大和連邦陸上憲兵隊乙種一三五部隊

Mr.AXIS

第1話・emergency

「ふんにゃぁーーーっ!もう朝かぁ、着替えて食堂行かなくちゃ」


そう言いながらまだベットから出れずにいるその女性の名は南 山奈である。

彼女は去年憲兵隊に新設された「特別入隊制度」を使って入隊し、今こうして憲兵隊の女性宿舎で寝起きしているのだ。

意を決して布団から体を起こした彼女は、歯を磨き、いつも通り軽めに化粧をして着替えると、スリッパに履き替えて部屋から出て行った。

が、戻ってきた。


「危ない危ない。カギ閉め忘れちゃうところだった」


しっかりと鍵を閉めた後、彼女は食堂に小走りで向かっていった。


――食堂


彼女が食堂でミルクティーとサンドウィッチを注文し、テラスの端にある三笠山が良く見えて気持ちいい席に座ろうとしたところ、そこには先客がいた。

彼女の上司である杁中 隼人だ。南は余り彼が好きではないのだが、来ておいて人を見た瞬間に踵を返し、違う席に行くことは失礼極まりないと思い、そのまま座ることにした。


「い、杁中大尉、お早うございます。今日もいい天気ですよね」


「ああ、そうだな。それにしてもお前が自分から話しかけてくるなんて珍しい。今日は米帝の核でも降ってくるんじゃないか?」


「いやぁ...それはないと思いますよ」


そう、南がこの上司を苦手としている理由の一つがこれだ。人命をあまりにも軽視しすぎている。なにせ経費が無駄だと言って山を命綱無しで登るような人だ。

そして二つ目、それは...


ガタタタタッ!タンッ!ガガッ!パキパキパチパチ!ダンッ!


このキーボードの使い方である。今はもう実用的なホログラムインターフェースだって出来ているのに、この人はまだ「友人にもらった」などと言ってかたくなに変えないのだ。


しかしそんなことを言えば嫌味を一時間ほど言われることがもはや予想出来ているため、彼女は脳内でノイズを消し去りサンドウィッチを味わうことにした。


「そういえば大尉ってどんなご飯食べてるんですか?」


「ん?ああ、待ってくれ。もう終わる」


南に話しかけられた杁中は、とりあえず仕事を終わらせることにしたらしい。

保存ボタンを押し、パソコンの電源を切ると自分のバッグにしまった。


「で、俺が何を食べているのかという話だな。今のところ一番食っているのは和食だな。一番好きなのはこの食堂の味噌汁だ。若い別嬪さんが作ってくれるだけあってとてもうまい」


そういうと、杁中は自分の文の朝食を買いに行った。

数分後、熱々の玄米、味噌汁、塩鮭、菜葉の生姜和え、ゴマ団子を乗せたプレートを持ってきた。


「今日は鮭か。食うぞぉ」


南は「別嬪さん」という表現に少し引っかかりを感じながらも、そこに深く触れるのはやめた。彼女にとって重要なのは、今日という日を平穏に過ごすことだ。そうしてサンドウィッチを食べる手を動かしつつ、熱々のミルクティーを一口飲む。


「やっぱりここから見る朝日を背にした三笠山、いいですよね」


南は視線を山へ向けながら、特に相手を見ずに呟いた。言葉に深い意味はなく、ただ場を埋めるためのものだ。


「そうだな」


杁中は箸を動かしながら短く返答した。


「この山には昔、砦があったんだぞ。お前、知ってるか?」


「え、そうなんですか?」


南は思わず驚いた声を出す。自分の知識不足を少し恥じながらも、杁中の話に興味を抱いた。


「ああ、四国戦争時代の話だ。まぁ、今はもう何も残っちゃいないがな。この食堂から見ると、ちょうど右の中腹のあたりに拳国の旗が掲げられていたらしい」


杁中はそう言って、味噌汁をひと口すする。その様子は全く気取らず、飾り気のない自然体だ。


南は内心で歴史好きだった彼の意外な一面を感じつつ、少しだけ笑みを浮かべた。歴史の話をする杁中は、普段の無遠慮な態度から少し距離を置いた雰囲気があった。


「砦かぁ…。それなら今度、休みの日に三笠山を登ってみようかな」


「お前が登る? おっと、それなら俺が付き合ってやるよ。命綱なしでな!」


杁中は茶化すように言いながら、南を見て笑う。


「いや、命綱なしは絶対無理ですって!」


南は慌てて手を振る。彼女は冗談に付き合う余裕を持ちつつも、実際にはそんな無茶なことを考える上司に少しだけ頭を抱えていた。


そんな会話を交わしながら、それぞれの朝食は順調に進んでいく。やがて、南のサンドウィッチも、杁中の味噌汁も最後のひと口を迎えた。


「さて、俺はそろそろ行くか。今日も忙しいからな」


杁中はプレートを片付けながら立ち上がる。その背中は少し猫背で、だがどこか憎めない雰囲気を漂わせていた。


「それじゃ、また後で。お前も遅刻するなよ」


彼は片手を軽く挙げて南に声をかけ、プレートを返却してそのまま食堂を出て行く。

南は彼の後ろ姿を見送りながら、小さくため息をついた。


「本当に、朝から面白くて、うるさい人だなぁ…」


その後、南はしばらくテラス席で三笠山を眺め、時間が許す限り穏やかなひと時を楽しんだ。そして、今日も憲兵隊員としての一日が始まる。

南は食べ終わると食堂のテラス席を離れ、女性宿舎に戻るため廊下を歩いていた。

だが、何故か遠くから聞こえてくる低い重低音に足を止める。最初は気のせいかと思ったが、次第にその音は耳障りな轟音へと変わり、振動が建物全体を揺さぶり始めた。


「何、あれ…?」


窓の外を見上げた南は、目を疑った。遥か彼方の空に、巨大な飛行船が二隻、堂々とした姿で浮かんでいる。空の巨人とも言えるその姿に、一瞬見惚れた南だったが、続く爆音が現実を引き戻した。別の方向には、さらに四隻の飛行船が編隊を組み、爆撃を開始していた。


その飛行船に書かれている紋章は要注意反社会団体「正義の鉄槌」――平和的な前政権の復活を掲げる過激派組織だ。彼らは近年、地下活動を続けており、これほど大胆な攻撃を仕掛けるのは前例のないことだった。


「これは、ただ事じゃない…早く知らせなきゃ」


南は慌てて宿舎の階段を駆け上がり、自室に戻るとすぐに備え付けの通信機に手を伸ばした。しかし、通信はすでに遮断されているようだった。


「嘘でしょ…もう電話線も切られた上にネットもつながってない!」


外の状況を確認するために再び窓へ駆け寄る。そこで南は新たなものに気が付いた。飛行船から降下してくる小さな影――空挺部隊だ。市街地へと続々と降り立つ彼らの姿に、南の背筋に冷たいものが走る。


そのとき、食堂から出たばかりの杁中が大声で叫びながら走ってきた。


「南!早く戦闘準備をしろ!これは演習じゃない、本物だ!」


彼の声に背中を押されるように、南は棚からワルサーP51と短刀を取り出す。


「でも、どうするんですか?あんな巨大な飛行船にどうやって立ち向かうなんて私じゃ無理です!」


「どうするもこうするも、命令を待つんだ。現状では部隊単位の動きになる。俺たちは防衛線の形成に加わるぞ!急げ!」


杁中はそう言いながら、南と数名の部下を連れて宿舎から出た。二人は基地中央部の指揮所に向かう途中、既に配備されている対空砲が火を吹いているのを目にした。しかし、飛行船の装甲は極めて強固で、対空砲火はほとんど歯が立たないように見えた。


「敵の狙いは何だ…?」


杁中は小声で呟いた。大規模な爆撃と同時に地上部隊の投入を行うということは、この地区を完全に掌握する意図があるのだろう。だが、なぜこの場所なのか、疑問は尽きなかった。


突然、上空の飛行船から広報のような声が響き渡った。


「大和連邦の市民たちよ。我々は『正義の鉄槌』である。今こそ独裁政権に立ち向かう時だ!平和的な前政権を取り戻すため、力を貸してほしい。共に未来を築こう!」


南はその声を聞いて表情を硬くした。確かに総統率いる独裁政権の下、全てが平和であるとは言えない現実も知っている。しかし、だからといって、こんな暴力的な方法で何かを変えられるとは到底思えなかった。


「正義を名乗る奴らが最も暴力的なのは、いつの時代も変わらねぇな…。」


杁中は毒づきながら、指揮所へと急ぐ足を早める。

南もその後に続きながら、胸の中に芽生えた不安と恐怖を振り払おうと必死だった。この戦いの行方は、誰にも予測できなかった。

指揮所に到着した南と杁中は、混乱の渦中にある隊員たちの姿を目の当たりにした。通信班が必死に他地区憲兵隊との連絡を試みる中、指揮官たちは巨大なデジタル作戦図を囲み、次々と指示を飛ばしている。


「杁中大尉、南伍長、到着しました!」


杁中が敬礼しながら報告すると、作戦本部長が振り返り、即座に指示を下した。


「お前たちは即刻第3防衛ラインへ向かえ。東側から敵の空挺部隊が侵攻している。ここが突破されたらこの地区は終わりだ!」


「了解しました!」

杁中は南を連れて指揮所を出ると、基地の裏手に停めてあった装甲車に乗り込んだ。


「防衛ラインって…戦車や重火器が配備されているところですよね?私たちがそこに行って何を…?」


南が不安そうに問いかける。


「お前はまだ新米だから分からないだろうが、こういう状況では何よりも士気が重要なんだ。大勢の人間が戦場に立っている、それだけで防衛線が崩れるのを防げることもある。だから、とにかく前に立つんだ。」


杁中の言葉に覚悟を決めた南は、拳をしっかりと握りしめた。杁中達が第3防衛ラインに到着すると、すでにそこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。敵の空挺部隊は多方面からゲリラ攻撃を仕掛けてくる。


「全員配置につけ!敵をここで食い止めるんだ!」


杁中が部隊に向かって叫ぶ。その声に応じて隊員たちは持ち場を固め、南も近くの塹壕に飛び込んだ。


――そのとき。


上空の巨大飛行船から再び爆音が響き渡る。次の瞬間、巨大な火球が基地の端を吹き飛ばした。爆風で地面が揺れ、南は耳鳴りを感じながらも必死に起き上がる。


「くそっ!対空砲が役に立たないなら、何か別の方法を考えねば…!」


杁中が歯ぎしりしながら周囲を見渡す。すると、一台の放置された対空車両に目が留まった。


「南!あれを使うぞ!」


「えっ?私たちで対空砲を使うんですか!?」


「誰もいないならやるしかないだろうが!」


杁中は南を引っ張るようにして対空車両に乗り込む。急ごしらえの操作指導を南に施しつつ、彼女に銃座の操作を任せた。


「撃て!あの飛行船の右後部エンジン部を狙え!」


南は汗で手が滑るのを感じながらも、必死に引き金を引いた。銃座から放たれる弾丸が飛行船の下部をかすめ、装甲に弾かれながらも、エンジン近くにいくつかの命中弾を見た。


「やった…!でも、まだ…!」


しかし、その喜びも束の間、敵の飛行船が反撃に出る。爆撃が対空車両の近くに着弾し、轟音と共に炎が吹き上がる。杁中が南をかばうように覆いかぶさりながら叫ぶ。


「南!生きてるか!?」

「は、はい!でも、これ以上は…!」


「まだ終わっちゃいない!」


杁中は荒い息をつきながら、無線機のスイッチを入れる。


「こちら憲兵隊乙種一三五小隊!空軍の近接航空支援を要請する!」


上空では、戦局を見守る巨大な飛行船がなおも悠然と進軍していた――その静かな威圧感の裏に、南の決意が試される戦いの続きが待ち受けている。


――――――――――――――――——————――――――――――


今回は思い切って美少女を登場させました。設定はあらすじに書いてあります。読んでください。

因みに南は殺すか殺さないか迷ってます。


★と♡、ぜひよろしくお願いいたします!

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