スノードロップ
佐野佐久間
第1話
僕と親友の妙ちゃん《たえ》は都内にある喫茶店で働いている。ここは『スノードロップ』花が由来の店名。こじんまりとした小さな喫茶店。ここは一階が喫茶店で二階がオーナーの家となっている。オーナーの家に住み込みする事が出来る。
今日も今日とて仕事を頑張っていこう。
ガチャと扉を開き喫茶店に入る。
「お疲れ様です!」
元気に挨拶をし、仕事着に着替える。ここで働き初めて一週間。ようやく全部の仕事がこなせるようになって来た。
僕はまだ知らなかったんだ。この喫茶店には裏がある事に。
そして、それに巻き込まれる事になるなんて…
夜。この喫茶店は夜になると店名が変わる。その名は『クローバー』昼間と夜で名が変わる理由は知らないけれど他には無いここ特有のこれが僕は好きだ。
カランカラン!
扉を盛大に開け放ち、「すみません!遅れました!」と大きな声で店内に入ってきたのは親友の[巴月 妙]《はずき たえ》。記憶喪失になる前からの親友らしい。記憶を無くしている僕に初めて優しくしてくれた妙ちゃんの事は大切な人の一人。
妙に対し優しく「おやおや、大丈夫ですよ。」そう言ってくれるのはこの喫茶店のオーナーだ。オーナーは常に冷静で誰にでも優しい。
「おお〜今日も遅刻かぁ?」
そんな事を言うのはオーナーの親友であり、スノードロップの従業員。[香月 宏]《かずき ひろ》この喫茶店で1番の働き者で明るい人だ。彼が居るだけで喫茶店が明るくなる。誰に対してもフレンドリーで働き始めで失敗ばかりの僕に叱らず優しく教えてくれた良い先輩だ。
翌日。スノードロップ開店です。
カランカラン…
扉を開き入って来た最初のお客様は最近良く通って下さるご老人。「すみません…」消え入りそうなか細い声で店員を呼ぶ。「ご注文ですか?」
「珈琲を一杯…」
このお客様はいつも珈琲を一杯だけ頼み。飲み終われば直ぐに帰ってしまう。だがそんな平和が何時までも続くと思っている。
その日の夜。お客様がすくなくなり僕は退勤した。
「亜月〜!風呂入れてきてくれねぇか?」
先輩はいつも僕に風呂を沸かせる。面倒らしい。
いつも通り脱衣所まで来て風呂の扉を開けたその時。僕の視界には湯船を多い尽くすほどの大きなタコの足の様なものがうねうねと蠢いていた。それはまるで何かを探しているかのように。ぬるぬるとしていて気持ちが悪い。僕がその奇妙な光景に耐えきれず「ヒュッ…」と喉から音を鳴らすと同時に誰かが視界を覆う。「静かに…」その声はオーナー、[文月 周]《ふずき あまね》の声だった。僕はその言葉に従い黙り込む…そうして次に聞こえてきたのはオーナーと先輩の話す声。
「宏、頼みましたよ。」
「おう。任せとけ!」
「くれぐれも怪我の無いように」
そんな短い会話だった。僕は視界を覆われたままその場を離れその日は銭湯に行った。翌日の朝。風呂場から先輩の朝声変わりする。「うぇぇ…気持ちワリィ…」風呂場に向かえばそこには血の様なものとぬるぬるとした粘液に汚れた先輩だった。
「大丈夫でしたか!?」
慌ててタオルを渡しながらそう問い掛ければいつもの元気な笑顔で「おう!俺はこの通り五体満足で帰ってきたぜ!」いつも通りのその顔に安心して笑みが溢れてしまった。その時後から「ご無事で何よりです」
いつもの微笑みのまま先輩に話しかけるオーナーの姿があった。そして、「これでまた風呂に入れるぞ!良かったな!」と先輩が言ってくれた。正直まだ不安だったが先輩の言葉には安心する。今日も大学に行き、帰ってくれば喫茶店で働く。そんないつも通りの日常に昨日あった事は完全に忘れていた。
昨日と同じ様に「風呂入れてきてくれ〜!」と言われ風呂場に向かう。そこにはいつも通りの普通の風呂場が広がっていて僕は安心して息がこぼれてしまう。風呂にお湯を張り残りの仕事をしているといつも頑張っているからと一番風呂をさせてもらう事になりるんるんで風呂場に向かう。ちゃんと風呂の風呂だ。
安心しながら髪を洗い、体の泡をシャワーで落としてから湯船に浸かる。「は〜。やっぱ家のお風呂が1番落ち着くなぁ…」そんな事を言いながら湯船に浸かっていると足に何かが巻き付く。言葉を発する隙間も無く僕は引きずり込まれる。
気がつけば謎の異空間に居た。近くには服とナイフ?銃?の様な武器も落ちている。とりあえず服を着て、武器を持ち進む。
進んでいくに連れてって遠くから子供の啜り泣く声が聞こえてくる。(こんな所に子供…?)そんな事を思いなからその声の元に歩いて行く。
「うぅ…グスッ…」
泣いている少年は後から見れば女の子に見える様なぱっつんボブをしている。「どうしたの?どうしてこんな所で泣いているの?」話しかければ少年の泣き声は止み此方を見る。少し広角が上がり何かを呟いたかと思えば先程の様に辛い顔をし
「皆、僕の本当の姿を見ると気持ち悪いって離れてくんだ…」
「それが悲しくって…」
少年がそこまで言うとまた泣き出してしまった。
「僕は君がどんな姿だって素敵だと思うよ?」
「そんなに思い詰めなくていいと思うよ」
なんて声を掛ければ少年は笑みを浮かべ「じゃあお兄さんは本当の姿見ても受け入れてくれるって事?」と問いかけてくる。僕には「もちろん」その言葉しか言えなかった。僕のもちろんの言葉を聞き嬉しそうに僕に見せてきた。
その姿は上半身が先程の少年のまま下半身がタコの様になっていた。タコの足に見覚えがあった。それは昨日見た風呂場のタコの足だった。うねうねと蠢き、ぬるぬるとした粘液が足を纏っていた。腰を抜かしその場に座り込む。少年はそれを見て恍惚に僕を眺めている。
「あぁ…お兄さん…その顔すっごいいいね…」
なんて言われたその時に狼の遠吠えと共に走り此方へ向かう音が聞こえる。次の瞬間には赤い目をした綺麗な毛並みの狼が目の前の半人半タコの化け物に噛み付いていた。それを見て僕は気を失った。
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