、


 バタン


 と大きな音を立て、ドラゴンは横たわった。

死んじゃったのかな? 怖くなって、僕はドラゴンに近づいた


 お姉さんが危ないよ! と言って、僕を静止しようとするのにも関わらず。

僕は抜け殻のようになったドラゴンの肉体に触れ、体温を感じた。


「良かった..。生きてる..」


 僕がそう言うと、お姉さんはハテナと首を傾げた。


「..?? ちょっと待ってよ!

そこにいる奴、さっきまでアンタの事食おうとしてたのよ!

それなのに、どうして憐れみなんてかけるのよ..?」


「だって! 僕は死んでないじゃん。それなのに、

この子だけ死ぬなんてフェアじゃないと思ったから..」


 なんて適当に言いつつ、僕は口をアングリと開けたまま目を瞑る

ドラゴンの牙の全てを、根本から切断した。


 それに対しお姉さんはドン引きしたようだ。僕のしている行為を

一歩引いて、俯瞰的に見てからこう切り出した。


「..それが、アンタなりのケジメの付け方なの?」 とー


「ううん! 先生言ってたんだ。

ドラゴンは本来、植物の根っこの汁を啜って生きてたって..。

それなのにいつしか、人間だったり動物を襲うように”進化”したんだって。

だから、牙を抜けばまた植物を食べる生活に戻るかなって思ったんだ!」


 なのに、お姉さんは僕にドラゴンから離れるように促した。

そしてあろう事か、腰からぶら下げた長い剣で、ドラゴンの首を切断したのだ。


「な、なんて事するんだよ!」


「アンタ、名前は?」


「ラ..ランスだけど」


「そう。私は妖精族ニーフのフェアラ。よろしく」


「うん..。よろしく」


「良い? ランス君。先生にこう教わらなかった? 進化は、

短時間に突然変化するんじゃなくて、長い時間をかけてゆっくり起こるって。

つまりね、このドラゴンはもう、ランス君が後何百回生まれ変わっても足りない

ような時間をかけて人間を襲うような牙を持つようになったの。だから、

アンタに牙を奪われた時点でこの子は、もうそう長くは生きていけないのよ」


「え..?」


 妖精族のお姉さんは、先生が教えてくれなかった事を平然と言ってのけた。

この人は、先生より賢いのかもしれない。


「だから。このドラゴンは殺すしかなかったの。

どのみちこうする(首ちょんぱ)つもりだったしね」


「..」


 これが、僕とフェアラの出会いだった。

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